107豚 ピクシー、その名をエアリス
頭に白い花冠を乗っけた可愛らしいピクシーが空からゆっくりと降りてくる。
パタパタと羽をはためかせ、ちょっと厳しい目つきの真面目系なピンク髪の委員長。
キリッとした顔をしているくせに、スクール水着のような質感の薄い水色の服を着ている。
いやこれって服って言えるのか? どこからどう見ても水色のスクール水着なんですが……。
そう! 人間のお姉さんがコスプレしているようにしか見えない彼女こそ真面目系委員長! じゃなくて薄いピンク髪のピクシー、エアリスなのだ。
「スローブ! このパタパタって浮いてる方が今皇国を支配しているモンスターのボス! エアリス様ぶひィ! 皇国の外に出て人間に迷惑を掛けないようにって命令を出してるちょっと変わったモンスターぶひィ!」
森の妖精と呼ばれピクシー達は純真であどけない顔をしているのに、水着やスクール水着としか思えないハレンチな服を着ている。
それが直接的な理由かは知らないけど、そんなピクシー種はモンスターオタクの中ではサキュバスと双璧を為すほどの人気があるモンスターなのだ!
そんなギャップがとてもグッとくるピクシーのエアリスは……ふむ。シャーロットよりも一回り大きなトマト、……じゃがいも? ……いや、ワンサイズ大きいトマト?
ぶひぃ……? ぶひ?
ぶひぶひ、ぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!!!!!
「浮いてるとはひどい言い方ね……これは浮いてるんじゃなくて飛んでるのよ。まあ羽を持たないモンスターには分からないかもしれないけど……それに私が変わったモンスターって貴方にだけは言われたくないわブヒータ。相変わらずのハイテンションオークっぷりに私は頭がきーんとして頭痛がしてきたわ……」
エアリスがブヒータを呆れたように見つめている。
それにハイテンションオークとは面白い言い方だ、まさしく俺も同じことを思っていた。
まさか皇国にこんな陽気なモンスターがいるとは思わなかったのだ、しかもそれがオークを統率するオークキングというのだから驚きだ。
俺の後ろでシャーロットが興味津々でピンク髪のスクール水着さんならぬエアリスを見上げている。ピクシーとサキュバスは妖精と淫魔、ちょっと姿が似てるから親近感も沸いているのかもしれないな。
主に服的な意味で。
「ブヒータは喋り出したらきりがないから無視するわね……それでさっきの質問だけど、こいつらのオークの里は人間の文化を持ち込んだ変わったオークキングが現れたせいで個性的なオークが増えたのよ。片足だけ靴下を履いて自分らしさを演出するオークとかも現れているの。もうワケが分からないわ」
「片足靴下オークはブヒヒヒータが考えた至高のおしゃれぶひィ! ちなみにブヒータはオークキングだから王冠ぶひィ! 王様なんだぶひぃ! あ、それでエアリス様! 新入りのスローブは喋れる知的オークで魔法も使えるぶひィ! さっきすごい威力の魔法ででっかいトカゲを仕留めたんだぶひィ!」
「ええ上から見てたから知ってるわ。いきなりモンスターが空に飛んできてビックリしたわよ。それでそこのオーク、スローブとかいったかしら。一体どういうことなの? 魔法を使えるオークなんて聞いたことも無いわよ」
エアリスは地に立って俺と向かい合う。
身長はオーク姿の俺よりちょっぴり高い、ということは人間状態の俺よりはちょっとだけ同じぐらいか。
基本的に小柄なピクシー種の中ではかなりの長身の部類だ。
それにしてもさすがピクシー種、驚くぐらい綺麗で端正な顔をしている。
さらに良い匂いがする、何かの花の匂いかな。
「その杖はどこで手に入れたの?」
「これは父親のぶ・ぶーから受け継いだんだぶひ」
エアリスがひくひくと動くこめかみの辺りを抑えた。
「……オークの名前のセンスだけは本当に理解出来ないわ……ええと、それでさっきアタックリザードを風の魔法で飛ばしてたわね。あれだけでもとんでもない威力だけど、もしかして他にも何か魔法が使えたりするのかしら」
「風の魔法とちょっとだけ他の魔法も使えるぶひ」
「他の魔法ねえ……」
エアリスがほんとに~と森の妖精さんらしからぬ疑いを含んだ目つきで俺を見る。
よし、それでは見せてしんぜよう!
