114豚 水竜とダベる

 闇の大精霊さんから魔道具を通じて通信がきた。

 やったぜやったぜ、本当によかったー。

 あの時、闇の大精霊さんから反応が無かったから俺の声が届いていないのかと思って心配になっていたのだ。

 闇の大精霊さんをおびき出すことに失敗したら俺の計画は丸つぶれ。

 その時はもはや帝国に乗り込んで闇の大精霊さんを帝王から引き離すことも辞さない覚悟だったからな。


 心配で胃が小さくなってしまったぐらいだ。

 オークの里の料理当番オークさんが出してくれる大盛りご飯で満足してしまうっていう異常事態に陥ってしまったぐらいだからな。

 通常の俺ならあの倍、本気になればあの四倍でやっと満足感を感じれるのが俺のスタンダードなのだ。

 黒い豚公爵時代の負の遺産はまだまだ残っているのだ。

 よし、オークの里に帰ったら料理当番オークさんに特盛りを頼んでみよう。


 いやー、それにしてもさすがは死の大精霊の卵である。

 アニメと同じような闇の大精霊さんの必死な声を聞く事が出来て、満足感を感じている俺がいた。


「でもこうなると、何だか申し訳ない気もしてくるな……死の大精霊の卵ってただのガラクタだし……。どうやって闇の大精霊さんにこれはガラクタだよーって伝えよう。一番ダメージの少ないやり方で伝えないと……」


 先ほどの声を思い出してみると、闇の大精霊さんは思惑通り俺の方に向かってきているようだ。

 諸悪の根源である闇の大精霊が俺の元に。

 つまりラストマッチか。

 その時は見事、悪を成敗してくれよう。


 ん? 

 闇の大精霊さんが何で俺の居場所が分かるのかって?

 ふっふっふ。


 俺は今、人間からモンスターであるオークに姿を変えており、闇の魔法を常時放出している状態だ。

 自分だけならまだしもシャーロットとアルトアンジュを含めて三人も姿を変えている。風の大精霊さんは人間じゃないだろってつっこみは無しだ。

 つまり、常に気を張って大きな闇の魔法を維持している状態なのだ。

 闇の魔法の気配に敏感な闇の大精霊さんなら俺の居場所が手に取るように分かるだろう。

 後は帝国の王様がどう動くかだけど、戦争を思いとどまってくれたらと祈るばかりである。


「すごーい。今の声どっから聞こえてきたのー?」


 さて。

 俺が闇の大精霊さんとの通信を切ってまで何をしているのかと言えば。

 

 実はポイズンスネイクに汚されたこの泉はとっても深くて―――。

 ―――水竜さん達が住まう地下水脈に繋がっているのである。

 アニメ知識、万歳。


「ごめんね、リューさん。ちょっと知り合い? から連絡があってさ。はい、ヒールの追加」


 巨大な泉からぴょこんと顔を出した水竜さん。

 頭だけ見ればイルカにちょっと似てるかも。でもその水面の下に隠された身体はブラキオサウルスのように巨大なのだ。

 まさに竜、竜じゃなくて竜。

 ちなみに黒龍セクメトと同じドラゴンに分類されるモンスターである。

 好戦的なドラゴンを龍と呼び、人畜無害なドラゴンを竜と呼ぶのだ。


「ありがとー、それにしても君の水の魔法は気持ちがいいなー。この辺の水質が悪くなったから最近は余り来てなかったんだけど、君の手に掛かれば前よりも水が綺麗になるかもしれないなー」


 俺は水の魔法、ヒールを泉に向かって使うと同時に水竜さんにも上げていた。

 この水竜さんの名前はリューさん。

 アニメの中でも終盤に大活躍した心優しいモンスターだ。

 俺はオークの里に越してきた翌日からすぐに水竜のリューさんとコンタクトを取ろうと頑張った。毎日、泉をちょっとずつ浄化しながら、泉にやってくるリューさんを待ち続ける。

