106豚 A級冒険者:火炎浄炎(アークフレア)
ダンジョンの地下は四足歩行のモンスター、リザードと呼ばれる巨大化したトカゲモンスターの住処になっているようだった。
堅い土の壁面には大小さまざまな穴があり、その中から次々とリザード種が飛び出してくる。
恐らくどこかの穴の中にダンジョンコアがあるのだろう。
しかし、溢れるように飛び出してくるリザードの群れを駆逐するまではダンジョンコアを破壊することは難しそうだった。
「あらもう嫌だわ~。どうして弱いくせに次から次へと出てくるのかしら。大人しくダンジョンコアを破壊させてくれたらすぐに出て行くつもりなのよん?」
「タフなリザード種もこの有様! さすがA級冒険者っす!」
「リンカーンの姐さんの噂は聞いてましたけど想像以上ですよこれ! B級とA級冒険者の間には高い壁があるって言われてるけどその意味がやっと分かったっていうか! あっ、またリザードがきますよ! 姐さん!」
「はいは~い。それにしてもあんたら清々しい程の人任せね~、それでB級になれたって言うんだから冒険者の質の低下を嘆かずにはいられないわ~っと、リザードは任せなさ~い?」
ワイルドで野性味のある男は肩に担いだ大剣を何も無い空間に向かって一薙ぎさせ、身体をくねらせる。
それだけで三人の冒険者へと突進してくるリザード達が一匹、また一匹と炎に包まれていった。
素早い動きが特徴的なリザード種は襲い掛かる炎を交わし切れずに為すすべも無く炎に包まれていく。中には強い炎耐性を持つレッドリザードもいるようだったが、男の大剣から溢れ出る火炎の波の前には無力のようだ。
その異様を光景を生み出している半裸の男、その身体は筋肉の繊維が皮膚から浮かび上がる程鍛え抜かれており、抉られたかのような生々しい傷跡からは歴戦の戦士としての誇りや貫録を感じさせる。
「おお! やったっすかね!」
打ち止めとばかりにリザード達が穴から出てこなくなり、血気盛んな若き二人の冒険者がリンカーンを急かす。
「じゃあダンジョンコアを探しに行きますか姐さん!」
「ちょっと待ちなさ~い貴方達、ダンジョンコアを破壊する前にダンジョンのボス、ダンジョンマスターを倒さなきゃ。だってそれが冒険者としてのルールじゃな~い? それにほーら、出てくるみたいよ~?」
壁面に穿たれた一際大きな大穴からどしん、どしんと大きな足音が聞こえてくる。
紛れの無いダンジョンマスターのご登場。
半裸のオカマ冒険者、リンカーンは己の背後に立つ二人に声をかけた。
二人はリンカーンが一時的にパーティを組んでいるB級冒険者コンビだ。
「あなた達~? もっと私から離れなさ~い? このダンジョンにとっては絶体絶命のピンチだから、多分ダンジョンマスターちゃんもダンジョンコアを食べてパワーアップしてるわよ~?」
巨大なリザードの親玉が大穴からにゅっと顔を出し、殺意を漲らせて彼らを見ていた。
「うおでっか! あれはB級モンスターの……アタックリザードっす! でも俺達が今まで倒してきたアタックリザードとは違う……赤みが掛かってるっすね!」
「う~んそうね~……でもよくあることよお? ダンジョンコアが私のフランベルジュ対策に炎耐性をダンジョンマスターにあげたってところじゃないかしら~? まだB級のあなた達は知らないかもしれないけど、ダンジョンコアは結構臨機応変なのよ~?」
ダンジョンの最下層に現れ、暴虐の限りを尽くす人間の冒険者。
ダンジョンコアを身体の中に取り込まねば、この冒険者達。
特に半裸の男には勝てないとダンジョンマスターは判断した。
「リンカーンの姐さん! 逃げますか!?」
「逃げるぅ? A級冒険者の私が名前もついてないダンジョンのダンジョンマスターちゃん相手に逃げるう? ちょっと笑えない冗談ねえそれは~。でも結構な大きさのダンジョンマスターちゃんみたいだから戦いがいがありそうだわ~。さあ、いっくわよ~
リンカーンが持っている大剣は名高いサーキスタの未踏破S級ダンジョン『デーモンランド』の中層で彼自らが発掘した宝剣である。
火を噴きだす大剣、
「やっちゃうわよ~、やっちゃうわよ~? トカゲの丸焼きよ~?」
彼と相対したモンスターは骨の欠片すら残らないことから、
さらに彼が身に纏う輝く銀色の腕輪は冒険者としての一つの到達点であり、半裸のオカマ、リンカーンがA級の冒険者であることを如実に示している。
「さあて
だが自慢の肉体美を惜しげも無くひけらかし、リンカーンの口調から、彼がオネエ系に分類されるオカマであることは疑いの無い事実のようだった。
大陸全土に散らばる冒険者ギルドに名を知れ渡らせる稀代のオカマ、彼こそがA級冒険者、
だが、オカマを侮るなかれ。
例え変態であっても―――。
「
振り下ろされた大剣から発生する焔(ほのお)の波はダンジョンマスターに向けて疾走し、ダンジョンの最下層は眩い浄炎によって一気に焼き尽くされる。
―――
● ● ●
各地にて自然発生的に生まれるダンジョンに潜り、一攫千金を狙う者たちを称して冒険者と呼ぶ。
