122豚 さあ燃える舞台の幕を上げよう①

「ヒールヒールヒール!! あ、それヒール! もいっちょヒール! 怒涛のヒール連打!!! ヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒール!!!!」

「ヒールは気持ちよくてすごいのおぶひ」

「スローブはオークのお医者さんじゃあぶひ」


 オークの魔法使い改め、オークのお医者さんですが何か?

 だけどアルトアンジュから魔法を使い過ぎるに”ゃ”とのお言葉があるため、一応セーブしているぞ。


「はーい、次の患者さんおいでー……え、ママがいない? それは迷子センターに行ってくれ~。でも君が元気出るようにヒール!!!」


 ちなみに食事場所として使われている青空食堂が俺の診察室だ。

 大勢のオークが列をなしてヒールを掛けてくれぶひ~と口々に言っている。けれど並んでいる皆が皆、病気だとか怪我をしてるだとか、そういうわけではない。中には明らかに元気一杯なオークもいて、そういうずる賢いオークには食事がちょっぴり減らされる罰が食事当番のオークによって与えられるのだ。


「グォオオォオオオオオオオオオオ。ヒール掛けてくれグォオオオオ」


 そんなオークの列には時折、オーク以外のモンスターも混ざるようになっていた。

 ぬるぬるっとしたスライムとか、怪我をしたユニコーンとか、一度でっかい巨人鬼オーガがオークの里に現れた時は襲撃ぶひ~~~、巨人鬼オーガ怖いぶひ~~~とオーク達がパニくってたな。

 いやあ、見かけによらず礼儀正しいオーガだったよ。

 ……。

 それにしてもいつの間にか俺の存在が皇国にいるモンスター達に知れ渡ってしまったらしい。


「スローブ! いつもお疲れ様ぶひィ! 今日のご飯はモンスターの丸焼きぶひい! オークの里で一番人気のメニューぶひよ! ほらスローブ! 一番乗りの権利を上げるぶひィ!」

「俺だけ先に食べていいの? ぶひ?」

「スローブはお医者さんぶひィ! お医者さんは先に食べる権利があるぶひィ!!」


 俺は並んでいるオーク達にごめんよごめんよ~と声を掛け、食事当番のオークから食事を受け取りにダッシュした。 


「スローブがまたご飯一番乗りじゃわいぶひ」

「スローブは魔法使いじゃからええんじゃぶひ。わしの孫も風邪をひいたらスローブに治してもらったんじゃぶひ。なんまいだぶひ」

「グォオオォオオオオオオオオオオ。ヒール掛けてくれよおグォオオオオ」


 しっかしオークの魔法使いからオークのお医者さんにジョブチェンジするとは思わなかったな~~!

 そらそらどいたどいた~~!! オークのお医者さんのお通りだぞ~~!!

 そんなこんなでオークの里は今日ものほほんとした平和に包まれていたのだった。



   ●   ●   ●



「うめえぶひ! うめえぶひ! がつがつもぐもぐ!」


 ぱくぱくぱくぱく!

 オークの里の料理は人間世界で出されるものと遜色が無いのだ!

 何やらブヒータはダリスを旅している間、オークとしては際立った高い身体機能を活かしてこっそりと料理のレシピを盗んだり、お店や民家に忍び込んで食べ物をひょいぱくしていたらしい! 

 そんなやりたい放題の旅のさなか、元気は食事からぶひ~~と気づいたブヒータによってオークの里の食事事情は急速に魔改良されたのだとか。

 そうした改革を通じて若いオークキングであるブヒータがオークの爺さん達からも支持を受けるようになったらしいぞ!


 すごいぞブヒータありがとうブヒータ! お前がオークキングで良かったぜ! 

 感謝の気持ちを示すためにもっと食べるぞ! 


