119豚 ウィンドル領への(勝手な)移住
「今日はエアリス様から動物の焼いたお肉とパンを貰ったんです! スローブ様……じゃなくてスロウ様と食べるようにって! 何でもグルメなモンスターが住まうグルメモンスターの村があるみたいで、そこからエアリスさんがもらって来てくれたんです!」
「いやっふぅ! 最近は何のモンスターかも分からないような肉のばっかりだったからな~いっただきまーす!」
俺は両手を使ってオークのように食らいつく! 大食いの開始である!!
ぶひぶひぃぃぃぃぃ! うめええぇぇぇぇぇぇ!!! さすがはグルメモンスター達が作っているご飯! パンをむしゃむしゃして香辛料の掛かった肉をぶひぶひぶひぶひ~~~~と食らっていく。
ていうかグルメモンスターって一体どんなモンスターなんだろうな? フライパンとか使ってるのかな?
モンスターの生態は未だ謎ばかり、どうやらまた新しい謎が増えてしまったようだ。
「これ、うんめーぶひ!」
さてはて、オークの里で生活を初めてから結構な日数が経過した。
日中の多くはブヒータと一緒に行動して、夜になったらシャーロットとその日に合った出来事を二人で話すのが毎日の日課となっている。泉で水を浄化したり、たまにダンジョンから出てきた暴れん坊モンスターをブヒータと一緒にフルボッコにしたり、腰が痛いと泣いているオークの爺さんをヒールで癒したり、案外俺の毎日は忙しかった。
「スロウ様。すっかりオーク語が板に付きましたね。というか完璧すぎます」
「そうぶひ?」
「そうです。たまに本当のオークなんじゃないかなって思っちゃいます。それに何だか普通のオークみたいにでっぷりしてきました」
「がつがつもぐもぐ。それでシャーロットの方はどうなの?」
「ええと、私は―――」
シャーロットはエアリスと一緒に空を飛んで色んな場所を回っているらしい。
オークの里に辿り着いた翌日、エアリスから飛び方を教わって喜ぶシャーロットを何度見たか分からなかった。そんな空を飛んでるシャーロットをじ~っと眺めていたら、俺はとあるとんでもない事実に気付いてしまったのだ!
何と!
下から覗くとパンツが見えていたのだ!
思わず口に出して叫んでしまったら袋叩きにされてしまった。
デニング家で学んだらしい護身術は中々のものだった。
「……zzz……ぜっとぜっとにゃあ」
そして今は床で寝ている風の大精霊さんの毎日はいうと……昼間はシャーロットの傍で護衛をして、オークの里に帰ってきたら子供オーク達とオークの里の中を走り回って遊んでいる。
実体化出来たことが余程嬉しいのか、風の大精霊さんはいつもより二割増しの全力でオークの里を暴れまわっているのだった。
しかし夜には疲れてしまうのか俺達よりも早くぐーすかと寝てしまうのだ。
一体、どこが風の大精霊なんだよって思わずにはいられない。
「今日も色んなモンスターの村を回ったんです! スライムの村に行った時は近くのダンジョンから凶暴なモンスターが出てきて皆で協力して戦ったんです! でもスライムさん達はすぐに逃げ出して……代わりにエアリスさんが町から連れて来たモンスターの皆さん方が退治してました」
「エアリスが連れて来たモンスターって皇国で一番でかい町にいるやつら? 魔王派ってやつ?」
俺たちが今いるのはブヒータからもらった小さな木造の家の中だ。
ベッドや机と椅子、どれも木を切り倒してオークの皆が作ったらしい。不格好で今にも壊れそうだったけど、手作り感満載のもので俺は嫌いじゃなかった。
それにしてもシャーロットは結構スリリングな毎日を送ってるみたいだな~。
基本オークの里周辺でぶひぶひぶひ~とオークの魔法使いをやってる俺とは大違い、俺もスライムの村に行きたかったぶひ。
そしたらダンジョンモンスターなんて一発ぶひよ。
「そうです! 魔王派のモンスターの皆さん、とっても強くてビックリしました! その後、町の方にも行ったんですけど様子が記憶の中のものと全然変わってなくてビックリしました。エアリスさんの話によるといつか帰ってくる皇国の人間のためにって綺麗にしてるんだそうです。あ! それと皇国がモンスターに襲われた時、助けてくれたのはやっぱりエアリスさん達魔王派のモンスターだったらしいです!」
シャーロットが何だか興奮して喋ってる。
それにしても一日の多くをエアリスと一緒にいるからシャーロットは色々な話を直接聞いてるみたいだな。
帝国に存在するS級変異ダンジョン、
説明の手間が省けるぶひ。
「シャーロットはすごいなあ。あっという間にエアリスと仲良くなって。サキュバスとピクシーのコンビなんてモンスター界でも前代未聞だよ。俺のモンスター図鑑にもピクシーの苦手なものはサキュバスって書いてるぐらいだからさ…………がつがつぶひぶひ。よっしゃぶひぶひぶひ~!! 完食ぶひい!!!!」
ピクシーとサキュバスはモンスター界では犬猿の仲でも知られてる。顔を合わせれば、サキュバスが清楚なピクシーに嫌味を言ったりからかったりですぐ喧嘩になってしまうとモンスター大全には載っていた。
俺は仲良しになったピクシーであるエアリスとサキュバス姿のシャーロットを思い出して、ふと思う。
二人が組めばモンスター界を圧巻する大人気アイドルコンビになれるんじゃないだろうか。
どう?
