117豚 D級冒険者ですが何か?後編
「おいおい、一応はお姫様なんだからそんな真似するなって。元はカジノで負けまくったお前のせいなんだからさ……」
「う~……分かってますけど……」
サーキスタ共和国に残る最後の王族、アリシア・ブラ・ディア・サーキスタ
小柄だけど気性は激しくて一度決めたら突っ走る猪突猛進タイプ。今は亜麻色の髪を下ろしてちょっと新鮮、金銭感覚もお姫様だってのにあんまり俺達と違ってない。親しみやすいとは思うけどクルッシュ魔法学園ではダリスの学生から舐められないようにいつも気を張っていたように思う。
ちなみに金の貸し借りにはかなり厳しく、俺の借金は一の位まで覚えているらしい。
えーっと、今は890万……5356ヱンだったかな?
ん? 俺がアリシアに気があるかって?
いやいやないない。
だってこいつがわざわざダリスの魔法学園に留学してた理由ってほんとは―――。
まーいいや、俺は自分のクエストを見ようっと。
ギルドに寄った時、一つ受注してきたのだ。
【D級冒険者用討伐クエスト:大量発生したゾンビの討伐】
【ユニバース近郊のダンジョンにゾンビモンスターが大量発生している! ゾンビを倒して倒して倒しまくれ! D級ならただのゾンビに死にはしないだろう! 一日潜って12000ヱン】
12000ヱンかぁー、悪くないけどえーとこれをアリシアへの借金返済に全部回したら……考えるの止めよ……気が重くなった……。
冒険者ギルドの情報によると何故か今、ゾンビ系モンスターがダンジョンに増えているらしい。
そんなゾンビモンスター系は火に弱いから俺のお得意様だ。ゾンビソルジャーぐらいまでなら簡単に仕留められる。でもゾンビジェネラルとかリッチにまで進化したモンスターならちょいときつい、というか逃げる。この前の学園ではオークナイトにも殺されかけたからな。
あの水で出来たオーク騎士に助けられなかったらマジで死んでた。
そういや、アリシアの話によるとあのオーク騎士を作ったのは豚公爵らしい。よく考えれば、あんなふざけたことをするのはあいつぐらいってモンスター襲撃事件の後は皆で笑いあったよ。
今度、お礼でも言っとかないとな~、と思ったらあいつは行方不明なんだったっけ。
まじでどこに行ったんだろうな豚公爵。あの綺麗な従者さんもいないし、あ、そういえば平民の生徒も一人消えたらしい。みんな、無事だといいな。
「そういえばシューヤは前から冒険者登録してますわよね、何級ですの?」
「俺? D級だけど」
「それってすごいんですの?」
「うーん、どうだろ。C級冒険者にでもなれば冒険者の仕事だけで食べていけるって言われてるけど俺は今まで実力試しに潜ってただけだし。おい、何だよそのつまらなそうな顔は。お前がどう思ってるのか知らないけどダンジョンに潜るってのは結構大変なんだからな!」
ダンジョン潜りはいつだって命の危険と隣り合わせだ。
自分の体力や消耗品の数を確認しながら少しずつ奥へと進み、いつ暗がりから飛び出してくるモンスターに襲われるか分からない。そんな危険な仕事なのに冒険者になるやつが後を絶たないのはそれだけ稼げて成り上がれる仕事だからだ。
俺はダリスの貴族だけど、学生のうちは自分の力を試したいと思って冒険者ギルドに登録した。
短い時間を要領よく使ってようやくD級冒険者になれたのだ。
そんな俺の苦労もまだまだ世間知らずなアリシアにはよく分からないらしい。これだからお姫様育ちってやつは……。
「聞いたかよ! 冒険者ギルド本部が直々にスロウ・デニングを特A級冒険者に指名したって!」
