108豚 オークの魔法使いは即行動!

「スローブ! これがオークの里ぶひ! 皇国に舞い降りた奇跡ぶひよ!」

「すごい……沢山のオークさん……! あとスローブ様! 私、不思議とすごい見られてる気がします! 」


 オークの里は森を背にして作られていた。

 草原側にはぐるっと手作り感溢れる木の柵が建てられており、柵の外からでも中の活気は伝わってきた。

 石を重ねて作られたあろうしっかりとした四角い家がそこら中に建てられており、ガヤガヤぶひーぶひーガヤガヤぶひーぶひーと騒がしい声を上げながらオーク達が家を出入りしていた。

 沢山のオークがえっほえっほと材木を運んだり、料理をしていたり、子供オークが走り回っていたり、統一された秩序がオークの里には確立されていた。


「「「スローブ~、スローブ~。オークの魔法使い~~」」」


 あ、さっき倒したでっかいトカゲさんがぶっひぶっひと里の奥に運ばれていく。

 なむなむ。

 オークの里に向かう途中に聞いた話ではリザード系のモンスターは肉が美味しくて、アタックリザードさんは今日のご飯になることは疑い無しのようだった。シャーロットもその味には興味津々でり、「スローブ様! どんな味がするんでしょう! 楽しみです!」と楽しげだったので俺も嬉しくなってくる。

 オーク達が皇国の村を見様見真似て作ったらしいオークの里。

 まぬけと思われているオークががちゃりとドアを開けて家に出入りする様子は何だかシュールだ。……あ、ドアが壊れた。オークは力が強いから力加減が難しいんだね、しょうがないね。

 それにしてもモンスターが生活している村を見るのは初めての経験で刺激的なことだった。シャーロットも俺と同じ思いのようで興味津々できょろきょろとオークの里を見回している。


「にゃあああああああ!!!!!」

「ぷぴ~、変な猫が追いかけてくるぷぴ~」

「大精霊さんがさっそく子供オークを苛めてる……」


 沢山のオークがいるもんだから何か特徴が無いとシャーロットも誰が俺なのか分からなくなってしまうだろうと思ってたけど、オークの里のオークは千差万別だった。

 片足だけ靴を履いているオークがいたり、頭に葉っぱを乗っけてるオークがいたり、枝を加えてカッコつけてるオークがいたり、お前は剣士かよとつい突っ込みたくなるな。

 その後もここは遊び場でー、ここは砂場でー、高機能なオークの里を紹介してくれるブヒータ。


「これで一通りオークの里の説明が終わったぶひよ! スローブには助けてもらったからブヒータが面倒を見てあげるぶひよ! 二人にちょうど建てられたばっかりの家をあげるぶひ!」

「それはありがたいぶひ! ……くんくん。ブヒータ、この匂いは何だぶひ?」


 突然だけど俺は食事の匂いには敏感なのだ。

 だって俺は元黒い豚公爵! 例え見かけが変わっても蓄えられた経験や技能は受け継がれているんだぜ! ぶひぶひぃ!

 何やら肉の焼けるいい匂いが漂ってきたぞ? ふむふむ、これは新鮮な肉だ! 

 ぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


「スローブ! オークの里のご飯はすごいぶひよ! 料理上手なオークが沢山いるんだぶひからね!」


 ひゃっほう!

 おら、ワクワクしてきたぞ!



 さて食事の時間だ!

 俺たちは特別に食事の時間の前にご飯をもらっていた。

 青空教室のように木の机と椅子が置かれたゾーンがあり、そこがオークの里の食事場所らしいのだ。

 湯気を立てる温かな料理。

 肉とか野草が木の器の上に山盛りで盛られ、料理を目にしたシャーロットが感心したように頷いている。何も言わない所を見ると、ちゃんとした食べられる野草のようだ。

 そして肝心の味はというと!


