124豚 さあ燃える舞台の幕を上げよう③

「私に何か用かしら」


 パタパタと羽をはためかせ、厳しい目つきの真面目系なピンク髪のピクシーさん。

 真面目系委員長ですが何か? といった感じでキリッとした表情をしているくせにスクール水着のような質感の薄い水色の服を着ている。

 ……。 

 もうこの際はっきり言うけど、これ服じゃないよね。

 身体に張り付いた布だよね。

 しかも薄いやつ。

 ……。

 もう! 本当にもう! 一体どうなってるんだよピクシーてやつぁ! そんな格好ばっかりしてるからモンスター愛好会の中でピクシーはサキュバス以上にアレ、とか言われるんだよ!

 相変わらずぶひぶひな格好で、俺がジーッと見つめちゃうのも仕方ないだろ! 


「す、スローブ? 急に黙り込んでどうしたのかしら……」


 ……。

 おっと。

 これはおっと。

 エアリスが不審者を見るような目つきで俺を見ていた。 

 いかんいかん。

 俺は紳士な豚、いや、真摯なオークなのだ。


「ええと、エアリス。実は今からブヒータと泉に行こうと思ってるんだぶひ。ポイズンスネイクに毒された水質が大分綺麗になってきたからさぶひ」


 でも、ちょうどいい。

 エアリス、一緒に泉に行こう。

 そして水竜のリューさんと会って、君の夢を叶えてくれ。

 具体的には魔王派のモンスターを引き連れて、ウィンドル領への移住をぱぱぱっとしちゃってくれ。

 早く移住しないと皇国にいる魔王派のモンスター達は大変な目に合っちゃうんだよ。特にエアリス、君が死んじゃうことで魔王さんがダークサイドに落ちて暴れまくるんだぜ?


「今からブヒータと? でもブヒータなら子供に呼ばれて急いでどこかに行ったわよ?」

「え? あれ?」


 さっきまで隣にいたはずのブヒータがいない。

 机の上にはブヒータの食べかけのご飯が置いてきぼりになっていた。

 

「ブヒータならあそこよ。また子供が壊した玩具でも直しに行ったんじゃないかしら」

「あ、ほんとだ。いつの間に」


 ゼロメガブータの後に付いて走っていくブヒータの後ろ姿。

 ブヒータは手先が器用で子供たちにちょっとした遊び道具を作ってあげることが多かった。 

 そうか。

 ブヒータが作った玩具を壊しちゃったからゼロメガブータはあんなに深刻そうな声を出していたのか。そういやブヒータと一緒にいて何回も見たことあったな、ブヒータが玩具直しに行くところ。

 子供オーク達は皆、泣きそうな顔でブヒータの所にきてぷぴぷぴ言ってたっけ。


「む~仕方ないかぶひ、実はブヒータにとあるモンスターを紹介しようと思ってたんだぶひ。ちょうどよかったからエアリスもどうかなと思ったんだけどぶひ……」


 俺とブヒータ、シャーロットとエアリス。

 二組のコンビみたいな感じで皇国の日々は過ぎて行った。

 でもやっぱり改めて見るとピクシーは可愛いな。

 俺は何を血迷ってオークキングのブヒータとばっかり一緒にいたんだろう、完全に間違えたよ……ぶひぃ。


「紹介したいモンスター? もしかしてブヒータが言ってた泉に住み着いてるモンスターのことかしら」

「あれ? もう聞いたぶひ?」

「ええ、ブヒータから聞いたわ。スローブが恥ずかしがり屋なモンスターとごそごそ何かしてるって。実は私もとっても興味があったからブヒータと行く時は是非私も連れて行ってね……―――って、よく見ると大分太ったわねスローブ」

「「「スロー(↑)ブーはオークの魔法使い~(↓)」」」


 む。

 エアリスまで俺が太ったっていうのか。

 いやまあ、黒い豚公爵時代を経験してる俺からしたらこんなの全然なんだけどね。

 まだ30%ってところだ。


「シャーロットが心配してたわよ……。ご飯を10回おかわりするだけじゃなくて、ヒールのお返しで貰ってくる食べ物を家でもずっとバクバク食べてるって……あ、またあの歌が聞こえてくるわね」

「「「スロー(↑)ブーはオークの魔法使い~(↓)」」」

 

 あれはオークの魔法使いでありながらオークのお医者さんでもある俺を称える歌らしい。

 よく聞けば何だか抑揚がついて最初の頃よりも歌が進化していることがはっきりと分かる。

 いやあ、照れますぶひ。ぶひぶひィ。


「スローブがオークの里の人気者になったって話は本当なのね」


 人気者?

 うーん、確かにオークの里を散歩しているだけでも色んなオークからよく話しかけられるようになったな。

 食事当番のオークはいっつもご飯をメガ盛りにしてくれたり、腰が痛いぶひ~と喚く沢山のオークの爺さんが娘を俺にくれるとか言い出すようになったり。

 他にもオークの里の死活問題である汚れた泉解決のために奔走したり、たまに襲ってくるダンジョンモンスターを倒したり。

 ……あれ。

 実は俺、オークの里に滅茶苦茶貢献してるな……。


「そんな貴方人気者さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら」

「聞きたいことぶひ? いいぶひよ」


 ナチュラルにオーク語が口から出てきてしまう。

 もう俺は身も心もオークになってしまったのかもしれない。

 ここまで来たら人間世界に戻った時の生活がちょっと心配だ。日常会話でぶひぶひ言ってたらさすがに不審がられる……。

 あ、でもビジョン何かは俺が普段、無意識下でもぶひぶひ言ってるとか言ってたな。


 ビジョンやデッパ、シューヤにアリシア、それに俺が朝早くから魔法を教えていた平民の皆。

 あいつら元気にしてるかな~。

 ちょっとだけ懐かしく感じてしまう。

 クルッシュ魔法学園はモンスター襲撃事件によって損なわれた機能修復のために長期休暇に入ってるだろうから……皆遊んだり、バイトとかしてんのかな~。


「……ぶひぃ」


 しかしエアリスが俺に聞きたいこととな?

 珍しいな、何だろう。


「聞きたいことって言うのはね―――シャーロットのことよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る