134豚 火焔の戦い【VS A級冒険者】⑧

「うーん、どこに行ったんでしょうねブヒータさん。オークの里は一通り探しましたし……やっぱり私もエアリスさんの言うとおりブヒータさんは子供達と森の中に入ったんだと思います」

「やっぱりそうよねえ……。でもシャーロット、別に貴方までブヒータ探しを手伝ってくれなくてもよかったのよ?」


 私たちは空からブヒータさんを探している。

 一通りオークの里を空の上から見渡したんですけど、ブヒータさんはどこにもいませんでした。ブヒータさんは頭の上に金色の王冠を被ってるから空から見つけやすいと思ったんですけど……。


「エアリスさんにはとってもお世話になりましたから。……お世話になった恩は倍返し、私が育った場所で教えられた教訓です!」

「そうなの? サキュバスにあるまじき素晴らしい教えねそれは」


 オークの里は朝から晩までお祭り騒ぎで楽しい場所。

 毎日どこからか噂を聞きつけて新しいオークさん達がやってくるし、ご飯の時間にはオーク以外のモンスターもたくさんやってくるぐらいなのだ。

 皇国にこんなモンスターの居場所が出来ているなんて私は思いもしなかった。

 

「森に浅く入った辺りだったらブヒータのうるさい声が聞こえてくるだろうと思ったけれどそれも無いし……全くあいつはどこまで深く入ったのかしら。でもあんまり奥に行ったらブヒータを襲った冒険者がまだ隠れてるかもしれないから私達はオークの里に帰ってあいつの帰りを待ちましょうシャーロット。空を飛んでいるからって安全とは限らないのよ」


 ピクシーのエアリスさん。

 皇国に集まっているモンスターを纏めている偉い人で北方魔王ノータッチ・ブルーライトと呼ばれるモンスターのお姉さんらしい。

 けれど、どんなモンスターにも優しく接しているし、空の飛び方も教えてくれた。

 そしてそしてそして。

 すごい薄地の服を纏っているだけで、身体のラインとかもうあわわわわ!!! って感じなのに全然恥ずかしいと思わないらしい不思議な人。

 北方のサキュバスなんてもっとすごいわよって言われたけど、私は人間だからそんな格好はしないんです。


「そうですね。遠くからでもブヒータさんの声ってよく聞こえてましたもんね。ぶっひィィーーって」


 私はそんなエアリスさんから色んな話を聞かせてもらった。

 皇国を襲った北方のモンスターは反魔王派って言われる戦いが好きなモンスターの集団であることや、いつか皇国の地を皇国の民に返したいと思ってること。

 そのためにエアリスさん達は反魔王派のモンスターを皇国に入れないよう尽力したらしい。


 そして最近は南方で発見したモンスターの楽園に魔王派のモンスターを移住させようと考えている事。

 ちなみに移住先がどこなのかはまだ秘密なんだそうだ。


 そんな風にエアリスさんは私にとてもよくしてくれる。

 前に理由を聞いたら私がサキュバスにしては珍しく話の分かるモンスターだからということ、そして私の名前が昔助けようとして助けられなかった人間の名前だったから。

 つまりそれは、そういうことなのだ。

 エアリスさんは今でも反魔王派の暴走を止められなかったことを悔やんでいるらしい。

 そんな話を聞いたとき、思わず皇国のお姫様は生きてますよーと言いたくなったけど私はもうただの従者。

 アルトアンジュ様やスローブ様...じゃなくてスロウ様も言わない方がいいと言っているし、私も同じように思っている。


「ぶひ~ぶひ~って本当にオークはうるさいわ。あいつらが夜もぶひぶひ~~って煩いから他のモンスターの村から苦情が来る程なのよ。……ねえシャーロット。そういえば貴方、ダリスから皇国に来たのよね」

「あ、はい。そうです。私はダリスで生まれたサキュバスですから」


 という設定です。

 南方は北方ほど沢山のモンスターがいないので本当はサキュバスなんて珍しいモンスターはいないんですけど……。


 うう、でも騙し続けるのも罪悪感が……。

 エアリスさんにはオークの里に来てから本当にお世話になりっぱなしで、食べるものだったり空の飛び方だったり、本当に何でもかんでもお世話になっている。

 最近、俺は食べて太った方が強くなるからとか謎理論を提唱してばかすか食べまくっているスロウ様のおやつも色々と用意してくれたり。


「だったら、ダリスに生まれたドラゴンスレイヤーって知ってるかしら?」

「え、スロウ様のことですか?」

「スロウさま?」

「い、いえいえ! 何でもありません!!!!」 

「だ、大丈夫? シャーロット」

「は、はい。大丈夫です……。えっと、それで、名前だけは聞いたことがありますね……何でもすごい魔法使いだとか……」

「そうなの。最近、外で情報を集めてる私の部下がダリスに英雄が誕生したって大騒ぎしてるのよ。それでね、そのドラゴンスレイヤーみたいな強い人間と仲良くなることも大事なことだと思うのよ。サキュバスである貴方なら人間の男を手玉に取るなんてお手のものでしょ? どうやったら強い男を落とせるのかしら?」


 サキュバスってそんなモンスターなの?