「うま! これうんめーぶひ!」

「すごい……美味しいですね」

「アタックリザードの肉ってさっき料理係のおばちゃんが言ってたぶひ!」


 シャーロットがなるほど、これがトカゲのお肉……奥が深いですと言いながらパクパクと食べていく。いやー、本当にシャーロットは逞しいなー、俺は遠い目でサキュバス姿のお姫様を見つめる。

 しかしまあ本当に食事とはいいものだ。

 熱が五臓六腑に染み渡り、身体に活力を与えてくれる。


「いいなー。俺達もご飯食べたいぶひー」


 本当はまだ食事の時間じゃないらしく、他のオーク達が羨ましそうに俺たちを見ていた。けれど、俺がオークの魔法使いという話はあっという間にオークの里を駆け回り、巨大なトカゲもオークの魔法使いが仕留めたらしいとの噂が広まると、それじゃあ仕方ないぶひな~と他のオーク達は納得しているらしかった。


「「「オーク~、オーク~、スローブは、オークの魔法使い~」」」

「ブヒータ、あれは?」


 オークの里にいるオーク達は基本的に元気だ。でも中にはごっほごっほと咳をするオークがいたり、傷でもあるのだろうか頭を押さえて痛いぶひ~と涙を流しているオークもいた。

 ……ていうか痛いぶひ~って何だよ。モンスターの村だというのにえらい親近感が湧いてくるオークの里なのであった。


「おいら達が水を汲んでる泉にポイズンスネイクが住み着くようになって、水がどんどん汚れていくから体力の無いオークが病気にかかるようになったぶひィ。一度おいらがポイズンスネイクを泉から追い出そうとしたぶひけど、毒を喰らって一晩寝こんじゃったぶひィ……」

「ポイズンスネイクぶひか? あいつは住処に毒をまき散らすぶひからぶひねぇ……。ブヒータはもう身体のほうは大丈夫なんだぶひ?」

「……ブヒータはオークキングぶひ! 皆に弱った所は見せられないぶひィ」


 ブヒータはニヤリと笑った。

 そういえばブヒータはオークの里の皆から声を掛けられる度に元気そうに笑い返していた。

 オークキングという役割をしっかりと果たしているらしい、モンスターだけど尊敬するな。


「怪我をしているオークが多いのは人間の冒険者にやられたんだぶひィ」

「冒険者? ……そうか、そういえばオークの里に来る途中で見た村も魔法で壊された跡があったぶひね」

「さすがスローブぶひ。よく気付いたぶひ。最近、どこからかやってき性質の悪い冒険者が森の中にいついちゃったんだぶひ」


 どうやら性悪の冒険者が皇国に入り込んでいるらしいな。

 皇国は今、取り締まる国軍もいないから、道から外れた冒険者にとっては皇国はまさにやりたい放題出来る環境に他ならない。


「でもスローブと出会えてよかったぶひ。ちょうど今度泉にポイズンスネイクを討伐しにいく予定だったぶひ。スローブみたいな強いオークは珍しいから是非力を貸して欲しいぶひィ!」

「役に立てるか分からないけど頑張るぶひよ!」


 さて、泉に住み着いたとされるポイズンスネイクは飲み水に関わってくるから出来るだけ早く討伐したいところだな。

 そして平行して俺は死の大精霊の卵も見つけないとないけない。

 死の大精霊の卵は闇の大精霊さんを帝国から誘き出すための重要アイテム。

 皇国の有名観光地、大樹ガット―の根元に埋められた死の大精霊の卵、シャーロットに大樹ガットーの場所を道中で聞いてみたけど行った事が無いらしく、詳しい場所は分からないと言っていた。


「ところでブヒータ。大樹ガット―って知らないぶひ?」

「大樹ガット―ぶひか? 知ってるブヒ! というか皆知ってるブヒ! だっておいら達は大樹ガットーのすぐ傍にある泉から水を汲んできてるぶひ!」

「え! 知らなかったぶひ! でもそうならブヒータ! ちょうどいいぶひ! 今からポイズンスネイクを退治しにいくぶひよ!」

「今からぶひか!? でもスローブ、さっきあんなに魔法を使って力は大丈夫なんだぶひ!?」

「大丈夫ぶひ! おーれーはとっても強いオークの魔法使いぶひからね!」


 機会があるなら即、行動だ!

 さあ、行くぞ死の大精霊の卵! そして待ってろよ闇の大精霊ナナトリージュ!

 ぶひぶひぃ! ぶひぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 帝国との戦争を止めるために、いざいかん!!!

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