「スローブは大食いぶひィ!  オークの里一番の食いしん坊ぶひィ!」

「ブヒータもいざという時に力が出なくちゃ困るから沢山食べるぶひよ!」

「おいらはスローブの半分ぐらいでギブアップぶひィ……。そういえばスローブが太ってきたってシャーロットちゃんが心配してたぶひィ」

「大丈夫ぶひ。俺は本気になれば一瞬で痩せられるってデスボイスキャットが言ってたぶひから」

 

 当然、あのに”ゃ”あ”あ”の猫だよ。

 アルトアンジュの話によると俺は太っても魔法を使うことですぐ痩せれるらしいからな!

 ひゃっほう!

 何て最高な身体だよ! 

 本当に誰だよ痩せマッチョ最高とか言ったやつは! 食事の我慢なんてよくないに決まってるだろ! いい加減にしなさい! ぶひぶひぶひ~~~!!!!! 


「そういえばブヒータが追い返した冒険者はまだ仲間がいるみたいなことを口ずさんでいたってほんとぶひ?」

「ほんとぶひィ! だから出来るだけ皆には森に入らないようにって言ってあるぶひィ……あっ、スローブに肉を取られたぶひい!!!」


 ひょいぱく。

 うーん、うまい。やっぱり肉はどんな味でも飽きないなあ。


「もぐもぐ……B級冒険者の仲間か……もぐB級かC級か……。ブヒータは強いからB級までなら相手にしても大丈夫だと思うぶひ……でもA級冒険者、銀色の腕輪を付けてる奴がいたら全力で逃げたほうがいいぶひ……もぐもぐ」

「銀色の腕輪……B級とA級はそんなに違うぶひィ? 」

「違うぶひよもぐもぐ。一般にB級までは冒険者家業を長く続けていれば到達できるって言われてるぶひ。でもA級に上がれる冒険者は殆どいないぶひ。B級とA級の間には大きな違いがあるぶひ」

「違いって何だぶひィ?」

「たった一人でダンジョンを潰せる力。仲間に頼らなくても、一人でもとっても強くあることがA級冒険者の最低条件、A級は戦いのエキスパート。オークキングのブヒータが幾ら強くてもきっとやられちゃうぶひよ」


 A級冒険者の力を平均すると、一人一人がダリスの王室騎士ロイヤルナイツと同じくらいの力を持っていると考えて言いかもしれない。

 そんな奴らがまだ森の中にいたら非常に厄介だ。


 ……まあでも。

 皇国のダンジョンはダンジョンマスターも大抵はB級に指定されてるモンスターばっかりだ。ちんけな小金を稼ぐためにA級冒険者が潜りに来るとは思えないけど。


 S級冒険者トップランナーは……これは考えるまでもないか。

 世界にたった六人しかいない何万人もの冒険者の頂点さん達。

 あいつらには隠れるなんて選択肢すら思い浮かばないだろうしな。まあ俺が知ってるのは六人のうちの三人だけどさ。


「スローブだったら倒せるぶひ?」

「A級冒険者ぐらいなら倒せると思うぶひよ」

「ぶひィ!! じゃあ、強い冒険者が現れたらスローブに倒してもらうぶひィ!」

「いいぶひよ、だからブヒータのご飯をもらうぶひ」

「あっ、また取られたぶひィ……」


 うーん、でもいいなあS級冒険者トップランナー

 何がいいってS級になればまとまった金が冒険者ギルドから毎月至急されるんだよなあ。

 ……。

 実は俺達、もう金がありません。今は皇国だから自給自足で何とかなってるけど……この先どうするかシャーロットと目下悩み中だったりするのだ。

 金銭的なことを考えて、S級冒険者を目指すってのもありかも。

 ……あー、お金が欲しい。

 食っちゃ寝出来るS級になりたい。なりたいぶひ。

 でもなー。

 そんな簡単になれるわけじゃないんだ、S級だけは―――。


「あっ、そういえばブヒータ。実は泉の浄化がそろそろ終わりなんだ。だから、泉に住んでるリューさんをブヒータに紹介―――」

「―――シャーロットちゃん警報発動ぶひーーー!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る