95豚 オークキングも帰還する
ポコポコと泡が立ち込める巨大な沼地の中心。
ぽっこりと土が盛り上がり、唯一沈まないそこに丸太を交互に組まれて作られた祭壇が置かれている。
祭壇の中には葉っぱや枝といった燃えやすいものが次々と投げ込まれ、モクモクと夜の空に煙を立ち上らせていた。
「オークジェネラルのブーブ様も死んじゃったぶひ。一体、何が起きているんだぶひ……」
「ブーブ様は何か悪いものでも食べたんじゃないぶひ?」
「確かに何でも食べてしまう方だったぶひ。自分も食べられそうになったことがあるぶひ」
「まじかぶひ」
腰布をつけた二足歩行のモンスターが祭壇の周りに集まっている。
肌色の肌とくるんと巻かれている尻尾を持つオーク達だ。
数百体にも及ぶオークの一団がわらわらと集まり、ひそひそ話に興じていた。
中には底なし沼に足を取られ、沈んでいく仲間を助けているオークもいる。
基本的に彼らはまぬけなモンスターなのだ。
そんなオーク達は指導者であったオークジェネラルが謎の死を遂げた事で、追悼式をしているのだった。
「次なる指導者を早急に決めなさい。このままだと貴方たちは全滅するわよ」
「しかしブーブ様がいない今どうすることも出来ないですじゃあぶひ。……有望な若者も外の世界に旅立ってしまったぶひ」
「何ですって? 皇国の外には出るなってあれ程言ったでしょう! フレンダが勝手なことをしてる今、余計な火種を作られては困るというのに!」
オーク達の群れの上でピクシーがパタパタと飛んでいた。
大きさは成人男性の平均身長よりちょっと小さいオーク達と同じぐらい。
本来はもっとちびっこい筈なのだが、彼女はピクシーの変異種だった。
ピンク色主体の身体で、頭には白花を咲かせた草を編んで作られた冠を乗っけている。
遠目には可愛らしいピクシーそのままの姿をしているのだが、近くで見ると中々にきつい表情をしてオーク達を睨んでいた。
彼女こそが皇国を預かるモンスター。
北方の魔王を中心に集まるモンスターの軍隊。
今は皇国のお城周辺に集まっている魔王派を統括するエアリスだ。
「我等も止めたのですが、オークキングになると聞かず」
「進化の可能性を持つオークとはいえ、キングは種族の到達点。オークキングに進化する者は滅多に現れません。バカなの? ねえ貴方達はバカなの?」
魔王のお姉ちゃん、エアリスはプンプンと怒っている。
オークはどいつもこいつも本当に言うことを聞かない者達ばかりだ。
そんな空を飛ぶピクシーさんをオーク達は戦々恐々として見つめている。
戦闘力の高くない変異種ピクシー、エアリスが現在の地位にいるのは魔王フレンダの意向が強いことは周知の事実。
だから彼女は立場に相応しいモンスターになろうと必死に頑張っているのだけど、怒られてばっかりで溜まったものじゃないぶひとオーク達は思っている。
まあ大半はオーク達が悪いのだが。
「あ、エアリス様。占い好きの爺ちゃんが何か言ってるぶひ」
「何よ。ていうか、占い好きって何よ。占い師ですらないじゃない……」
エアリスはパタパタと羽を動かしながら、声を上げたオークを探そうときょろきょろと頭を動かす。
あれ? どいつが声を出したのかしら?
オークなんてどれも一緒に見えるから、エアリスには分からないのだ。
「爺ちゃん、何だぶひ? ……ふむふむ。爺ちゃんの占いによれば、星の煌めきと共に空からオークキングが現れるだろうとのことだぶひ」
「―――ィィィィ」
「おお! 素晴らしい占いぶひ!」
「オークキング! オークキング! ぶひ!」
「……どれだけ都合のいい占いよ……そんな都合の良い占いがあるわけないでしょう」
「ィィィィ」
エアリスの横にひゅーっと何かが通り過ぎた。
彼女は何事かと空を見上げたが、そこには何もいない。
星空が見えるだけだ。
直後にバコーンと大音量、何かが祭壇に衝突したようだった。
荒くれモンスターの襲撃かと身構えるオークの集団であったが。
「あっつい、熱いぶひィィィィ……」
特徴的な語尾から仲間だと判断したオーク達は祭壇ごと彼に沼地の水をぶっかけた。
「ぶひィィィィ。……ぶひィ?」
祭壇の中からひょっこりと顔を出したのはやはりオークだった。
オーク達はぶひーぶひーと叫び、パタパタと羽根を動かしエアリスは彼らから距離を取った。
ぶひぶひの大合唱、思わず頭痛がしたからだ。
「おおお! お前はブヒータ!」
「ブヒータ! 武者修行の旅に出ていたのでは無かったのか!? 空から帰ってくることは何と面妖ぶひ……」
「ブヒータ、その鎧はまさか! お前オークナイトに進化したぶひか!」
ブヒータは周りを見渡して、すぐに自分がどこにいるのか理解した。
沼地に、オーク、あ、それに自分がいるのここ祭壇だ。
誰か死んだのかな? とブヒータは考える。
そしてさらに空には自分を見つめるピクシー、エアリス様の姿。
ブヒータはピンときた。
「あれ? オークの里に帰ってきちゃったぶひィ?」
彼の左胸にはキングの証である赤い紋章が刻まれていた。
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