3-2 2人の出会い
(おばあさん?)
川辺に横たわる白髪の髪の人間はピクリとも動かず、完全に意識を失っているようであった。
「生きてんのか……?」
先程の事が頭から離れず思わず警戒する雅史。
放置しておこうかとも考えてみるが何かしらの情報が得られるかもしれない上に相手は老婆らしき人物である。
このまま放置していれば他の参加者に見つかり殺される可能性が高い。
しかし助ければ自分が先程の男のように殺されるかもしれない。
悩んだ末雅史は老婆と思しき女性を助けることにした。
それは賭けであったが、目の前で死にかけの老人を見捨てることが出来ないという至極真っ当な思いが勝ったのだ。
念のため恐る恐る近づいてみるがやはり動きはない。
近くの枝で突いてみても無反応である。
「死んでるのか……いや、ルール通りなら死んだら心臓っていうのになるんだったよな……おい、大丈夫か?」
「……」
返事はない。
危険を承知で身体を揺すって起こすことにした。
念のため大きめの木の棒を構えつつ老婆の身体を揺する。
「おい、起きろ、おい」
触ってみると服はかなり水を吸っていて、川をかなり流れてきたことが分かる。
「う、うーん……」
可愛らしい呻き声のような反応があった。
それと同時に咄嗟に身を引き雅史は木の棒を構えた。
雅史の行動に気づいている様子はなく老婆はゆっくりと顔を上げる。
「ここは……」
その顔を見て雅史が最初に思った感想は人形だった。
美しく輝く白い髪、青い瞳に大きな目、そして透き通るような白い肌。
それはまるでアメリカンドールと呼ばれる人形だった。
「外国人……?」
老婆と思っていた人物はまだ10代後半ぐらいの少女だったことに雅史は面喰らった。
キョトンとした顔で雅史を見ていた少女だったがすぐにその顔は険しくなり雅史を睨みつけるような目つきに変わった。
「……あなた何者?」
「そ、そっちこそ何者だ?」
「質問を質問で返さないでくれるかしら。質問しているのはこっちよ」
見た目とは裏腹に強い口調で問いかけてくる少女に思わず面を食らう雅史。
「お、俺は市原 雅史、ここで休憩してたらあんたがそこで倒れてたから起こしてやってたんだよ」
「……は?」
雅史の言葉に少し間を置いてから意味が分からないといった顔をする少女。
「だからそこで寝てたらあぶねぇと思って」
「……あなた何を言っているの」
少女は雅史の話を全く理解ができなかった。
なぜ自分がそこで隙だらけで寝ているのに関わらずわざわざ起こしたのかと。
「えーと、つまり私がそこで寝てたら他の参加者に狙われるかもしれないから起こしてやったと?」
「まぁ結果的にはそうだな」
(老婆だと思ったことは言わない方がよさそうだな……)
「そう、とりあえずは敵じゃないってことでいいのね?」
「あぁ、そうだ」
そういうと少女は警戒を解いたようで睨みつける目を止め、ふぅと息を吐いた。
「ところであんたの名前は?」
「私? 私の名前はアンナ・エヴァン・イリイーチ、呼ぶときはアーニャでいいわよ」
「やっぱ外国人か、随分日本語上手いんだな」
「は?」
先程と同様にこいつなに言っちゃってんの? といった顔でアーニャは雅史を見つめる。
「あなたそれ本気で言ってるのかしら?」
「ん? 俺なんか変なこと言ったか?」
ここでアーニャはガブリエルの言葉を思い出した。
(このゲームの存在を知らずに参加した奴がいるって話、まさか……)
「一つ聞いていいかしら」
「ああ」
「あなたまさか自分の能力を知らないってことはないわよね?」
「な、なんで知ってんだ……」
思わず動揺する雅史。
「なるほどね、あなたがあの天使の言っていた……とんだ馬鹿に助けられたもんだわ」
頭に手をやり溜息をつくアーニャ。
「まぁ起こしてもらって助かったのは事実だし仕方ないわね。私でよければあなたの知らないこと色々教えてあげるわ」
「ほんとか!? それはありがてえ」
「それじゃまずはあなたの知っていることを聞かせてもらっていいかしら?」
「ああ」
雅史は自分が突然この世界で目覚めたことから今に至るまで得た情報をアーニャに詳しく話した。
