最終話 君は、独りじゃない
澄み渡る青空の下。
緑に囲まれた山道の中を、赤いマフラーを靡かせる騎士が、一頭の馬に跨り静かな山道を歩んでいた。その後ろに、艶やかなブラウンの髪を持つ少女を乗せて。
風のせせらぎ。小鳥のさえずり。それだけが響く、穏やかな道。その道程を歩む彼らは……腰に、一振りの剣を提げていた。
この争いとは無縁な世界には、到底そぐわないものを。
「……」
「ダタッツ様、あれが……?」
「えぇ……そうです」
彼らはその道中にある、丘の上へと向かい――そこから、一面に広がる森を一望できる景色を見下ろしていた。
その中には――笑顔を浮かべてのどかな毎日を送る、山村の人々の様子も伺える。かつての争いも悲しみも感じさせない、力強い生気が、その空間から噴き出しているようだった。
「……」
そんな、笑顔の中には――騎士がかつて愛し、守ろうとした。亜麻色の髪の、美女の姿もあった。彼が想像していた以上に、見目麗しく成長した彼女は、溌剌とした笑みを浮かべて平穏な日常を過ごしている。
その光景を遠い高みから見つめる騎士は――暫し瞼を閉じ。思い出に別れを告げ、穏やかな笑みを浮かべた。
(……最後に。君の笑顔に、会えてよかった)
そして、前を向くために眼を開き、青空を仰ぐ。その視界に広がる澄んだ空が、騎士の心を満たしていた。
「ダタッツ様……」
「――さぁ、参りましょう。ジブン達を、待っている人がいる」
不安げに自身を見つめる姫君に、華やかな笑顔を向ける彼は。そう呟くと、手綱を引いて馬を転進させていく。もう二度と、振り返らぬように。
(……ありがとう。ベルタ)
そうして、彼らは丘を降りると。山道へと戻り、本来歩むべき道へと帰っていく。騎士の故郷へと続く、長い旅路へと。
そして。
そんな彼らの背を、小鳥達の囀りだけが見送っていた。
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
――そして、終戦から六年を経た今。
男の旅路は、今も続いている。
だが。
その旅路は――もう、独りではない。
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