41豚 遂に傭兵が動き出しただって!?

 男子寮の部屋に戻り机の引き出しを開けた。

 記憶にある限りの情報を書いた紙とヨーレムの町の特製自作地図。地図の方には何箇所か罰点を付け、それは傭兵達のアジトとして使われている隠れ家の位置を示している。


「最高のタイミングだぜ、シルバ」


 シルバがマルディーニ枢機卿率いる王室騎士団と共にヨーレムの町に向かっているのは驚きだった。

 手紙には詳しいことは書かれていなかったけど、目的は守護騎士ガーディアン選抜試験に関することだろう。

 ダリスの次期女王、カリーナ姫プリンセス・カリーナ

 アニメを見ていた俺でも殆ど情報を持っていない。

 どんな人か気になるけど、今は他にやることがある。


 ヨーレムの町にある傭兵の隠れアジト。

 そこに本物のアルル先生が囚われている可能性が高いと俺は踏んでいた。

 窓を開くと、鋭い爪を持つ鷹のような外見の黒い鳥が部屋に飛び込んできた。

 頭には小さな郵便帽を被っている。


艇速鳥ロケットバードか。シルバ、奮発したな」

 

 一般庶民が使える鳥の中では最速を誇る配達屋。

 艇速鳥ロケットバードを借りるにはかなりの金が掛かったはず。


「頼むぞ、あいつにちゃんと手紙を届けてくれよな」

「ぐえ”え”~」

「ぶひ!? 何だこの声!?」


 びびった! 何とも特徴的な鳴き声の鳥である。

 俺はぽんぽんと艇速鳥ロケットバードの頭を撫でその足に小さく丸めた手紙と地図を括り付けると、学園の門に向かって急いで部屋を飛び出すのであった。



   ●   ●   ●



「ぶひぃ、ひぃひぃ、ぶひぃ、ひぃひぃ」


 どどどどどと学園の門まで走る最中、太った黒猫がどこからともなく風に乗りながらふわふわとやってきた。 

 そっか、そう言えば定期報告の時間だったな。


「スロウ。さっきあの女がついさっき周りを気にしながらでかい建物に入っていったにゃあ」

「建物?」


 走りながら独り言を言ってるように見える俺を怪訝そうに見る生徒もいたが気にしない! 

 大精霊さんの姿は誰にも見えないから仕方ないのだ! むしろ見えたら大変なことになるぞ! 黒猫が自由に空を飛んでいるのはちょっと刺激が強すぎる光景だからさ!


「お前がいつも走ってるあの古い建物だにゃあ」


 俺が走ってる建物?


「古い方の研究棟か!」

「多分それだにゃあ」


 今では立ち入りが禁止されている旧校舎。

 嘗ては一部の先生方が魔法の開発などに使ってぼろぼろとなった研究棟。

 倒壊する可能性があるから人の立ち入りが禁止されており、誰も近寄らないということで俺がランニングする場所に決めた場所だ。


「ついに動き出したってわけか。ならアルトアンジュ、次は研究棟の中に入って小さな瓶に入った香水がどこかに隠されていないか探してくれないか」

「香水にゃあ?」

「モンスターを呼び寄せる香水だ。ふちが青色で中に透明な液体が詰まってる」

「かったるいけど分かったにゃあ。それでスロウは今から何するんだにゃあ」

「俺は今から森に出来たらしいダンジョンの様子を見に行くよ。ああ、それと。アルトアンジュ、香水を確認出来たらしゃ……シャーロットの所に戻っていい」


 シャーロットの名前を言おうとした瞬間、さっきの光景がフラッシュバックした。


 ”好きだと”と伝えた。

 そして、真っ赤になったシャーロットの顔。

 ダンジョンのことで頭が一杯になり、意識をそちらに向けていたけど……。


 ……。

 ああ、そうか。

 俺は告白したんだな。 

 ……。

 恥ずかしいな、次はどんな顔をしてシャーロットに会えばいいんだろう。 


「にゃあ?」


 ふよふよと風に乗りながら、俺の様子を訝しげに見つめている風の大精霊さんと目が合った。


「大精霊であるにゃあに軽々しく用事を頼めるスロウはやっぱぶっ飛んでるにゃあ。あと何でシャーロットって言う時顔が赤くなったにゃあ」

「ぶほぅ!?」

 

 どうやら俺は顔が赤くなっているらしい。

 まあ……その理由は考えるまでも無いのだけど。


「……さっきシャーロットに告白したからな」


 そう。

 俺は恋心を伝えたのだ。

 長年温め続けて、今ではステーキが焼けそうな程熱くなってしまった恋心の一端を。

 ……。

 先ほどの場面を思い出すと一気に顔が沸騰する。

 俺はぶるっと身震いをした。

 ダメだ考えれば考える程、脳内がピンクに染まる。


「うわぁぁぁめっちゃ恥ずかしくなってきたああぁぁぁぁ!」

「ついにやりやがったにゃあ! シャーロットは皇国のお姫様プリンセスにゃあ! 何て恐れ多い奴にゃああ!!!」

「ぶっひぃぃぃぃぃ!!!」


 そうだ! そうだよ!

 俺はついに告白してしまった!  

 逃げるようにあの場から去ってしまったから返事も聞いてない!

 俺は走りながら風の大精霊さんと悶えた。


「ぶっひぃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁ」

「うわあびっくりした!! おい見ろよ豚公爵が奇声上げながら走ってるぞ!!!」


 追い抜く生徒の皆がドン引きしたような顔で俺を見ていた。 

 仕方ないんだって! 顔が熱いから! 滅茶苦茶熱いから! ほてってるから! 身体動かさずにはいられないから!


「早く香水見つけるにゃあ! そして告白されたシャーロットの様子を見に行くにゃぁぁあ!!!」


 風の大精霊さんは興奮したのか空中ででんぐり返しをしながら、アルル先生がこそこそと入り込んだらしい研究棟に向かって空を駆けていった。

 きも! 何だその動き!

 いつも通り風の大精霊さんはいつも通りやりたい放題のようだ。

 全くどこが風の精霊は優雅だよ。

 風の精霊の親玉的な存在であるこいつは優雅とは程遠い存在だぞ!


「ぶぶぶぶぶ!」

 

 さあてダッシュだ! 俺は全速力で学園の門に向かった。

 ぶひー! ダンジョン見にいくぞー! 結界張って早く帰ってくるぞー!!

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