120豚 ビジョン・グレイトロードの驚愕

「それで? ヨーレムの町であった大食い大会はどうなったのですか? 」

「スロウ様の大勝ですよ。大食いであの人に勝てる人なんてこの世に存在しないんじゃないか、と僕は思いますよカリーナ姫プリンセス・カリーナ、ええ。信じられないかもしれませんが、スロウ様は胃袋を二つ持ってると僕は真面目に考えていますよ、もしかしすると三つ? いや、四っつかもしれません」

「まあ! やっぱりあの方はすごい方なのですね! それにしてもビジョンさん。貴方はあの方の真の友のようですね。なら、あの方が今どこにいるか心当たりはありませんか? 南方中に手配書をばら撒いたのですが、未だ有力な目撃情報が無いのです!」


 スロウ様を聞くのに夢中なカリーナ様は僕がとある一点をちら見していることにも気付いていないようだった。

 王女のたゆんと揺れる胸チラを見ながら、もはや父上に会いにきたなんて用事はすっかり頭の中から消えていた。

 ああ! 胸チラが見える! 神よ!

 うわああ、また揺れたぞ!

 揺れるふわふわの金髪、色素の薄い瞳と垂れ目。おっとりとした雰囲気が醸し出す包まれるかのようなオーラ。まるで弱弱しい小動物を見ているかのような、何とも言えない保護欲にかられる。

 そして噂で聞いたことがあった。

 カリーナ姫が王宮の舞踏会とかに出てこない理由! 


 でも確かに!

 こんなお胸が舞踏会のダンスで揺れてたらとんでもない視線に晒されてしまうに違いない! 非常にけしからん!

 まさに噂の通り、いいや、これは噂以上―――!!!!!!! 

 ダリスの神はここにいたんですね!!!

 

「ええ、僕とスロウ様は紛れの無い心の友ですよ。うーん、スロウ様はどこかで遊んでるんじゃないですかね……。皆英雄だとか持て囃してますけど、あの人、根は結構遊び人ですよ。じゃないとクルッシュ魔法学園の長い歴史で最悪の問題児なんて言われません……あっ、そういえばスロウ様あんなことを言っていたなあ」


 ”白百合の花ホワイトリリーを。俺が戻ったら君の故郷で綺麗に色づく白百合ホワイトリリーを見に行こう”


 白百合ホワイトリリー白百合ホワイトリリー、思い当たる場所は―――。


「心当たりがあるのですね、ビジョンさん」

「ええ、まあ」

「ではお願いがあるのですッ!」


 ガシっと手を掴まれて僕は天にも昇る気持ちになった。

 平民の女の子とは違う、もう何もかも違う。

 ヨーレムの町で出会った性悪な町娘とは違う。あの性悪なクソ町女……僕から7万ヱンもかっぱらっていった性悪町娘……うっ、あの日のことを考えると頭が……。


 いや、今は町娘のことなんてどうでもいい。

 何しろ僕はカリーナ姫の御前にいるのだ!

 ……スロウ様、ああ、スロウ様。本当に貴方と出会えて良かった……。

 まさかダリスの王女様プリンセス・カリーナとこうして話せることが出来るなんて……。

 しかも胸チラをこんなに堪能出来るなんて……。

 だ、ダメだ! これはいけない不敬だ! ダリスの次期女王に向かってこんな邪な感情を向けるなんて!

 カリーナ姫は何か用事があって僕を呼んだのだ!

 ダリス貴族としてカリーナ姫のお胸様をチラ見するのは不敬、いや、……死罪だ!

 よし、クールダウン。

 でもうっ……机を挟んで反対側に座るカリーナ姫の無防備な、うっ……。

 拷問ですかこれは。


「ええと、それでこの僕にお願いとは? 南方の英雄、ドラゴンスレイヤーの栄光を手にして姿をくらましたスロウ・デニングの心の友であるこの僕にお願いとは何ですか?」

「まあ、ビジョンさん。貴方は何て頼もしいのでしょう!」

「いやいや、僕はあのスロウ・デニングの生涯の友ですからね。何だって言って下さいよ。それにしてもカリーナ姫、どうしてあの人にそれだけご熱心なんですか?」

「それはあの……彼はわたくしのファーストキスの相手ですから!」

「なるほど! ふぁーすときすの相手だからですか! ……へ?」


 ……。

 ん? ……ちょっと待て。

 何か不穏な言葉を聞いてしまった気がするぞ……。


「ええと? すみません。僕の聞き間違いかもしれませんが、誰と誰とのファーストキスですか?」

「まあ! ビジョンさん、もう一度、わたくしの口から言わせるなんて……何て罪なお方でしょう……でも、ええと、言いますまね……ふぁ、ふぁ、ファーストキスです! ああダメです! ビジョン様……これはマルディーニや王室騎士ロイヤルナイト達には秘密でお願いしますね……。わたくしがはしたないなんて思われたくないですから! だって、だって、あれは仕方の無かったことなのでございますっ、ヨーレムの町で運命的な出会いをしたわたくしたちはっ―――」

「ごほっ、ごほごほごほ!!! 待って! 少し頭の整理をさせて下さい! プリンセス!」


 ふぁ、ふぁ、ふぁ、ファーストキス?

 ダリスの王女プリンセス・カリーナとファーストキス? は?

 誰が? 

 誰がこの天使みたいなお姫様とふぁーすときす?

 す、スロウ様?

 あ、カリーナ姫がこくんと頷いたぞ。

 ……。

 はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!

 スロウ様とカリーナ姫がふぁ、ふぁ、ふぁ、ファーストキスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!????!?!??!?!?!??!?!??!?!??!

 スロウ様? は? はは? はああああああああああああああ?????


「ビジョン様! 一体、立ち上がってどうされたのですか!?」


 よく分かりましたよ。

 ええ、よく分かりました!

 どうして僕みたいな位の低い貴族が王宮に呼ばれたのか!

 僕のチラ見よりも不敬でしょうそれは!


「このビジョン・グレイトロード。どうして麗しの我らが姫にお呼ばれされたのか今、この瞬間、大いに理解しました。ええ、理解しましたよ。だからマルディーニ枢機卿や王室騎士ロイヤルナイツの方々があんな苦々しい顔をしていたのですね。はい、これは間違いなく国家の一大事です。ええ、だから止めないで下さい我らが姫プリンセス、ダリスの未来に向かってそんな裏山けしからんする豚野郎に僕はこれから私刑を与えてこようと―――」


 あのスロウ様……???

 一階の貴公子プリンスと呼ばれる僕ですら、ファーストキスはまだなんですが??????

 何、先に大人の階段上ってるんですか???

 というかヨーレムの町で何してたんですか、貴方は―――!?!!?!


「―――いえ、違うのですビジョンさん、あれはわたくしから―――」

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