話している最中アーニャはいくつか疑問に思ったことがあったようだったが静かに雅史の話を聞いていた。
そして雅史の話を聞き終えるとアーニャは口を開いた。
「腑に落ちないわね、あなたの担当の天使のミカエルだったかしら? あなたに何か隠してるみたいね」
「ああ、どうも俺の夢に関して何か知ってるみたいなんだが」
「もちろんそれもそうなんだけど私達はあなたと違って強制的にゲームに参加させられたわけじゃないのよ」
「な……それ本当か?」
「本当よ、私達は皆なにかしらの思惑があってこのゲームに参加してる。だからあなたのように強制的に参加してる人間なんていないはずなのよ。それにあなたの夢の話に関してもそうだしそのミカエルってやつどうも怪しいわね」
「なんだってそんな嘘を…?」
「さっぱりね、そもそも天使は自分の担当している人間が生き残れればそれなりの褒美も出るって話だし自分の担当している人間が不利になるようなことはしないはずだけれど……」
雅史はあらためてミカエルとのやり取りを思い返し、何かを隠しているという疑問は確信へと変わった。
「まぁそれは後々本人と話す時にでも聞いてみましょう。それで話を聞く限りルール自体は把握してるみたいね」
「まぁ一応な」
「それはよかったわ。なら細かい説明になるけれどさっきの私が日本人かってところね。結論から言えば私は日本人ではなくロシア人よ。日本には行ったこともないしもちろん日本語なんて話せないわ」
「でも現に今話してるように聞こえるが?」
「それはそう聞こえるだけ、ここの言語は私達の住んでる人間界とは全く別の言語らしいの。どんな言葉かは知らないけれど私達はここに来た瞬間からここの人間、話すも聞くも、もちろん読み書きも自然とここの言語になるらしいわ」
「なるほどな、つまりは世界中の人間と意思疎通が可能ってわけか」
「そういうことね。あとは能力についてだけどあなたが元々知っている知識とは随分変わってくるわね」
先ほど地形の変わり様を見たばかりの雅史はやはりそうかと思った。
「能力ってのは大体10人に1人、つまり世界中で見れば10億人近くの人間が最初から持ってるものなの。ただし能力を使える人間は極わずか、自身の感情に何か大きな刺激を与えた時に覚醒するって話だわ」
「10人に1人!?」
雅史の知っている能力を持つ人間は1千万分の1の確率で生まれるらしく、世界には500~700人ほどしか能力者はいないという話であった。
10人に1人が能力者ということに驚く雅史であったが、アーニャはさらに雅史の知らない話を続ける。
「それにあなたが聞いた都市伝説っていうのもあながち嘘ばかりってわけじゃないわね。なにより私自身もその能力を悪用する連中を捕らえる組織ってのの一人だしね、正式名称は「超常現象対策協会」通称「ECS」と呼ばれているわ」
「ていうことは能力者ってのは俺が知ってるよりもずっと世界に認知されてたってことか……?」
「そういうこと、能力者自体はそれこそ昔から存在してたらしいけど表立って騒がれ始めたのは大規模テロがあった2001年頃からかしらね」
「あれも能力者の仕業だってのか?」
「ええそうよ」
今まで自分が認識していた世界ともう一つ、世界の裏の顔という部分を垣間見ているような気分になる雅史。
それは驚きと若干の恐怖が入り混じったものであった。
「でもまぁそれはこのゲームにはあまり関係のない話ね。重要なのはここから、このゲームに参加している能力者の話しよ」
アーニャは近くにあった木の棒を使って地面にピラミッド型の図形を書いて中に3つの線を横に引いて上からA、B、C、Dと記号を書いていく。
「私達が現在把握している能力者の数は総勢5百27万3千856人、ECSの基本的な活動は大きく分けて3つで、危険と判断された能力者の確保、監視、そして処分よ。私達はその仕事の性質上、把握している能力者をランク分けしているの、ランクはその能力者の能力と危険度、そして経歴によって分けられているわ」
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