 ようやくコンタクトが成功したのは数日前だ。

 泉が元通りとまでは言わないけど、かなり綺麗になったときリューさんはこの泉に戻ってきた。


「それでリューさん。さっきの話だけど」


 俺は汚れてしまった泉を水の魔法で浄化していると話せば、すぐに仲良くなることが出来たのだ。

 水竜さん達にとっての水質は俺たちにとっての空気みたいなものらしく、リューさんは最初善意で泉を浄化している俺を「神さまなのー?」と勘違いしていたほどだ。


「うん、いいよー。ここのモンスター達をウィンドル領の泉まで運んであげるー。陸地に住むモンスターが困ってるって話はたまに聞こえてきたからねー。僕や僕の友達の水竜も心配してたんだよー。でもスロウ。人間でしょー? モンスターのためにお願いなんてやっぱり変わってるなー」


 モンスターは長寿のものは数百年近く生きる者もざらにいる。

 長生きしてると精霊の声ぐらいは聞こえちゃうんだーとはリューさんに教えてもらった。

 リューさんは俺に纏わりつく精霊の存在を感じ、俺がオークに化けた人間だとすぐに気付いたのだ。

 最初は「人間の神さまなのー?」と警戒してたけど、俺がモンスターのために動いていることを告げると「やっぱり神さまだー」と警戒を解いてくれたのだった。

 こら、単純すぎわろたとか言わない。

 リューさんは疑うことを知らない心優しい水竜さんなのだ。


「モンスターも人間もハッピーになれる場所があるんだから活用しないとさ」

「ウィンドル領は普通の人間は入れないもんねー。それより人間もハッピーってもしかして魔法鉱石のことー?」

「ははっ、リューさんには叶わないな」


 それにしてもやけに人懐っこい水竜さんだ。

 アニメの中でも地下水脈から帝国に侵入したり、逃げる時に手を貸してもらったりで大活躍の水竜さん達。

 影のMVPと言っても差し支えないだろう。


「じゃースロウ。泉の水が綺麗になったらまた呼んでねー。次は友達も沢山呼んでくるよー」


 そう言ってリューさんはざぶんと泉の中に潜っていった。

 オークの里の皆が飲み水として使っているこの泉はとっても深く、泉の底から地下水脈に繋がっている。

 水竜さんは自由に地下水脈を移動出来るので水中の案内人とも呼ばれているとっても珍しいモンスターだ。あんまり人前に姿を見せるモンスターじゃないため、今回俺がオークの里にいる間に出会うことが出来たのはすごくラッキーなことである。

 うん、やっぱりこれも主人公補正ってやつだな!

 ぶひぶひぃ!

 

「さーてと。これでモンスターの問題が解決しそうだな」


 俺はそんな彼ら水竜さん達に、北方から皇国へ続々と集まっているモンスターをウィンドル領に運んでもらおうと考えたのだ。


 この泉は元々水竜さん達の癒しスポットであったらしいのだが、住み着いたポイズンスネイクが水質を悪くしたため水竜さん達はひじょーに悲しんでいたらしい。

 俺が泉を浄化していることやモンスター大移動のお願いを簡単に説明すると、水竜のボス的存在であるリューさんは「何て優しい人間の神さまなんだー」と快くオーケーしてくれた。


「よっしゃーーー!!!!」


 水竜のリューさんやそのお友達にウィンドル領の水場までモンスターを運んでもらう! 南方の国々が皇国に住むモンスターに攻撃を仕掛ける時には既にもぬけの殻。ダンジョンモンスター以外はいなくなっている筈だ。


 これでエアリスを襲ったガラスの涙事件は起こらない!

 さらに闇の大精霊さんも俺の元に向かってる!


 後は洗脳が解けた帝国の王様が平和主義に向かったら、もう大きな問題は全て解決といってもいいかもな!


「ぶっひーーー!!!!! ヒールヒールヒールッ!! またまたヒール!」


 俺はぶひぶひ~と泉を浄化させながら狂喜乱舞!

 オークの魔法使いはすごいのだ!


「ヒールヒールヒールッ! !ヒールヒールヒールッ! !ヒールヒールヒールッ!!」


 それにしても水の魔法、ヒールは便利すぎィ!!

 癒しも浄化も回復も術者の力量によっては何でもあり!! 

 よーし、世界が平和になったら自由気ままに遊ぶぞー! 

 ぶっひ! ぶひぶひ!

 ぶっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 闇の大精霊、ナナトリージュ! はやくやってこいーい!!! ぶっひぃぃぃぃぃぃぃい!!!!

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