 うぅ……何て答えたらいいのか分からなくなってしまった。

 私はモンスターの生態について、あんまり詳しくないからよく分からなかった。でも一般常識としてサキュバスというモンスターは人間の精気を吸って栄養にするってことぐらいは知っている。


「そうですねえ……スローブ様を手玉に取るには……うーん」

「スロウ・デニングは全属性エレメンタルマスターと呼ばれる強力な魔法使いであの黒龍を倒しちゃったらしいのよ。一体どんな手を使ったのかしらって……あら、そういえばスローブも考えてみたら全属性エレメンタルマスターね」

「あっ、えっと……そ、そうですね! でも全属性エレメンタルマスターなんて沢山いますよ!」

「何言ってるのシャーロット! 全属性エレメンタルマスターなんて滅多にいないわ! ……あれ? そういえば名前も似てるわね。スロウとスローブ……そういえばシャーロット、貴方さっきスローブのことスロウ様って言わなかったかしら……?」

「いえ! 言ってません! エアリスさんの聞き間違いだと思います!」

「そう……まあ、そうよね……スローブがスロウ・デニングなら人間がオークになっちゃったわけだし……いえ、そういえば姿を変えるとっても高度な闇の魔法があるって聞いたことがあるような……ないような……」


 ぎくぎくぎくぎく、もう止めてーー!!

 まずい、これはまずいやつだ!

 スロウ様はどうしてスローブなんて紛らわしい名前にしたんだろう。全属性エレメンタルマスターの力も簡単に披露しちゃうしスロウ様のバカ!

 キョロキョロと別の話題を見つけようとして、―――あった!


「エアリスさん! あれを見てください! 森が燃えてます!」

「森が燃えてる? 何を言っているのかしらシャーロット。森が燃えてるなんてそんな―――」 

 

 森からちょいっと突き出ているあれは確か大樹ガットーって名前の巨大な大樹。

 確か傍にはオークの里の皆が飲み水に使っている泉があって、スロウ様が変な紫色の模様が付いた卵を拾ってきた場所だったかな。でも、え? 


「―――熱いぶっひィィィィィィィィィィィィィィいいィィい!!!!」

「も、森が燃えているわ! それにあれはブヒータの声!」


 思わず指差した場所で―――森が燃えてる!

 ぴょっこりと飛び出た大樹ガットーに火が付き、一気に燃え上がった。

 山火事!? 大変!! デニング家で学んだサバイバルで私は山火事の恐ろしさを嫌って言う程学んでいる! とっても危ないのだ!


「大変! 行くわよシャーロット!」

「は、はい!」

「……シャーロット。危ないからあんまり近付くのはお勧めしないにゃあ」

「起きてたんですねアルトアンジュ様! でもブヒータさんの声が聞こえました! ……って喋っちゃダメじゃないですか!」


 実は今まで抱き抱えていました風の大精霊アルトアンジュ様!

 いざという時のためにアルトアンジュ様もついてきてくれているのです! 


「……あれ? ねえ今猫又が喋った? それにアルトアンジュ? どこかで聞いた名前ね……」

「ぇ、エアリスさん! 勘違いです! さあ行きましょう!」

「勘違い? でも今、猫又に向かって喋ったらダメって言ったわよねシャーロット? あ! ちょっと待ちなさいシャーロット!」



   ●   ●   ●


 

「……火の精霊が荒ぶっている原因は何だ? 親玉である火の大精霊が原因か? まさかシューヤか? シューヤが皇国にいる? 待て待て、それはあり得ない。シューヤが皇国に来る理由なんて無いはずだ。それに今のシューヤの力では皇国のこんな奥地にまで辿り着ける筈が無い」


 森の上を行く二人のモンスターとは対照的に、森の中を駆ける一体のモンスターがいた。

 その者はオークだった。


「荒ぶってるなあ火の精霊達。……ははっ、お前らの熱にあてられて俺まで楽しくなってきやがった。そうだよな、そんなに都合良く行って溜まるかって話だよな」


 ピチピチのシャツを着たオークがぶひぶひと息を吐きながら、ただ前のみを見据えていた。


「―――さーて、一体俺の知らない場所で何が起こっている?」

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