84豚 エンチャント・ダリス

「坊ちゃんはずるいんすよ、色んな魔法が使えますからね。でも、今は俺の方が強いはずっす。なんせ俺もこの剣を持つ限り光の魔法が使えますからね」

付与剣エンチャントソードねえ……それにしてもそれって実際、どんな武器なんだ? あんまり情報が出てこないんだよなあ」


 俺は香水が撒かれた直後に学園を出て街道を渡った。

 あれから時間が立った今、街道は先ほどよりもモンスターがうようよしているだろう。帰りの街道超えは学園からヨーレムの町へ向かった時以上の時間が掛かるに違いない。

 もう何も考えず風で全てのモンスターを吹き飛ばしてしまおうかと考えたが、さすがにそこまで行けば俺の魔力もあっという間に尽きちゃうからな。


「ああ、こいつですか? えーと、こいつはですね、光の魔法が使えるんです、まあ俺は簡単なものしか無理ですが」

「光の魔法が使えるようになることは知ってるっつの。そんだけ?」

「えーと、あと魔力は全部光の大精霊持ちっす。使い放題ってやつですね。これ、オフレコでお願いしますよ坊ちゃん。他国に知られたらまずいですから」

「この国も結構秘密主義なとこあるよな…………っておい……。今、……何て言った?」

「え? 付与剣は光の魔法が使えるようになるってことですか?」

「違う、その前だ」


 ダリスの国宝。

 付与剣エンチャントソード

 ダリスのみでとれる不思議な金属、魔法鉱石を使って鍛えられた剣。

 魔法の付与エンチャントが可能であるが、魔法の付与エンチャントには使用されている魔法鉱石の量に比例した大きな力が必要であるとされている。

 そこらへんの魔道具なら使われている魔法鉱石も僅かだけど、 付与剣エンチャントソードなんて大量の魔法鉱石が使われてるからそんじょそこらの魔法使いじゃ力を込めることすら出来やしない。


「魔法が使い放題なんですよ。魔力は力を込めた大精霊持ちです」


 歴代の守護騎士ガーディアンは全員が貴族であり、光への適性が無くとも光の魔法が使えるようになるぐらいかなと思ってた。

 だから俺は付与剣自体に興味は余りそそらなかった。

 しかし、魔力の供給源が光の大精霊持ちだと?

 そんなこと知らなかったぞ?


「……ナイスだシルバ。それをオレに貸してくれ。ほら貸してくれほらほらほら」

「え? なんなんすか?」

「光の魔法なんてつまらないからな。風の魔法が使えるようにするんだよ」

「は? これは光の大精霊の加護で魔法が使えるようになってるんですよ! 付与剣に属性を込めるには大精霊クラスの力が必要だって坊ちゃんでも知ってるでしょ!」


 シルバが口をあんぐりと開けている。

 まるでとんでもないバカを見たかのような顔だ。

 相変わらずとっても失礼な奴である。


「問題無い問題ないんだ、シルバ―――」

「いやいや問題しかないでしょう。それじゃあ坊ちゃん、どっかの大精霊と親交があるとでも言うんですか。さすがにそれはないですよ。本当なら俺は坊ちゃんのパシリを百回やってもいいっすよ」

「ああ、嘘じゃないさ。風の大精霊アルトアンジュと俺は契約を交わしている。それと今の言葉、忘れないからな」

「ッ!!」


 シルバはしまったと言って口を抑えた。

 風の神童と呼ばれた俺がどんな奴だったか今更ながらに思い出したんだろう。

 ぶっひっひ。言質は取ったからな。

 さてと、それじゃあ風の大精霊さんにそろそろ本気で働いてもらうとしようか。


「スロウの坊ちゃん……すげえ人が悪そうな顔してますけど」

「ふっふっふ!」

「ああこれはやばいパターンの奴っすね……昔を思い出しました……」


 大精霊さんの力に俺の身体が耐えられるのか分からなかったから使わなかったけど、付与剣エンチャントソードという魔道具の極致とも言うべき媒体があるなら話は別だ。

 付与剣エンチャントソードには光の大精霊の力を付与しても問題無いほどの純度が高い魔法鉱石をふんだんに使って造られた剣。

 俺は自信たっぷりな笑みを構え、シルバに言い放った。


「さあ我が騎士シルバ。今から前人未踏、付与剣エンチャントソードに込められた属性エンチャント・ダリスを上書きするぞ! 伝説の始まりの時間だッ!!!」


 風の大精霊アルトアンジュ!

 どうせ今もだら~としてんだろ!?

 俺ばっかり働くのもあれだからお前の力、惜しみなく使わせてもらうぞ!

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