121豚 大精霊は問題児ばかり?

「スロウとシャーロットが元の姿になるってことはにゃあも実体化出来なくなるってことにゃあ! いやにゃあいやにゃあー! まだ遊び足りないにゃあ! オークのガキンチョを追い回して遊ぶにゃあ!」

「ダメですよアルトアンジュ様! この前なんて子供のオークを転ばせて泣かせてたじゃないですか! 猫又の飼い主って設定の私が何回もオークのお母さんに謝ってやっと許してもらったんですから!」


 猫又である風の大精霊さんは暇さえあればオークの里で子供オークを追い回したり、オークの皆のご飯を奪ったりして遊んでいるとシャーロットから聞いていた。

 一体お前はどこのガキ大将なんだよと思わずにいられない。

 しかもそんなに走り回っているというのに、いつの間にかまた元のデブ猫に戻りつつある。もう訳がわからないよ俺は。

 ちなみに猫又は本来喋らないモンスターだから皇国のモンスターの前では喋るなよと強く言ってある。何せ口を開かせたら自由な風の大精霊さんのことだ。エアリスやオーク達に向かってどんな爆弾発言を投下するか分からないからな。


「断固抗議するにゃあ! もし実体化が解けたら風の剣士への魔力提供を拒否するにゃあ!」


 全身の毛を逆立てている大精霊さんは実体化が解けて精霊体となり、また俺以外に見えなくなるのが大層ご不満らしかった。


「おいやめてくれよ。あいつ、世界に一本だけの風の付与剣エンチャントソードを手に入れたって喜んでたんだからさ」


 風の属性にエンチャントされた付与剣をシルバは今持っている。

 込められた魔法を解放すれば一回きりで壊れてしまう魔道具は数あれど、何度魔法を使っても壊れない付与剣はダリスの国宝だ。

 それを可能にしているのは魔法鉱石マジックストーンの質。

 とんでもなく純度の高いウィンドル領産の魔法鉱石がふんだんに付与剣には使われているのだ。


「じゃあ、闇の魔法を解除するのは止めるに”ゃ”あ”あ”あ”」

「分かった分かった! だからそのデスボイス止めろって! 一体どこでそんな技身につけてきたんだよお前は!」

「今日見たダンジョンモンスターの声真似に”ゃ”あ”」

「……はぁ、どんどん宴会芸が増えていくね風の大精霊さんは……。とりあえず闇の魔法で実体化の件は俺に考えがあるから心配しないでくれよ」

「ほんとに”ゃ”あ”?」

「ほんとほんと。俺が嘘ついたことあったか? それより頼んでおいた森の冒険者の探索はどうなったんだよ? 見つかったか?」

「ちゃんとやってるにゃあ。でも実体化してから風の精霊の反応が鈍いにゃあ…………おらっ風の精霊達もっとはきはきするにゃあ。そんなんだから風の精霊はアホって言われるにゃあ」


 ぎにゃあ~~と大精霊さんが風の精霊達に襲い掛かっている。

 俺もオークに変身してから精霊達と意思疎通をすることが難しくなった。風の大精霊であるアルトアンジュなら何とかなると思ったのだけど、そんなこともないようだ。

 っておい。

 アルトアンジュは空中に漂う風の精霊に向かってジャンピング飛び猫蹴りやジャンピング猫強パンチを繰り出していた。

 

「あ! また暴れて! アルトアンジュ様! 風の精霊さんを苛めたらダメですよ! 頑張ってくれてるんですから! 私には見えないですけど……そういうの分かるんです!」

「にゃああああああああああ!! にゃあも精霊にゃああああ!! それにシャーロットは皇国のお姫様プリンセスなのににゃあの名前を忘れてた薄情者にゃあ! そんなシャーロットの言う事なんか聞かないにゃあ!」


 あ、今度は風の大精霊さん、シャーロットのお腹に向かってドスンと頭突きをかましていた。けどシャーロットは大したダメージを受けなかったようで、大精霊さんが暴れないようにしっかりとそのでぶい身体を拘束していた。

 シャーロットは意外に強いからな。肉弾戦。

 話を聞けばいつものようにデニング公爵家での実習教育サバイバルのお陰ですと胸を張っているんだけど、一体うちでは従者にどんな教育をしてるのか気になってきたぞ……。

 

「……がつがつもぐもぐ」


 俺はシャーロットが風の大精霊さんの攻撃に気を取られている隙に、シャーロットの分のパンやお肉をちょっとずつ食べ始めていた。

 ぶひぶひ、うめー!

 腹が減ったら戦は出来ぬというからな。

 恐らく激しい戦いになるだろう帝国の亡霊さんとの決戦に備えて今のうちから力を蓄えねばならぬのだ! 

 つまり、食うってこと! 


「実体化が解けるのは嫌にゃあ! モンスターなんてどうでもいいにゃあ!!! スロウ、オークの爺をヒールで治すのも止めるにゃあ! 魔力の無駄遣いにゃあ! 闇の魔法が維持出来なくなるにゃあ!」


 全く、ほんとに大精霊さんは我儘だなあ。

 シャーロットに忘れられてたってのが相当ショックだったのは分かるけどさー。


「でもこんな状況でナナトリージュ……あの闇の大精霊さんがやってきたらまじでどうなっちゃうんだろうな……今更ながら怖くなってきたぞ……」


 ちなみに闇の大精霊さんの接近についてはアルトアンジュには内緒だ。だって言ったら絶対大反対されるからな。

 ……ん?

 何か風の大精霊さんが固まって俺を見てるぞ。


「今、何か不吉な名前が聞こえたにゃあ。ナナト何とかとか聞こえたにゃあ」

「勘違いだろアルトアンジュ。さーて、明日もヒールの大祭りだ。今日は早めに寝よーっと。ぶひぶひ。そろそろブヒータ達にリューさんを紹介しないとな」

「スロウ様。その泉に住んでるリューさんってどんなモンスター何ですか?」

「まだまだシャーロットには秘密ぶひ! きっと驚くから楽しみにしててぶひよ!」

「う~……」

「―――やっぱり嫌にゃあああああああああああああああああああああオークのガキンちょまだまだ追いかけ回したいにゃあああああああああああ。実体化楽しいにゃあああああああああ」

「……もうアルトアンジュ様! またオークの皆さんに夜なのにうるさいって文句言われるから騒ぐのはやめて下さい!!」

「いやに”ゃ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

「あれ! スロウ様! どうして私の分のご飯まで食べてるんですか!」

「違うから! これは……風の大精霊さんが食べてたよ……シャーロットの隙を付いて……」

「に”ゃ”!?」


 その後、風の大精霊さんはシャーロットと暫く格闘したあと、拗ねてふて寝していた。何やら最近、自分の意見が全く採用されないから悲しいらしい。

 なんのこっちゃ、知らんがな。

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