59豚 ロイヤルナイト

 ”侮るなかれ”

 ”ダリスを田舎国と侮るなかれ”

 ”あの国には奴らがいる”

 ”王族を守るために設立された騎士団こそがダリスの真骨頂”

 ”加護を与えし光の大精霊でも大貴族、風のデニング公爵家が率いる軍でもなく”

 ”純白の白い外套が戦場に現れた時こそ―――”

 ”―――騎士国家ダリスが本気になった証なのである”



 汚れの無い白をイメージされた外套を翻し、磨き上げられた魔法剣技を見せるダリスの最高戦力。

 騎士国家ダリスの顔であり、小国を南方四大同盟の一角に叩き上げた要因は洗練されし魔法と剣を組み合わせた忠義の魔法剣士。

 純白の外套を与えられ、国中の国民から憧れの眼差しを受ける彼らがこそが騎士の中の騎士―――。

 ―――王室騎士ロイヤルナイトなのである。



 今、ヨーレムの町に集結した王室騎士団の半数、凡そ三十名。

 そしてその中のさらに半数が工場区画で行われている戦闘を見守っていた。

 金貨百枚の賞金首を圧倒する平民の存在に彼らは舌を巻いていた。


「平民シルバ。あれがカリーナ姫の守護騎士ガーディアン筆頭候補か」

「カリーナ姫のお気に入り、マルディーニ枢機卿が太鼓判を押している英雄候補ですね」

「噂では聞いていたが圧倒的だな。振りが早すぎて素人なら付与剣エンチャントソードを二本持っているようにも見えるだろう」


 廃工場の壁面は吹き飛び、いつしか二人の戦いは廃工場の外で行われていた。

 中に伸びている傭兵団員達は王室騎士の魔法によって厳重に縛られ、ヨーレムの町の兵士に既に引き渡されている。

 シルバと巨体豪傑の戦いは凄まじく、戦いの余波で傷つかぬよう町の兵には下がらせた。事が終わるまでは入ってくるなときつく厳命してある。


「答えなデカブツ。お前たちの計画を」


 黒髪の長身、シルバは付与剣をただの剣のように用いて巨体豪傑の身体を刻み込んでいく。膝を斬りつけられた巨体豪傑は足を支える力を失い、シルバの宣言通り虫けらのように地面に崩れ落ちた。

 これで巨体豪傑が地に伏した回数は両手の数を超えた。

 屈辱気に唸りながら、それでも巨体豪傑は己のプライドを守るかのように立ち上がる。

 そして、こちらを蔑むようにして見ている王室騎士を目に焼き付けた。


「あの平民は何故光の加護を与えられた付与剣エンチャントソードの魔法を使わない? 加護を使えば一発だろう」

「もはや勝負は付いている、あいつは悪趣味な男だな」


 談笑しながら戦いを見守る王室騎士達の方へと巨体豪傑は走りだした。

 身体から数多の血を流しながらも、詠唱を唱え幾つもの石礫を王室騎士達に向けて飛ばした。

 傭兵にとっては必殺の魔法。

 目にも止まらぬ速さ、身体のどこかに当たれば例え鎧を纏っていたとしても重症は避けられないだろう。

 しかし王室騎士達は軽々と飛来する拳大の石を軽々と避け、魔法で粉々に砕いていく。中には欠伸をかいている者すらいた。

 

「殺してやるッ! 貴様ら全員殺してやるぞッ!!」


 それをジョークと取ったのか王室騎士達の中でも特に若い者達は笑い出した。

 いかな賞金首と言えど、相手は騎士国家ダリスが誇る最強戦力。この状況では巨体豪傑の殺意が込められた声は余りにも滑稽だった。


「平民! さっさとそいつを殺せ! 我等はお前の遊びに付き合うためにマルディーニ枢機卿よりこの場に派遣されたのではない! 我等は王室騎士! ダリスの王族を守りし国の盾! お前の遊びをいつまでも見守っている訳にはいかぬのだ!」


 石礫を炎で燃やした王室騎士が迫りよる傭兵を向かい打つように一歩前に出た。

 手を前にかざし、ボロボロになった賞金首を見据えた。 

 

「お前がやらぬのなら!」


 一人の王室騎士が詠唱を唱え、炎が巨体豪傑を包み込もうした直前。

 炎は輝く光によって打ち消された。

 王室騎士達は今起きた出来事を瞬時に分析すると目の色を変えた。


「今誰に向かって魔法を使ったのか分かっているのかッ! 平民風情がッ!!!」


 白い外套を羽織った王室騎士が全員、腰に差す剣に手を伸ばした。雰囲気が一気にピリピリとした殺気を帯びたものになる。

 だが、ダリスの最高戦力たる彼らを前にして、賞金首の傭兵を守るようにして立ち塞がる男がいた。


「主からの頼まれごとでな、この傭兵に聞きたいことがある」


 守護騎士ガーディアン候補生となっても身を飾らず、ただ平民が着るものと何ら変わりの無いゆったりとした地味な服。

 平民シルバは王室騎士達から発せられる無言の圧力に屈することなく彼らに告げた。


「俺の戦いに手を出すなら、王室騎士ロイヤルナイトとて容赦はしない」

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