「大量大量ッ! やっぱり皇国は狩場っすね! 北の奴等本当にいい仕事してくれるっすよ!」
「まあ荷物持ちになってくれるって言うからパーティを組んだけど……あなた達は本当に性根が腐ってるわね~」
「へへへ、俺たちはしがない冒険者なんすよ~リンカーンの姐さん」
「冒険者っていうよりあなた達はただのこそ泥よ~、さーて次は何をしようかしら~」
大陸全土に根を張るダンジョン専門冒険者ギルド。
有名な所で言えば北方本部ハルバード、そして南方本部ネメシスの名が真っ先に挙がるだろう。
「大樹ガットーでしたっけ? 斥候に行ったフレンダがそろそろ帰ってくるんじゃないかっすね!」
「あら! そういえばフレンダちゃんがいたわねえ~可哀想にねえ~。悪い冒険者パーティに捕まっちゃって~! モンスターが沢山いる森に一人で斥候に行かせるなんて可哀想ね~」
草原の中、でっかい石の上にどっかりと腰を下ろした半裸の大男が身体をくねらせる様子は末恐ろしいものがあった。
「いやいやリンカーンの姐さんじゃないですか! 皇国にいるモンスターは雑魚ばっかよ~って、成長するにはもってこいの場所よ〜っていたいけなF級冒険者を騙したの!」
数万人にも及ぶとされる冒険者達や数百も存在するとされるダンジョンにはその実力・攻略難易度に応じて、細かくランク分けがされている。
ダンジョン内に生息する数多のモンスター。
彼らの身体部位は貴重な資源となり、ダンジョンの内部にはまるで冒険者達を誘き寄せるための餌としか思えない金銀財宝も数多存在している。
「でも何であそこにフレンダを送り込んだんすか? 何か意味とかあったんすか?」
「大樹ガットーといえば滅ぼされる前の皇国では有名な観光地だったのよ~。前回、皇国に潜った際、一度は大樹ガットーを見ておこうと思ったらあそこにオークが沢山いたのよ~。もしかしたらあの辺りに新しいダンジョンでも出来ているのかもしれないと思ってね~。攻略しなくてもダンジョンの位置情報を伝えるだけで冒険者ギルドが高く買い取ってくれるのね~。フレンダちゃんに確認してもらおうと考えたのよ~」
そして南方に拠点を構える冒険者達には今、ホットなスポットが存在する。
それこそが亡国ヒュージャック。
北方の勝者ドストル帝国によって滅ぼされ、放棄された国。
草原が生い茂る亡国には手付かずのダンジョンが幾つも誕生し、地中深くで今なお成長を続けているという。余りに大きくなるとダンジョンは周辺国家にまで悪影響を及ぼす恐れがある。
「ひっでえ、だからフレンダ送り込んだんですね! まじリンカーンの姐さん鬼畜!」
「とりあえずはフレンダの報告待ちっすね。戻ってこれればの話っすけど」
冒険者ギルドは皇国のダンジョンへ潜る冒険者達に関して幾つかの制限を設けている。
ベテランの域に達するB級冒険者以上であることや、放棄された村や家屋などの破壊・窃盗を禁ずるといったものだ。
「そうね~。それにしても貴方達、私がダンジョンコアを破壊した後。ダンジョン内のモンスターを掃除してた間何をしてたのかしらね~。こんなにお酒をどこからかくすねてきちゃって~まあまあ」
「へっへっへ、いいじゃないですか、リンカーンの姐さん! 村を壊すってのはストレス解消になるんですよ!。だが、しけた酒しか置いてねえのがいけねえや!」
リンカーンを筆頭とした一時的な四人組冒険者パーティ。
彼らもまた、手付かずのダンジョンに潜るために皇国に侵入した者達だった。
A級冒険者一人、B級冒険者二人、そしてF級冒険者一人から構成される歪な集団。
談笑の中でも若手B級冒険者コンビの目つきは鋭い、抜け目なく辺りを警戒しているのは明らかだった。
「オークじゃ~! みんな~オークの村があったのじゃ~!」
「あっ……あれ、フレンダの声っすよ。あいつ声がでかいっすねー、さすがF級!」
子供特有の甲高い声は三人の熟練した冒険者に向けられていた。
水色の髪をポニーテールにした小柄な女の子が手をぶんぶんと振りながら三人の元に走り寄ってくる。
屈強な冒険者達と比べると、彼らの半分程しかない身長は余りに頼りなげで、モンスターが集う皇国に侵入した冒険者と言うにはどこか無理がある幼(おさな)っぷりであった。
しかし、彼女こそがA級、B級冒険者のパーティに無理を言って入れてもらったF級冒険者であり―――
「あっちの森の傍にオークの村じゃ~! しかも並大抵の数ではないぞ~! あれはオークキングが支配してる村に違いないのじゃ~!」
「まあ……生きて帰ってきたのね~フレンダちゃん。死んでなくて良かったわ~」
「なにがまあじゃ変態リンカーン! あと何が雑魚モンスターばっかりじゃ変態リンカーン! そこそこ強そうなモンスターも森の中に沢山おったぞ!」
「怒らないで~フレンダちゃん~運がいいってのは冒険者としては何よりも大事よ~? あなたは運がありそうだし、この私が直接鍛えてあげてもいいのよ~?」
「いらん! 遠慮しとくのじゃ!」
そう胸を張って拒絶する元気一杯な彼女こそ―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます