150豚 だって、ほら。俺って全属性じゃん
「これを説明するのはちょっと長くなりそうなんだけどその前にアルトアンジュ。攻撃とかしないでくれよ。……あっ、やべッ聞いてないなその様子じゃ。実体化してるのにも気付いて無さそうだし」
「ス”ロウ”ッ! そいつが誰だか分かってるかに”ゃ”あ”ッ!」
「ああ分かってるぜ。こいつはナナトリージュ。お前達、大精霊が怖がる闇の大精霊さんだろ?」
「分かってるなら何でそこにいるに”ゃ”あ”ああああああ」
「おいおい容赦無しだなアルトアンジュ、まさかお前がここまで見境無しだとは思わなかったぜ! シャーロット! そこから動かないでくれ!そこにいれば安全だから、さっ!」
半球状の分厚い闇の結界がガリガリと削られていく。
苦手な闇の力を借りた自信作だってのにこりゃあ、たまらん!
俺は部屋の外に慌てて飛び出す、周りの闇の精霊達も慌てていた。
怒りを前面に押し出した風の大精霊さん達を前にして、たかが精霊が太刀打ち出来るはずもないもんな。
「悪いなアルトアンジュ。お前たち大精霊の事情よりは、精霊さん達の頼みの方がよほど大事だ! 何せ俺ってさ、ほらッ
「精霊なんかの声に耳を貸す必要はないに”ゃ”ああ”あ”あ”あ”ああああああああ」
「いいや、貸すね! ガンガン耳を貸すねッ! 闇の精霊が珍しく声を荒げているッ! 大精霊同士のいがみ合いを止めてくれ、お前の誤解を解いてくれって言ってるぜッッ!」
突き出す右手から広がる闇の結界が風の大精霊さんの力を受け止める。
ちにみに風の大精霊さん。
に”ゃ”ああああとか聞き慣れたデスボイスで叫んでいるけど、「に”ゃ”」の二文字だけで数百発の真空の刃飛ばしてきてるからね。
それを全て苦手な闇の魔法で、相殺している俺の凄さ、お分かり頂けるだろうか。
……ぶひぃ。
「話し合いする気も無いってか! まるで俺たちが始めて出会ったあの時の再現だな
けれど俺の善戦も長くは続かない。
手のひらから右腕に伝い、右肩までを刃が綺麗な筋道をなぞる。
俺の右腕から吹き出す鮮血が廊下の壁を一気に染め上げ、シャーロットの悲鳴が微かに聞こえた。
「スロウ……お前は精霊に騙されてるだけにゃあ。闇の大精霊、ナナリーは悪い奴だにゃあ。帝国によってにゃあとシャーロットの国は滅ぼされたのにゃあ。だから許すわけにはいかないにゃあ。ナナリーは何だか調子が悪いようだし、今がチャンスなのにゃあ。退かないなら痛い目見るにゃあ」
「いや……もう痛い目見てるんだけど……。どっからどう見ても笑えない傷だろこれ……ぶひぃ……」
でも、俺の後ろでのた打ち回ってる闇の大精霊さんを置いて逃げるわけにはいかないな。彼女は今、魔力が空っぽに近い状態だ。さすがに今の状態で風の大精霊さんとやり合えばただではすまないだろう。
「あいたたた……何なのよ。何するのよスローデニング。良い度胸すぎるでしょ……闇の大精霊であるアタシを放り投げるなんて……うぅ、気持ち悪……」
のたうちながら頭を抑えている長い黒髪の小さな闇の魔法使い。
事態を把握するにはもう少し時間が掛かるご様子だ。
「俺は小さい頃から全属性の精霊の声を聞いて生きてきた。大精霊であるお前達とは比べ物にならないぐらい俺は精霊を信じ、愛している。何故なら俺の力は彼らから与えられた力だからさ」
嘗ての戦争の勝者と敗者がここに結び合う。
アルトアンジュが愛した皇国は帝国と北方モンスター達の奇襲の前に呆気なく敗れ去った。
顔に張り付いた生暖かい血の匂い。
暴風の如き、絶対者がふよふよと扉の向こうに浮かんでいる。
でもね、アルトアンジュ。
あの戦争を起こしたのは闇の大精霊さんだとか言われているけど、それは大きな間違いさ。
「こんなにうるさい闇の精霊の姿も声も、風の大精霊であるお前には届かない」
「―――ッ!! ―――!!!」
部屋の奥ではシャーロットが俺に向かって何かを叫んでいた。
「にゃあああ”あ”あ”あ”あああああああ。今度はさっきのより強力なのをお見舞いするにゃあ。スロウ、命が惜しいならそこを退くにゃあああ”あ”あ”あ”ああああああ」
アニメの中で確かに彼女は罪を犯した。
死の大精霊の卵が南方にあると知ったナナトリージュは確かに、帝国を動かして南方を襲いだす。
でもそれはアニメの中の話だ。
まだ闇の大精霊ナナトリージュが本格的に動き出す事件は何も起きてなかったりするんだよね。
「滅多に心を開かない闇の精霊が俺に教えてくれた。
予感はあった。
もしかしたら、そうなんじゃないかと思っていた。
帝国が俺に暗殺者を送った理由、撃退した後はそれきりぱったりと途絶えてしまったわけを。それにアニメ視聴者で鋭いレビューに定評があったブロガー、大魔神@笹川さんもブログに書いてたしな。
『暗黒女神様。帝国が負けるように仕向けてね? ドライバックが帝国から消えたのって暗黒女神様と二人でごしょごしょ喋ってからじゃん。それにシューヤを殺せるチャンスとか沢山あったじゃん。そもそも暗黒女神様って六大精霊の中で一番強いんだろ? 性格が悪いのは疑いが無いけどさあ、死の大精霊の卵が偽者って分かってからは暗黒女神様、自暴自棄になってたけど帝王を操って南方四大同盟に負けるように仕向けてるのは確定的に明らか、つまり暗黒女神様は純白女神様。これにて証明終了だから』
「に”ゃ”あ”あ”あ”あ”あ”ああ”あああああああ”あ”あ”あ”ああああああぁあ”あ”あ”あ”ああああああ”あ”あ”あ”あああああああ”あ”あ”あ”あああああああ」
つーか、どんな名前だよ。
大魔神@笹川さん。
あ、風の大精霊さんが聞き耳もたずで何か大きな詠唱を始めている。
全く、ほんとに大精霊ってのはどいつもこいつも問題児ばっかりだよなあ……。
”もはや帝国に姫の居場所は無い。だが、姫は責任を感じていた。あれ程までに大きくなってしまった帝国をコントロールするために、姫はたった一人で帝国の暴走を抑えていた。全ては前前前前前代ドストル王のせいだ”
おーい、こらこらこらこら。
闇の精霊さん達もいきなりそんな新設定を盛り込むんじゃないって。頭がパンクしちゃうだろ! いい加減にしろ……! それに何代前だよ! 分かりづらいんだよ!
……。
えーっと。
でも、これだけは確認しとこう。
「闇の大精霊さんはツンデレ……物語によくあるラスボスは本当は良い奴でしたってことでオッケーなのかな……」
”そうだ。我らが姫以上に良い子がいるわけないだろう常識的に考えて”
...。
うーん。
とりあえずその常識はね。
この世界の君たち以外には通用しないから、黙っといた方がいいと思うな。俺は。
「ふぅっ……―――それで、スローデニング。
「
「何? ていうかアンタすごいわね。あのバカ猫だって一応大精霊よ。普通の人間ならアイツの放つ殺気に
「ぶぅ~~~~~~……~~……ひぃ………………………」
やっべ。
すっごい言い辛いわ。
でも、言わなくちゃな。
だってそのために大精霊さんをこの場に呼んだんだから。
まさか風の大精霊さんの攻撃を防ぎながら真実を伝える羽目になるとは思わなかったなあ。
俺は思いっきり息を吸い込んで、深呼吸。
ぶ~~~~~、ひ~~~~ぃ~~っと。う、やばい。何だか、目がしばしばしてきた。
「ていうかこのままだとアンタ死ぬわよ? 何だか気付いてないみたいだから、はっきり言うけど……死因は出血多量ってとこかしら…………あら、アルトアンジュの殺気に
ああ、何か闇の大精霊さんがゴチャゴチャ言ってるな。
何だか耳が遠くなってきたみたいで、よく聞こえない。
ははは、風の大精霊さんが闇の大精霊さんにビビッたのか魔法を強めてやがる。全く、何をそんなに……怖ってるんだか。
……。
「闇の大精霊さん……実はさ……」
「ねえ、すっごい思いつめた顔してるけどアタシへの話ってのはそんなに重要なことなの? 少なくともアタシはさっきアンタを洗脳して殺そうとしたわ。そこんとこアンタは理解しているの?」
よし……言おう。
単刀直入に……言おう。
こういうのは……一気に言うのが重要……だよな。
「俺のズボンのポケットに入ってる卵……キミが欲してた死の大精霊の卵なんてものは……存在しない。全て……キミの勘違いなんだよね……。はは……、ねぇ今……どんな……きぶん……どんな気分……なの……かな……は、は……」
「
……ぶひぃ↓。
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