俺はバレリーナのように片足立ちで、杖をピッと振った。
「風よぶひー!! 水よぶひー! 火よぶひー! 土よぶひー! 光よぶひー! 闇よーぶひ!」
かまいたちが起きたり、ちょろろろーっと水が流れたり、草がちょっぴり燃えたり、地面がぽっこりと盛り上がったり、ピカッと光ったり、ぞぞぞって闇が迫って来たり。
するとエアリスは一瞬きょとんと静止して、それから―――
「は? はああああああああ!!???」
可愛らしい姿に似つかわしくない、とんでもない声を出していた。
簡単な六大魔法だっていうのにエアリスの俺の魔法に対する衝撃はとんでもないようだった。
「スローブ! すごいぶひー! オークの魔法使いは六大魔法が全部使えるぶひな~!」
エアリスは口をぽかーんとあけて俺を見ている。
形の良い眉がピクリと動いたり、意識がちょっと飛びかけているようだった。
本当は杖が無くてもいいんだけど、それじゃあ格好つかないからな!
「「「オーク~、オーク~。スローブはオークの魔法使い~」」」
「「う、歌うのは止めなさい! これはとんでもないことよ! 貴方ほんとにオーク? ねえほんとにオークなの? ピクシーの私でさえも風と水の魔法しか使えないのよ!?」
「お、オークぶひよ……」
エアリスが詰め寄らんばかりの勢いのため、どもってしまった。
「オークは基本的にでぶばっかりなのに……シュッとしてるわね。それに服を着ているわ。あの個性的なオークの里でも服を着たオークはいなかった筈よ」
「エアリス様! スローブは国外のダリスからやってきたオークぶひよ! 服を着てるのはファッションらしいぶひ! スローブはオークの魔法使いだけど、ファッションにも気を使う先進的オークなんだぶひィ!」
「先進的オーク? 何よそれ……」
じーっとエアリスは俺のことを観察している。
う、モンスターとはいえ殆ど人間と変わらない美人にこんな至近距離で見つめられると何か恥ずかしいぞ!
そ、それに別に俺が知的オークとか先進的オークとか名乗ったわけではないぞ!
「で、何で貴方達は皇国に来たの?」
「えーと。ダリスも冒険者が増えて生きてくのが大変になったぶひ! 皇国に来れば北方の強いモンスターが守ってくれるって噂を聞いたぶひ!」
「あら、もうそんな噂が外に広まってるのね……それで、貴方達はブヒータと一緒にいるってことはオークの里に向かうつもりなの?」
「そうぶひいエアリス様! スローブはおいら達の里の一員になるんだぶひ!」
「……そうなの?」
エアリスが俺に確認する。
「まあえーと。そうですぶひ」
「ふーん。ねぇ、ちょっと気になってたんだけどそこにいるのはサキュバスよね? 皇国には人間が滅多にいないけど生きていけるのかしら。サキュバスって人間の精気を吸い取るモンスターじゃない。大丈夫なの?」
「エアリス様! シャーロットちゃんはスローブの恋人らしいぶひィ! つまりはそういうことぶひィ!」
「ぇぇぇぇ!!!! 」
ブヒータの言葉にエアリスが滅茶苦茶驚いていた。
それはもうのけぞって、漫画ならガビーンと効果音が付きそうなぐらいの驚き方だった。
「え!? そうなの貴方!?」
「はっ、はい!」
シャーロットが反射的に答えた。
エアリスはシャーロットの前に立って本気? とかオークの何がいいの? どうしてサキュバスなのに身体を隠してるの? とか オークよオーク、とか好き勝手なことを捲くし立てていた。
「えっと……その……」
森の妖精とも言われるピクシーはその可愛らしさから別名、恋のキューピットとか様々な諸説を持っているモンスターだ。
「うんうん、いいのよ。分かるから」
一体エアリスには何が分かるというのか。
そこには皇国のボスなんて威厳はあったものじゃない! ただの恋愛ゴシック好きなニヤニヤ妖精さんとしか思えないぞ!
ぶひぃ! オークの何が悪いんじゃーい!! ぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
「なるほどなるほど~。これはまた面白そうなモンスターがオークの里に来るようね。でも私は今からユニコーンの村に行かないといけないからここでお別れよ。また後でオークの里に顔を出すから、その時に色々話しましょうね、サキュバスのシャーロットちゃん」
「はっ、はい!」
エアリスは空の向こうへとパタパタ~と羽をはためかせ、空の向こう側へ旅立ってしまった。
それよりユニコーンの村とな? やっぱり皇国はモンスターの楽園となっているようだ。サキュバスの村が無いのは残念だけどね! ぶひぃ。ぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
でも、これはエアリスに気に入られたってことでいいのかな?
「スローブ! シャーロットちゃん! それでは気を取り直してオークの里に向かうブヒ! もうちょっとで着くぶひよ!」
よっしゃあ、行くぞ~!
オークの里で荷物を置いたら、スコップ片手で宝探しじゃーい!!!
「「「オーク~、オーク~、スローブはオークの魔法使い~」」」
ぶっひ~~。ぶっひ~~。ぶっひ~、ぶひひっひ~!
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