正統派なアイドルのピクシーちゃんと……えっちいサキュバスちゃん!!!
そして俺がプロデューサーだ!
華やかな舞台で踊る二人を――――
「エアリスさん達、魔王派の皆は心の底から争いが嫌で、平和を望んでることが分かったんです。でも好戦的な反魔王派とモンスターだからって一緒にされて……。魔王派の方々は私たちを助けてくれたり皇国も反魔王派のモンスターに荒らされないように守ってくれてるのに……」
馬鹿な妄想をしている俺と比べてシャーロットは真剣だった。
もうなんかごめんなさい。
本当にごめんなさい。
でもあれだぞ。
俺も遊んでばっかりじゃないんだぞ。
皇国に集まった魔王派のモンスター達をダリスのウィンドル領に移住させるために俺は今、汚れた泉を必死に浄化しているのだ。
皇国を襲ったのは反魔王派のモンスターだっていうのに、アニメでは皇国に集まっていた魔王派のモンスターが南方四大同盟にひどい目に合わされたからな。
けれど大丈夫、アニメの中の悲劇は起こしません。
見事、真っ黒豚公爵から曇りなき白豚公爵に変身を果たした俺がひょいひょいひょ~~~いと魔王派のモンスターを助けてあげるのだ。
「……そういえばエアリスさんは最近大きな悩みがあって寝不足だって言ってました。今度ヒールかけてあげてほしいです。スロウ様のヒールはすごいですから」
「俺のヒールは世界一だからね。ぶひぶひ。分かったぶひぃ」
アニメの最後で行われてた魔王派モンスター達のウィンドル領への大移動。
とりあえず魔王派モンスターの問題が思った以上にすんなり解決しそうでホッとした。
水竜のリューさんが協力的だったのが大きいな。
泉の浄化はもう滅茶苦茶力を入れて、とんでもなく綺麗な水にしてあげようと思うぞ。
「ねぇスロウ様。いっそのこと私たちの正体を明かしたらどうでしょう。魔王派のモンスターさん達に理解を示す人間がいることを伝えたら、私たちの関係って一歩前進すると思うんです……エアリスさんやブヒータさん、オークの里の皆さんとこうして仲良くなれましたし……沢山お世話になってますし……私たちが実は人間だって、正体をばらしたら最初はびっくりしちゃうと思いますけどきっと仲良くなれると思うんです」
「……いきなり俺達は人間だぶひなんて言ったらびっくりしちゃうだろうからこればっかりはタイミングだなぁ」
「こういうのはどうでしょう! オークの里の皆さんはご飯食べてるときは幸せそうなので、幸せそうな瞬間を見計らって私達が人間ってことをばらすんです! ダメージも少ないと思います!」
「いやあー、ぶひぶひ。俺は大食い大会を企画して勝者に……」
まったりとした時間が流れていく。
白い淫魔となったサキュバスのシャーロットを過ごしていた優雅な時間。
オークの里に来てからはシャーロットと朝と夜ぐらいしか一緒にいれないっていうのに、そんな貴重な時間をぶち壊す存在がいるのだった。
「―――ダメに”ゃ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」
冷たい床の上でぐうぐう眠ってた筈の黒い猫がいきなり叫び出した。
な、なんだこのデブ猫! それにどぎついデスボイス!
一体どこから入ってきたって言うんだ!?
戸締りは完璧にしてたのに……!
っていうボケは置いといて―――。
「……あれ、アルトアンジュ。お前また太ってきてない?」
「
うるせーなおい!
……もう時間は夜だぞ! また夜の大運動会に”ゃ”あ”あ”あ”とか言って、暴れ出したら怒るからな! ご飯抜きにしてやるぞ!!!
……。
うむ?
いや、ご飯抜きはさすがに可哀想だ。
毎日のエネルギーの源だからね、風の大精霊さんにご飯抜きとかして俺がいつかシャーロットにご飯は抜きです! なんて言われたらショックで動けなくなるだろうからご飯抜きは止めとこう……。
えーと、それでどうしたんだ? 風の大精霊さん。
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