32豚 身体はガチデブ! 頭脳は大人! 豚探偵―――
シャーロットの部屋に俺はいる。
椅子に座ってお茶を飲みながら、ついつい洋菓子を口に入れてしまう。そんな俺を横目で見ながら、慣れた手つきでシャーロットは紅茶を入れてくれる。
「ぱっくんちょ。うん、うまい。そしてあまーい」
従者女子寮に住まう人たちはシャーロットの部屋へと向かう俺を廊下で見てびびってた。
黒い豚公爵時代はシャーロットの部屋に来ることなんて一度も無かったからな。俺は評判の悪い黒い豚公爵とシャーロットの間には出来るだけ関わりが無いんだって学園の皆に思わせるよう必死だったのだ。
だけど、今は違う。
俺は真っ白いオークに変身した。
「これ、うんめーぶひ!」
あ、オークじゃない。真っ白豚公爵だった。
そう。俺は真っ黒豚公爵から真っ白豚公爵に生まれ変わったのだ!
パクパクとお菓子を食べながら、世界どうやって救おうかなーなんて考えてみる。最近は寝る前はいっつも考えてるぞ! 世界の救い方を!
中学生の寝る前の妄想みたいなやつをな!
「え、これアリシアが持ってきたお菓子なの? 朝に弱いあいつがねえ……それであいつと何の話してたの?」
「それはえっと……本の話とか色々……秘密です。あの、それとこれ新しい制服です!」
学園の制服、緑のラインが胸に刻まれた制服をシャーロットから受け取る。
実はもう一サイズ小さな制服を買っておいてくれって頼んでいたのだ!
「おめでとうございます。スロウ様! すごいです! ダイエットは順調ですね!」
俺は感無量に震えていた。
小さい頃、様々な魔法が使えるようになっていくたび、自分の成長具合が楽しくて仕方が無かった。
あの時の気分と同じだ。
ダイエットをして、痩せていく。
制服のサイズがどんどん下がっていく。……ぶひぃぃぃぃぃぃぃ! ぶほぉぉぉぉぉ!
「ぉぉぉ……ん?」
実は俺、さっきからシャーロットが落ち着きが無いことが気になってます。
部屋の中を行ったりきたり、そわそわとしている。
本棚に詰まっている本を取り出してみたり、窓から外を見てみたり。
「あの……スロウ様って昔。あ、いえ、何でもないです」
ぬ?
あの、シャーロットさん?
その本、反対だけど……。
「シャーロット、何かあったの? アリシアから何か言われたとか?アリシアはきゃんきゃんと喧しいからなー」
「いえ! 別に何でもないです! アリシア様はとてもよくしてくれました!」
シャーロットはあわあわと否定し、そのまま口を閉ざすばかり。
ふむ仕方ない。じゃあ俺から切り出すか。
シャーロットの部屋まで来たのは理由があるのだ。
「シャーロット、実は話があるんだ」
「……はい」
「暫くは出来るだけ外出を控えて欲しいんだ」
「……あ、はい。え?」
俺は伝える。
今、この学園に危険な傭兵が潜んでいること。学園長から話を聞いてそいつを探していること。シャーロットは真剣な顔でふんふんと頷いている。
だが傭兵の目的が生徒の情報らしいと言ったところでシャーロットの顔色が変わった。
あ、まずい。
これは言うべきじゃなかったかも。
シャーロットは自分の素性を隠してこれまでずっと生きてきたのだ。
「大丈夫、全然大丈夫だから! 生徒の情報とはいっても魔法がどれぐらい使えるかぐらいだと思うから!」
「そうですよね……私は従者ですし……魔法も殆ど使えませんし……あの、そのことアリシア様にも秘密なんですか?」
「うん、アリシアにも秘密だ。あいつは特に顔に出やすいし、ビビりだし」
それにアニメではアリシアと傭兵の間に変な因縁が生まれてたからな。
出来るだけ関わらせたくないのだ。
ほんとは風の大精霊さんにお願いして、アルル先生を数日密着ドキュメントしてもらおうと思ったりもしたんだけど……多分やってくれないだろうなー。
傭兵何て放っておけばいいが基本スタンスの風の大精霊さんだし。
今もぐだーっとしてベッドの上で死んだみたいに寝てるし。
……本当に死んでない? あれ。
あ、動いた。よかった、死んでなかった。
とりあえず、これから数日は傭兵が仕掛けた魔法を全てぶち壊しながら、より確実な証拠をを見つけるつもりだ!
当然ダイエットも並行してやりながらだ! 頑張るぞ!
主人公となった俺に不可能はないぃぃぃぃ! ぶひぃぃぃぃ!
● ● ●
それから数日は広い学園内を駆けずり回った
授業を休み様々な場所を調べまくったお陰か男子寮の傍や学園の入り口である門の傍、倉庫の中、壁の落書きの中に巧妙に仕掛けられた魔法陣を次々と見つけることに成功したぞ。
後は人から見られない時間帯を選び、仕掛けられた魔法を悉く潰していく。
大半は人間を襲う
「高度な魔方陣には供物を代償として構築する場合がある」
この世界には精霊が存在し、不思議な彼らは人間の住居や街などを余り好まない。
精霊は自然と同一の存在。
人工物があればあるほど、自然が少なければ少ないほど彼らの姿は見えなくなる。
そして、そんな精霊が好まない場所に精霊を人為的に呼び寄せるものが供物だ。
供物は精霊に好まれる術者に馴染みの深いものであれば何でもいい。
「あれ程高度な魔法陣を供物も無しに連発出来るわけがない」
様々な供物をささげ、水や闇の精霊を呼び集めているに違いない。
現に綺麗な水辺にか自生しない珍しい草や夜光石などが魔法陣が描かれた地面の中心部から出てきたが、未だ本人を特定出来るものは見つからない
「そろそろ当たりが出てもいいんじゃないかな? ぶひぶひ?」
学園に雇われた人達が住まう建物。
三階建ての建物の近く、光の当たらない木々の中にそれはあった。
「この魔法陣はでかいなー。さあ、頼むから使い手が特定できる供物で頼むぞ」
魔法陣の中心部。
精霊が異常に集まっており、陣には真新しさすら感じられる。
地面を軽く掘るとそこには土で汚れた髪の毛の束。
茶色く長い髪の毛の束から微かに香るバラキクの匂い。
「―――確定だアルル先生。いーや、伝説の傭兵さんッ!」
俺は学園長へ事実を伝えるべく駆けだした!
おらおら精霊たちどけどけー!
「ぶっひ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
身体はガチデブ、頭脳は大人! 名探偵ぶひィ様のお通りだぞー!
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