3-3 能力者のランク分け
「例えばこのD級、このランクは4百89万5千512人が登録されているわ、そしてC級には37万8千183人が、つまり能力者の大半がこのDかC級になるってわけね」
「随分偏ったランク分けだな」
「ただその分D級やC級以外の人間ていうのはそれなりの力を持っているわ。そもそもこのゲームに参加しているような人間はほとんどD級やC級の人間なんていないはずだしこれはあまり気にしなくていいかもしれないわね」
「それじゃそのBから上のランクってのはどうなんだ?」
「B級は139人、A級は17人よ、正直B級までなら戦えないことはないわね。むしろ生身でも武器さえあれば充分に戦える」
「そうなのか」
「そもそも能力っていうのは本来戦闘向きのものなんてそうそうあるものじゃないのよ、私の能力も能力だってB級の位置づけだしね」
「俺はお前の能力ってやつを知らないんだがな……」
「そこまで詳しく教えてあげる義理はないわよ」
あくまでも必要最低限のことしか教える気はないといったようにアーニャは言い切った。
「それじゃあそのA級ってのはそんなにヤバイやつなのか?」
「ええ、A級についてはECSの人間でも近づきたくないような奴等ばかりよ。例えば【十字架を背負う者達】や【血を啜る悪魔】なんていう有名な犯罪者集団があるんだけどそいつらの幹部連中は大体このAランクね。人間力を持つとどうにも性格が歪むらしくて、このA級のうち14人が私達の確保又は処分対象になっているわ」
「ならそのA級の奴等はここに……」
「そう、私達の情報じゃB級28人、A級9人が参加していることが分かっているわ」
「9人……つまり生き残るにはそいつらとの戦いは避けられないってわけか」
「そういうこと、ちなみにあなたにも分かりやすくA級一人一人の戦力を分かりやすく言うならそうね、ウサギが狼に挑むようなものかしらね」
「笑えるぜ……」
雅史は始まる前からこのゲームで生き残るのは無理だと思っていた。
しかしいざ現実を突きつけられると流石に何も感じないというわけにはいかない。
「さてと」
そういうとアーニャは先程の木の棒でピラミッドの横にまた新しい何かを書きだした。
「S……?」
そこにはSと書かれている。
「ここからが一番大事な話になるわ、確かにA級の奴等は全員化け物に違いはないわ。でもね、さらにその上のS級ってのが存在するの」
「……何かの悪い冗談か何かか?」
「いいえ、これは本気よ。S級に認定されている人間は世界中でもたった5人だけ、こいつらははっきりいってどう足掻いても勝ち目はないわ」
(こいつわざと最初にS級について書かなかったな)
「まぁ参加しているのは2人だけらしいけどね、でもまぁ出くわしたら諦めなさい」
「一応聞いとくがそいつらの特徴は?」
「そうね、容姿がはっきりと判明してるのは一人だけでボレロ・カーティスっていう女よ。外見まだ10代半ば、雪のように真っ白な肌に青く長い髪が特徴だわ。彼女は氷の女王って呼ばれていて、絶対零度っていっていうあらゆるものを凍らせてしまう能力がある」
「んー、それってそんなにやばいやつなのか? 凍らせるくらいならなんとでもなる気がするが」
「馬鹿ね、凍らせる規模が違うのよ。彼女は過去にスペインのある町を一つまるごと凍らせてその町の住民約3000人を殺害したことがあるわ」
「3000て……」
「さらに恐ろしいのは彼女はその凍らせた住民を食べてしまったってこと」
雅史は背筋がぞっとするのを感じた。
まるで本に出てくる魔女そのものだ。
「そしてもうひとりはさっき少し話した犯罪者集団の一つ【十字架を背負う者達】のリーダー、本名は分からないけれど自身はクライムって名乗っているわ」
「クライム……」
「ええ、こいつに関しては組織がやってきた行為や危険性からこのSランクに認定されているわ、もちろん能力もかなりやばいって話だけれど」
「なるほど、そいつらがかなりやばそうだってのは分かった、ただ正直ここまでの話しがぶっとびすぎて理解には時間がかかりそうだ」
「でしょうね、まぁこれだけ話してあげたんだから少しは長生きしなさいよ。何か他に聞いておきたいことはあるかしら?」
「そうだな、なんか今更ではあるんだがあんたはなんでそこで倒れてたんだ?」
「……」
アーニャはここで雅史に今までの経緯を話すかどうか躊躇した。
助けられたとは言えまだこの男を信用したわけではない。
「まぁ言いたくねえならいいけどよ」
「……いいわ、教えてあげる」
アーニャはここに至るまでの経緯を話した。
ジャンやオリビアの能力の事はなるべく話さずにリアンという男に裏切られたことと、ファフニールと呼ばれるドラゴンについて。
「なるほどな、それでこれからどうするつもりなんだ?」
「あいつがそう簡単に死ぬとは思えないけど連絡がない以上は迂闊に動けないわね。今日一日待って何も連絡がなければさっき話した仲間を探すつもりよ」
「ならよ、俺もあんたの仲間探しに協力するよ」
「は? どうして?」
「いや、正直俺も仲間が欲しいとこだしあんたも一人で探すよりか二人のほうが何かと都合もいいだろ」
「足手まといはごめんよ」
「分かってるさ、最悪の場合は俺を置いてあんただけ逃げればいい」
「……いいわ、ならまずあなたがこのゲームでどうしたいか教えてくれる?」
「あー、俺はこのゲームを仕切ってる神とやらに一泡吹かせりゃ充分だと思ってる」
「ふーん、そう」
「いやいや、あんたこのゲームの褒美が目的なんだろ? いいのかよ俺が神の敵でも」
「別にいいわよ、生き残ることなんて二の次よ。それに私は褒美なんかに興味はない。復讐を遂げられれば後はどうなったって構わないわ、それにあなたが生き残るとも思えないしね」
「そうかい」
生き残ることが目的ではない、それは恐らくアーニャだけが特別というわけではないのかもしれないと雅史は思った。
強制参加ではない以上このゲームには思ったよりも様々な理由で参加する奴等がいるのかもしれないからである。
「まぁせいぜい私の弾除け程度には働いてね、市原 雅史くん」
「それが恩人に言うセリフかよ、つくづく性格悪そうだなあんた」
「恩人なんてお着せがましいわ、あなたが起こさなくてもすぐ起きてわよ」
「こいつ……」
「それはそうとここは安全とは言いにくいわね、今からどれくらい待機するかは分からないけど最低限の安全は確保したいところね」
「ならあそこはどうだ?」
雅史はある方向を指さした。
そこには小屋のような小さい建物の屋根が見える。
「いいわ、まずはあそこに向かいましょう」
そう言ってアーニャは一人で小屋に向かって歩いて行く。
「おいおい、さっきまで倒れてたんだからもう少しくらい──」
雅史が呼び止めるのとほぼ同時にアーニャの身体が傾いた。
即座に雅史はアーニャの肩を掴んで体勢を整える。
「ほらいわんこっちゃない」
「き、気安く触らないでくれる!」
そういってアーニャは雅史の手を振りほどいてまた歩き出してしまった。
「この女……」
文句を垂れながらアーニャの後ろを注意しつつ歩く雅史。
時刻は10時22分、ゲーム開始から5時間以上が経過していた。
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