152豚 ギフト・サーキスタ

 

 風の神童に充てられたスポットライトが消えていく。

 これより舞台はもう一組の主人公に移りゆく。


 既にダンジョン都市で動き出している二人組。

 大人気アニメ「シューヤ・マリオネット」の主人公とメインヒロイン。

 熱血占師シューヤ・ニュケルン不器用で短気な最後の王族プリンセス・サーキスタが紡ぐ心の成長のお話へ。


 ダリス一の大貴族。

 風のデニング公爵家が生んだ神童と最後のサーキスタ王族の紡ぐ―――

 ―――手の平に収まりそうな、ほのかに淡い、恋とも呼べない二人の物語。

 小さな魔法使いが育て上げた最高傑作ドライバックの暴走と、魔法の才に恵まれず、それでも必死に婚約者に追いつこうとした彼女の大切な思い出の杖ギフト・サーキスタを巡る記憶の周遊。

 そう。

 彼はとっくに忘れてしまったが、今でも彼女はそれを持っていた。

 アニメの中でも、メインヒロインである彼女は、その杖を使い続けていた。

 いつか来る、誰かのために。


 けれど、アニメの中ではその杖は輝くことは無かった。


『君はこの僕の婚約者フィアンセであり、僕には君を守る義務がある。今回は僕の騎士クラウドがキミを守ったけど、それじゃあちょっとカッコが悪い。だから、二度とこのようなことがないように君の杖に力を込めた。もし君が危険な目に合えばその杖に埋め込んだ石ギフト・サーキスタが僕を呼ぶ。だからそれを大事に持っていてほしい。目印が無ければ―――さすがの僕も見つけられないからね』


 【荒野に佇む全属性】は彼が彼女を見つけ出すまでの物語。

 さあ、思い出そう。

 思い出の杖ギフト・サーキスタは、暴走する亡者達から彼女を探し出す手掛かりになるはずだ。


『それとアリシア。はっきり言っておくけど君には魔法の才能は無いよ。危険なモンスターに近づいたら魔法が上手くなるなんて奇跡も存在しない。だからダンジョンを見に行こうとするなんて―――……何で震えているのシャーロット……君は平民なんだから魔法の才能が無いのは当たり前でしょ……』


 舞台は、自由連邦が誇るダンジョン都市。

 荒れ果てた荒野と管理された幾多のダンジョンに囲まれた強者の町。

 商人の国を南方四大同盟の一角に押し上げた冒険者の楽園はもうすぐに奈落の底へと堕ちてしまう。


「……ぶひぃ……ぶひぃ……zzzz」

「……にゃあ……にゃあぁぁ……やばいにゃあぁぁぁ……」

「……コイツ。もしかして本当は寝てるだけじゃないの? あと、アルトアンジュ。逃げ出そうとしたって無駄よ。もうアタシ、力を取り戻したから。少なくともこの全属性エレメンタルマスターが起きるまでは―――地獄を覚悟しなさい」


 これは、冒険者ギルド南方本部ネメシスとシューヤとアリシア。

 そして北方の英雄ドライバックと大きな傷を負った平民の少年が辿り着いた古びた宿の物語だ。

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