第21話 勇者の剣の実態

「――よくぞ、勇者の資格を勝ち取ってくれたな。タツマサよ。これで余も心置き無く、貴君に『勇者の剣』を授けることができる」

「はい。……ありがとう、ございます。皇帝陛下」


 ――その夜。

 竜正はバルスレイに連れられ、謁見室へ訪れていた。広大な真紅のマットや絢爛な装飾で彩られた謁見室は、静寂に包まれており……この場には皇帝とバルスレイ、竜正の三人しかいない。

 玉座の前に立つ皇帝の前に、並んで跪くバルスレイと竜正は、静かに主君の言葉に耳を傾けていた。


「フィオナは貴君を大層気に入っているようでな。……これからも勇者として、あるいは友として、支えになってくれ」

「……皇帝陛下。俺は――」

「わかっておる。戦争が終われば、約束通り元の世界に帰そう。娘の傍に居てくれぬのは心残りであるが、母上の元へ帰りたいという貴君の願いに背きはせん。――今は、この戦を終わらせ、いたずらに犠牲者を出さないことが先決なのだ」

「……はい」

「療養中のフィオナも、それを望んでいるはず。余は、そう信じておる」


 そして――皇帝は装束の懐へ手を伸ばし。古びた包帯で包められた、一振りの剣を掲げた。


「そのためにも今は、勇者である貴君と――この『勇者の剣』が必要なのだ」

「……これが、勇者の……」


 剣を手に、皇帝は玉座から竜正の前へと、静かに足を運ぶ。やがて、勇者である少年の前に――その剣が捧げられた。


「包帯を取るがいい。貴君には、その権利がある」

「……」


 「勇者の剣」が纏う、ただならぬオーラ。包帯の上からでもわかる、その威圧を受け――竜正は、言葉を失っていた。

 そして、そのまま皇帝の言葉に無言で頷き、彼は剣を取る。……次いで、その感触に、彼はある違和感を覚える。


(なんだ……この形。この国の騎士達が使ってる剣と、全然違う)


 「勇者の剣」と聞いて、帝国騎士の剣に近い形状を予想していた竜正にとって――実際に触れた「勇者の剣」のシルエットはあまりにもイメージからかけ離れていたのだ。


 ――これは、まるで……。


「……!」


 吸い寄せられるように手を伸ばし、包帯を巻き取って行く。彼の脳裏に渦巻く「まさか」という感情は、剣が包帯から露出していく毎に膨れ上がって行く。

 そして――黒く塗られた剣の鞘が完全に露わになる時。その「まさか」は、確信に変わった。


「これ、は……」


 黒塗りの鞘。微かな曲線を描く刀身。柄巻きを施された木製の柄。

 それは、少年がよく知る形だった。


「これぞ、数百年前に召喚された先代勇者が、魔王を打ち破るために用いた伝説の神器――『勇者の剣』。貴君にはこれを以て、我が帝国に力を貸して貰いたい」

「……」


 鼓舞するような口調で語り掛ける皇帝に対し、竜正は無言のまま「勇者の剣」の全貌を見つめる。


(これが「勇者の剣」って……! だって、これ……)


 そして――異世界から来た自分にしかわからない「勇者の剣」の「別称」を、呟くのだった。


「日本刀、じゃないのか……!?」

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