184豚 荒野に―――

誰も知らないぐるぐるぐるぐる線を引く弧を描く


 風が吹いていた。

 荒野の地下には蟻の巣のように暗い街道が幾つも通っている。 

 その一つ、「理想の墓場」とよばれるC級ダンジョンの下層へと続く空洞の中に風が吹いていた。

 だが、肌を撫でるような優しい風とは程遠い。


彼方に届く大きな大きな線を引く弧を描く


 風の奔流。

 少年の指先から漏れ出す微かな魔力が、荒れ狂う暴風をダンジョンの中に生み出していた。

 既に彼の従者である少女はこの場におらず。モンスターの異常発生と共にどこからか姿を現した風の大精霊に連れられ地上に向けて逃げ出していた。

 出口への道案内は古の魔王と名乗ったスケルトンが引き受けている。


重なり合わせ天まで届く陣と為す弧を描く


 ぽたぽたとドーム状の空間を構成する暗い天井から水が落ちてくる。

 髪から滴る水を気にすることなく、モンスターの接近を遮断する結界の中で少年は指先を天に向け何かを描いていた。

 指先から零れる血が空中に色を滲ませる。

 異常事態を感知したモンスターが次々と後ずさる。

 この少年が作り出した結界の破壊など、もはや考えられない。

 何かを察知したモンスター達が次々と下層と上層に続く道の先へと逃げていく。

 消え行くモンスター達を満足げに見つめながら、少年は息を吐いた。

 大きな大きな、吐息を吐き出した。


 ここで少年に当たられたスポットライトを頭上に射出してみよう。

 暗闇の向こう側、先程から水がぴちゃぴちゃと落ちてくる硬い壁には―――


「あー、そういや忘れてたなあ。風の大精霊さんに何で頭禿げてるんですか? って嫌味言うの忘れちゃったなあ……」


 ―――幾重にも重なり合った幾何学的な模様。

 血色に染まる陣はドストル帝国に対するために生まれた南方四大同盟の一国。

 大陸に散らばるアカデミーを運営する魔道大国ミネルヴァの魔法学者たちが見れば数十年は語り継がれるだろう巨大な魔方陣が天井にくっきりと刻まれていた。

  

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