「特A級に指名されたからってS級になれるとは限らないだろ。最近は特別クエストの挑戦が与えられても成功の気配すら見えなかった奴らばっかりだし……あのアークフレアがギルドから指示を受けて皇国のダンジョンを潰しに行ったって話だけど、これであの変態も特A級冒険者の仲間入りって噂もあるしな」
「……また豚のスロウの話が聞こえてきましたわ。特A、特Aって、A級と何が違うんですの? A級よりお得なんですの?」
「特A級冒険者ってのはS級になるための試練に挑戦出来る冒険者のことだ。ていうかアリシアお前、ほんと冒険者について何にも知らないんだな。お前んとこのサーキスタが一番ダンジョンの被害食らってるって話だろ?」
S級冒険者、それは冒険者なら誰もが憧れる最強の称号。
何もしなくとも冒険者ギルドから毎月多額のお金が至急され、ダンジョンに潜るための装備とかポーションとか全部支給される。しかもS級冒険者は自由連邦じゃ街での飲み食いとか全部無料だし、どこの国でもすっげー良い待遇が受けられる。
質の維持のため、同時代に七人しか認められない栄光の冒険者。
今は六人いるからS級の誰かが冒険者家業を辞めるか後進に道を譲らない限り、S級になれるのはあと一人だけ。
そんなS級に挑戦出来る特A級冒険者に豚公爵が任命された。
「う、うるさいですわ! それで豚のスロウの話ですけどあいつは冒険者なんかじゃなかった筈ですわ! それが何でいきなりそのとくAって奴になれたんですの?」
「そんなの俺だって分からないって、皆が不思議に思ってるからこんだけ大騒ぎになってるんだろ? まああの黒龍討伐にはそれだけの価値があるって冒険者ギルドが認めたんだろ」
特A級冒険者に認定される冒険者なんて数年に一人、出るか出ないかってぐらいだ。最近だったら
魔剣、フランベルジュ。貴重な魔法鉱石がふんだんに使われた魔道具なんてダンジョンの奥でも滅多に見つからない貴重品。
羨ましいったらありゃあしない。
「~~~何だかずるいですわ……豚のスロウばっかり!」
「あいつはドラゴンスレイヤーになっちゃったからなあ……。しかもあの黒龍、ドラゴンの中でも古龍って言われてるぐらい長い時を生きてたらしいぞ。水晶が言ってたから間違いない」
クルクルと指先で水晶を回す。
カジノで金を失ってからは得意な占いで一稼ぎしようかと思ったけど折角俺達はあのダンジョン都市にいるのだ。
ガッチャガッチャと重そうな鎧を着けた冒険者達がそこら中を闊歩する荒野の都市。この街に冒険者がやって来て、ダンジョンに潜らないってそんな話聞いた事が無い。
よーし、俺もここで金を貯めて魔道具の一つや二つ欲しいな~~。
冒険者だってのに俺、今まで魔道具一回も買えたことないんだよな……。
魔法鉱石を産出してたあのウィンドル領が呪われてから魔道具の価格は上がる一方。
俺が生まれる前は魔道具が今の半額以下で手に入ったって聞くし……D級冒険者ぐらいの稼ぎじゃちょっとした魔道具でも手が出ないんだよな~……。
アリシアの借金返済もあるし……えっと、後890万……5356ヱン……はぁ。
「……シューヤ。やっぱり水晶を持ちながら歩くのは可笑しいと思いますわ。学園では慣れましたけど皆ジロジロ見てますし、一緒に歩くの恥ずかしいですわ」
「お前恥ずかしいってそりゃあないだろ! そもそも俺を荷物持ちだなんだってこんなとこまで連れて来たのはお前だろ!?」
「……それはそうですけど、これはこれですわ。いっつも水晶持ってますけどその水晶って占い道具なんですの? でもダンジョンに持っていくんですわよね、じゃあ武器なんですの? 今になって気になり出しましたわ」
「はぁ、何度言ったら分かるんだよ。いいか、アリシア。まず俺とこの水晶の出会いからだけど―――」
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