Prg-b Page.02
「それじゃあ、行ってきます。戸締りよろしく。君さえよかったら僕のベッドを使っていいから、眠っていてね」
「ありがとう。それじゃ、遠慮なくお借りします。いってらっしゃい、
惟姫は扉を離れて歩き出すが、見送る
「もう戻っていいよ!」
極力優しく聞こえるように声を飛ばすが、にっこり笑って手を振り続けたまま、銀髪の少女は玄関からこちらを覗いている。
惟姫が、これは僕の姿が見えなくならないと引っ込まないな、と思い足速に階段に飛び込む。部屋の玄関と同じ側なので、2、3段降りてしまえば部屋の玄関から姿をうかがい知ることはできない。
「惟姫くんが帰ってくるの、待ってるね!」
ところが、惟姫が期待した奥に引っ込んで扉が閉まる音よりも先に、先ほどの惟姫の声よりも少しだけ控えめな声量の羞恥の色を含んだ声色で、なんとあろうことか返事が返ってきた。その次にやっと期待していた扉の綴じられる音と、施錠する音がした。
ーまったく、これじゃまるで…
「これじゃあまるで新婚みたいだな惟姫様よおおおおお!!」
と、いう声とともに後ろから首に圧力を感じて、軽く前につんのめったせいで下段に下ろしていた足が踏ん張ってしまい、階段を下りる足が止まってしまった。。惟姫が階段を下っていようと、おそらくバンジージャンプのジダイブポジションであろうと関係なくそんなことをしてくるであろう声の主はー
「か、
同じクラスの、
「聞いてた聞いてたばっちり聞いてたっつうかもうなにあれ姉妹従姉妹再従姉妹?母親じゃねぇよな?誰だあれあの声の主は誰だ教えろください惟姫様っつうか今ここに全て吐け姫様」
腕を首に組んだまま矢継ぎ早に息継ぎもしていないように捲し立てるクラスメイトの紘斗加陽。しかも惟姫の顔と距離が近い為に加陽の唾が飛んでくる。
「ちょ、ちょっと!落ち着いてくれ
「誰なんだよ誰だあれはおい」
相変わらずしつこく問い詰めようとするが、惟姫は学校に遅れるよと声をかけて階段を下りていく。
「ところで…見た?」
「いや姿は見てないけど、こんな朝っぱらからあんな可愛い親友を呼ぶ声を響かせられたらたまったもんじゃねーよな!」
階段を下り切るまではまだ1階層分あるが誰も合流しておらず、この場には惟姫と加陽しかいない。誰に言っているのだろうか。
「誰に言ってんの?」
「恐らくは俺と違って姿を見たであろうその辺の妖精さん」
「また適当に。そんなんだから振られるんだよ」
残り半階分となったところで惟姫が言い放つと、二組聞こえていた足音が一組に減った。
「…どうしたの?」
「……惟姫。なぜそれを知っている」
「何でって、昨日の夜メールくれてたじゃんか。俺の春が終わったからやけコーラしようぜしてくれ頼むぜお願いしますー、みたいなやつ」
「知らん」
シラを切ると歩行が再開した。
「ごめんね。昨夜ちょっとあって、すぐ返せなくて」
「知らねぇ!」
歩く。
「まだ振られてないんだったら、今日僕の部屋にいたあの人紹介しなくていいかな」
「ごめんなさい惟姫様紹介してくださいお願いします何でもしますってか、いいのか?」
「なんで?」
ここにきてようやっと、いつも通りに普通に並んで歩くことに成功する。
「あの人、惟姫の特別ななんかだったりしねーの?」
「そんなこと…第一、そんな人がいるんだったら、
一瞬の間。
若干周りに、同じ学校の生徒が増えてきた。校舎を中心に広がっている通学路が徐々に収束されつつある証拠だ。学校も近い。
二人は歩みを進める。
「そ、そうか」
「そうだよ。そんな大事なことがあるなら、勝率は置いておいて試合数は大先輩の
「勝率は置いとくってのはどういうことだ」
「振られたくせに」
「うるせぇ!浮気されたんだよおじさまとおおおおおおおおおお!」
「勝ち目ないね」
「いち高校生じゃな……」
「そういうことなら気にやむこともないんじゃない?」
「ま、そうかもなんだけどな……」
「好きだったんだね」
「これでもなぁ、結構マジだったらしいんだよなぁ」
と、
交差点に差し掛かり、信号に足止めを食らう。二人が直進する先に、青信号に促されて右から来た車が曲がって行った。
追い抜かれる途中で、後部座席に乗っていた人物の顔がのぞく。惟姫は目が合った気すらした。同じ学校の女生徒のだった。どこかで見たような顔だが、惟姫はソレが誰なのか全く思い出せない。
「おお。今日はラッキーデーかね」
「なんで?」
「なんでって、滅多に学校に来ない超有名人のご尊顔だろ」
「そんな人、うちの学校にいるんだ?」
「何言ってんだ。本当に滅多にいないけど、うちのクラスだろうが。覚えてないのか?入学式で新入生総代やった
車が去り信号が変わった交差点に踏み出しながら
「そんなにすごい人なの?」
「才色兼備ってのは、そうだろうな。なんでも、ツアーの日程が決まってて、一般受験受けらんなかったんだけど、学校推薦と自己推薦の両面使うことになって、んで速攻で論文仕上げて受かったらしいからな。頭もキレッキレよ」
「ふーん。詳しいね。
「見た目は好みでないとは言わないけど、それ以上にステータスが重い。自分からアプローチする気にはならねーなぁ」
非現実的な話なのに真面目なのかふざけているのかわからないな、と惟姫は思う。
「天地がひっくり返っても絶対にないだろうけど、向こうから来たら?」
「速攻でYES!」
「キャッシュだ。こいつゲンナマだ」
「現金なやつだと言え!」
「そっちのが悪口だよ!」
「大して変わんねーよ?」
「まあ確かに」
いいやつなのにな、と、惟姫は思う。高校から東京に出てきた惟姫に、二番目に声をかけてきたのが
一番最初に声をかけてきたのは、というと…
「あ、いしーん!かーやー!」
交差点、車が来たのとは逆方向から声がかかった。
「お、
「本当だ。
先に反応したのは
仲のいいクラスメイトに遭遇して、思い出したのだろう。惟姫と
程なくして信号が変わり、女生徒が小走りで近づいてくる。
「おっはよー!」
「へいへい、おはよーさん」
「うん。おはよう、
惟姫と
「さっきの、見た?」
「ん?車か?
「そう!朝からレアキャラに遭遇するとかラッキーデーかもねー!」
間。
「だよなー!俺もそんな予感ビンビンだわ!!」
「
「へ?何が?ちょっと惟姫ー!」
惟姫が
そうして三人は、残り少ない通学路を遅刻までの時間を気にしながらも、肩を並べて学校まで歩いていく。
待ち合わせなどせずとも巡り合えてしまう。
それはいつもの、
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