83豚 世界平和ってまじですか? 

 悪戯っぽい笑みを称えて、風の神童が口にした言葉。

 平民でありながら守護騎士ガーディアン候補にまで成り上がったシルバは面食らった。


「世界平和って……本気ですか? どうやって?」


 シルバには彼が望む言葉が実行可能には思えなかった。

 誰が考えても、彼の望む未来は分別の知らぬ子供の夢物語に他ならない。

 だけど、同時に。

 その壮大さは、己の生涯を賭けるに相応しい夢にさえシルバは思えた。


「―――」


 彼が語る言葉はまたも簡潔だった。 

 シルバは再び面食らい、そして旅のさ中で出会った者達の言葉を思い出した。


「そういえば自由連邦に逃れた皇国の民から聞いた言葉があります。彼らもあれは夢だったに違いないと言っていましたが」


 シルバは震える声で吐き出した。


「皇国に現れたモンスターには二種類いた。逃れる民を追い詰めるモンスターと、彼らを助けるモンスターが」


 ゆっくりと、スロウ・デニングは頷き、答えた。


「そうだ。魔王を中心とする勢力は今、二つの派閥に分かれている。だからこそ、俺は皇国の跡地に行かなくてはいけないんだ」


 始まりの第一歩を、己の騎士に告げる。


「魔王派の将、幻惑を司る魅惑のピクシー。名をエアリスと言い、俺は彼女と出来るだけ早く接触したい。そしてシルバ。お前にやって欲しいことが山ほどあるんだ」


 一体、貴方は俺に何をやらせるつもりですか。

 というか貴方は何を知っているんですか。

 問いたい言葉は数あれど、歓喜に震える心臓が何よりもシルバの気持ちを代弁していた。


「分かるかシルバ。俺たちがこれから始める夢物語に比べたら、黒龍なんて雑魚なんだよ雑魚」


 ドラゴンが雑魚?

 笑ってしまいそうな言葉だけどシルバの身体からは不思議と力が湧いてくる。

 マルディーニ枢機卿や、例えカリーナ姫の声であったとしてもこうはいかないだろう。

 やはり自分が仕えるべき人物は目の前の壮大なダイエットに成功したらしい少年以外にいないのだなと改めて思い知らされた。


「まあそんなこと言っても坊ちゃん一人だったら多分龍に勝てませんからね」


 思わず出た言葉は、壮大な夢を語った主へのせめてもの強がりだった。


「は? 俺は強いぞ。激強だぞ。オークさんの千倍強いぞ、舐めるなシルバ」


 シルバは笑った。

 正直に言って、とても嬉しかったの。

 己の力を求められることが、嬉しかった。

 再び風の神童が進む道を共に歩めることが、今までの苦労を全て忘れさせるくらい嬉しかったのだ。

 主の声はマルディーニ枢機卿に守護騎士ガーディアンとして国に助力をと乞われた位よりも、比べものにならないくらいシルバの心に響いたのだ。

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