123豚 さあ燃える舞台の幕を上げよう②

「―――シャーロットちゃん警報発動ぶひーーー!!!!」


 身体に走る稲妻のような緊張感。

 あわわわあわ、この叫び声はまさか!

 オークの里のオーク達が険しい顔で一斉に下をむき出したぞ! 


「スローブ! 警報ぶひィ!」


 ブヒータの声に俺はやっと今、自分がすべきことを思い出した。

 顔を下に向けて、じっとただそれが過ぎ去るのを待つ。

 シャーロットがオークの里の上空を飛んでいる間、俺達は上を見上げたらいけないのだ。

 だってパンツ見えるからね。しょうがないね。


「何やってるんだワン。こいつら」


 他所からご飯をもらいにやってきたモンスター達は俺達が咄嗟に取った行動にひどく驚いているようだった。


「ワンワン。オークってやっぱりまぬけだワン。今のうちにご飯を食べるワン。……オークのご飯、今なら食べてもばれないかもしれないワン。こいつら下向いてるし、あほだから気づかないワン」

「グォオオォオオオオオオオオオオ。ヒールまだぁぁぁぁあグォオオオオ」


 おい全部聞こえてるぞ。

 それにご飯を強奪なんかしたらオークの里を出入り禁止になっちゃうぞ。

 周りのオーク達もそんな声が聞こえていたのか、目の前のご飯が乗ったお皿が奪われないか心配でぷるぷると震えているようだった。

 勿論、俺もだ。

 そして貧乏ゆすりがかなり激しくなってきたから、隣にいるブヒータもかなり神経質になってるみたいだぞ。

 早く解除してくれシャーロット警報、このままじゃオーク達の身が持たないかもしれない。


「ぷぴ~……」


 そんな俺たちの元にやってくるモンスターがいた。

 子供のオーク、何やらブヒータに用があるようだった。


「ぷぴ~……プピータ様。大変ぷぴぃ……」

「この声はゼロメガブータ! ちょっと待つぶひィ! 今はシャーロットちゃん警報発動中だから顔を上げられないぶひィ!」


 下を向いている俺達とは違って子供オークはそこらへんを自由に走り回っている。子供にはシャーロット警報が適応されないのだ。

 いいな~、子供は。


「……」


 小さな声で子供オークがブヒータとこそこそ何かを話しているようだ。

 話の内容より俺はその子供オークの名前が気になって仕方が無い。

 ゼロメガブータとな? 

 ブヒータよりも百倍は強そうな名前だ。こいつは間違いなくモブオークの筈が無いと思って横目でゼロメガブータの姿を確認すると、何の変哲もない小さな子供オークだった。


「……」


 ちらりと顔を上げてみた。

 コボルトの二人組みが今、まさに名も知らぬオークのご飯をひょいぱくしようとする瞬間を目撃してしまった。


「じょ、冗談だワン」

「そうだワン……」


 ……。

 ……。

 おっと、いけないいけない。

 シャーロット警報発動中だったぶひ。

 俺は自分の皿に乗っていた小さな肉をひょいぱくして、また顔を下げた。

 ちなみにご飯を食べた後はまた泉に行く事になっている。

 そろそろ水竜のリューさんが戻ってきてもいいと思ってもらえるぐらい水が綺麗になった気がするのだ。

 いやあ、それにしても大変な作業だったよ。

 泉を越えて湖にでもなろうかという程のでかさだからな。水質浄化の作業には滅茶苦茶魔力を食われるのだ。


「シャーロットちゃん警報解除だぶひーーー!!!」

「腰が痛くなったわいぶひ。またスローブにヒールを掛けてもらうとするかぶひ」


 ふぅ、やっとか。 

 俺がぐぬぬっと立ち上がり、軽く手足を伸ばしているとそこら中からひそひそと小さな声でお喋りしているモンスターの姿が目に入った。


「こいつら何がしたかったんだワン」

「ワンワン。オークなんかに関わったらバカになるって話は本当だったワン」


 ドン引きした目でオークを見ているモンスター。

 そりゃそうか。

 モンスターがみんな、オークみたいなまぬけな……ごほんごほん! 親しみやすいモンスターじゃないのだ。


「さてと。水竜は恥ずかしがり屋で照れ屋なモンスター。いきなり大勢で押しかけたらビックリするだろうし、まずはブヒータとエアリスの二人を紹介するとするか~~。ご飯食べたらエアリスを探そう」

「あら、スローブじゃない。私に何か用かしら」


 ぬ?

 誰かと思って振り返ったら、エアリスがいた。

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