57豚 魔法ってすごい

 興奮したまま暗い森の中を走るモンスター達は街道を疾走する白馬目掛けて襲い掛かった。


「グオ?」

「オグ?」


 だがモンスター達は吹き飛ばされてようやく理解するのだ。

 今、何が起きた。

 何故、自分は木々に叩きつけられているのかと。

 白馬が去った場所。

 風の奔流がぶわりとモンスターを弾け飛ばす。

 スロウ・デニングと呼ばれし嘗ての神童は未だ見えない町、その一点のみを見据えていた。

 風のようになど、そんな表現は似つかわしくない。

 白馬に乗ったスロウ・デニングはまさしく障害の全てを拒絶し、ヨーレムの町へと向かっていた。


 全属性エレメンタルマスターとしての力を全力に発揮し、白馬はまるで風に乗ったかのような浮遊感を味わっていた。

 ぐちゃぐちゃの地面がどんどん修復されていく。

 水を取り除き、風で乾燥させ、土を平らにし、叩き付けるような雨は彼らに辿り着く前に熱によって蒸発していた。

 光を用いて進むべき道を照らし、闇によって自分たちの姿を隠匿する。


 魔道大国ミネルヴァの魔導師が見れば感嘆の溜息をつく程の驚異的な魔法技術。

 それは全属性エレメンタルマスターである彼のみに許された妙技。

 道の両脇から飛び出すモンスターも空から襲いかかるモンスターも見えない風のうねりによって弾き飛ばされる。

 後ろから迫りくるモンスターも彼らに追いつけない。

 風の補助を受けた白馬の速さは異常だった。


「はぁ、はぁ」


 学園に来てからこれほど長時間精密な魔法行使をしたことなど彼の記憶にもなかった。

 そして、当然に感じる筈の魔法行使による疲労も感じない。

 可笑しいなと頭で思いつつ、彼は魔法を止めることなく使い続ける。


 彼は痩せていく。

 魔法を使い続けるごとに彼の頬はスマートになっていくが、スロウ・デニングは気付かない。


「ひひひひーん!?」


 少しずつ軽くなってゆく彼を不思議に思いながらも、白馬はその分より早く加速していく。

 嘗ての風の神童は尋常ならざる素早い魔法行使によって、本来あるべき姿を取り戻しつつあった。

 しかし、その事実に気付く者は未だ誰もいないのだ。

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