183豚 荒野に佇む―――④
ネメシスのギルドマスターは躊躇わない。
魔眼による弊害、視界が霞んでいく。
過度の使用は視力の消失に繋がりことなど百も承知。
闇夜の中、巨大な石の上で両手を振り翳しているリッチを捉える。
魔道具の光は先程よりも明らかに強くなっている。
この周囲に目的の者たちがいる。
ならば―――。
「―――
ギルドマスターはもはや、魔眼の解放を躊躇わない。
瞬時に構築された水の結界もろとも包み込む炎によってリッチが哀れな断末魔を上げる。しかし、事切れる瞬間、すっぽりと被ったフードの下からこちらを見た。
その瞬間、ギルドマスターは顔を歪めた。深々と自身の腹から鋭利な氷塊が生えている。ごふっと血を吐き出しながら、瞬時に傷跡を熱す。抉られるような痛みに耐えながら、モンスターの間を縫うようにして走り続けた。
終わりは近い。
もはやモンスターは倒しても仕方が無い。
どこにいる、アリシア・ブラ・ディア・サーキスタ!
大昔は巨大な河川が流れていたとさえる荒野には巨大な石があちこちに残っていた。ユニバースから離れれば離れる程、当時の名残を残した岩石が見うけられる。恐らく彼女達は巨石の隙間にでも身を隠しているのだろうと検討を付ける。
再び遠くで爆音が聞こえ、直後に暴風が吹いた。
一体、あの赤毛の少年と三銃士の間ではどれ程の戦いが起きているのか。そもそもあの赤毛の少年は何者だったのか、帝国に恨みを持つ者かはたまた三銃士に恨みを持つ者か。
けれど、思考はすぐに破棄される。
岩石の密集地の中で、隠れられそうな岩肌の陰に一人の少女。
膝立ちで杖をぶんぶんと降っている姿が小さく見えたのだから。
「―――ぁ」
結界の向こう側から少女の驚きが込められた視線がギルドマスターに向けられる。
少女の背後には岩の隙間に
―――生きていたか、
―――良くやった、ユニバースに帰ることが出来たら浴びるぐらい酒を奢ってやる、いつもお前が飲むような安酒じゃない。この僕が最高の店に連れていってやる。
「……―――あれは、何だ?」
だが、様子が可笑しい。
彼女が持っている杖から魔法が生まれている。
何人も阻む結界が―――しかし、ただの学生にしては強すぎる結界が。
S級冒険者にして
南方四大同盟の盟主である
黒龍討伐を家訓に魔法の研鑽を長年続け、光のダリス王室を守護せし鉄壁の
アリシア様が持つあの杖は―――あれはまさか。
何故なら―――。
本物なのか、見間違いではないのか、あれは本物の―――なのか?
だがアリシアの元に近付くにつれ、疑問は確信に変わる。
鼓動が揺れる、滅多なことでは冷静さを崩さないS級冒険者の身体に鳥肌が立つ。
だが―――どうして?
持ち主を守るように結界を吐き出す輝きの元。
なんで―――貴方がそれを。
彼女の杖に埋め込まれた蒼石が持つ意味はたった一つ。
―――それは彼らと特別な縁を結ぶ者のみに与えられる誓いの魔道具であり。
―――永続忠義の契りを意味する特別なマジックアイテムであり。
あれは―――戦闘のみを追い求めた風を愛する一族の願いの架け橋。
「アリシア様―――何故貴方がそれを持っているのですかッ!!?」
「―――え?」
アリシア・ブラ・ディア・サーキスタが持つ杖に埋まる一粒の綺麗な石。
それがダリスの狂った戦闘一族、デニング公爵家直系男子にのみ与えられる秘伝の魔道具だと理解した瞬間、
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