8豚 友達詐欺! 嘘だろ!?

 みんな大好き、魔法演習の授業が始まるぞ!

 俺はシャーロットから渡された今までより小さい制服を着て演習場に飛び降りた。端っこに申し訳なさげに付いている階段なんて上がる時しか使わないぞ。

 どすん! という音がして周りの生徒が何事かと俺を見る。


「相変わらずでかい音させてるな豚公爵……」

「ああ豚公爵かよ……隕石でも落ちてきたのかと思ったわ……」


 痩せたんだけど? と俺は頭の中で反論してどすどす歩く。

 演習場は四方を回りより一メートル程下にくり抜かれた広い空間だ。変な魔法現象が起こっても周囲に波及しないように配慮されているとのことだが、魔法学園の生徒が使う魔法なんて高が知れている。

 それより俺はこの授業が大好きなのだ。

 だって先輩である第三学年を入れてもこの魔法学園で俺より魔法が上手い生徒はいないからな。俺の独壇場なのだ。ぶひぶひ。


「おーい。ひよっこ共集まれー」


 ズボンのポケットに入れた香水の瓶を触りながら、演習場の中心にいるロコモコ先生の方へと歩く。

 この香水どうするかなー。魔物が出る森に探検に行くアニメ版主人公のシューヤにこっそりかけて、森でシューヤ達は逸れオーガと出会う。そしてあいつは炎魔法に覚醒して倒すっていうシューヤの強化イベントだったんだけど……。

 風の噂ではシューヤ達はオーガとの遭遇もなく見回りの先生に見つかってこっぴどく叱られて終わったらしい。


 今までの黒い豚公爵なら次の機会を見計らってぶっかけに行くかも知れないけど、俺はもう白い豚公爵なのだ。

 そんな悪いことはしないぶひぶひ。

 主人公なら自分の力で強くなって下さいぶひぶひ。


「魔法演習の授業を開始するぞー。ひよっこ共こっちこーい」


 おっと、俺は奇抜な黒いアフロとバリッとした黒シャツが格好いいロコモコ先生の元へと急いだ。

 

 魔法演習の授業は先生が指定する様々な魔法を生徒がぶっ放して、先生が改善点を述べていくってスタイルだ。

 ちなみに俺はいつも完璧な魔法を披露してお褒めの言葉を頂き、ぶひぶひ言っていたぞ。

 さーて今日はちょっと完璧でありながらも芸術的な魔法を披露しちゃうぞ〜。


「今日は二人組作ってもらって、お互いに相手の魔法のダメな所を言い合ってもらうぞー。そして言われたことをレポートに纏めて提出し、来週までに出来るようになっていることー」


 悪魔の言葉かよ!

 俺は茫然としてその場に立ち尽くした。

 ふらふらとゾンビのようにゆっくりと辺りを見渡す。

 生徒達がそそくさとペアを作っていく様子が見えた。中には仲良しの恋人と組むリア充の姿も見える。あっ、どんどん生徒達が四方へ散っていくぞ。

 俺はその場にぽつんと取り残される。 

 組む相手いねえよ!

 よくそんな鬼畜なこと思いつきますねロコモコ先生!

 俺はロコモコ先生をぎろりと睨みつけると目が合った。


「……!!」


 俺に向かって片目を閉じて見せる。

 きも! いや、あれはウィンクか!?  これはもしかしてロコモコ先生から俺へのアシストなのか!? 俺が白い豚公爵になろうと考えて一週間が経過した。けれど、ダイエット以外は全然ダメダメな俺に友達作りを頑張れって言ってるのか!?


 

 先生達の間では俺が改心し始めたって噂でも広がってるのかな?

 ランニングしてる時に生徒からは陰口を叩かれるが、先生からは暖かい視線を感じるからな!

 よし、やる気が出てきたぞ! 頑張りますぶひ!

 誰か残ってる人はいないかな? 魔法のエキスパートである豚公爵が優しく教えてあげるよ?

 これでも実績あるからな! 名前も知らない第一学年の少年を土魔法に導いたって実績がな!

 だけど、余っている子はどこにもいない。

 あれ、可笑しいな? 皆友達いるの? すごいね……。じゃあ豚公爵は一人で魔法ぶっ放すことにしますね……。ほんとに誰も俺と組みたい人いないの? ……うん、まあ俺友達いないしね。

 俺がとぼとぼと誰もいない演習場の隅に歩き出すと後ろから突然、声が掛けられた。


「デニング様。僕と組んでもらえませんか?」


 来た! やっぱりな! 俺って魔法しか取り柄ないしな! そんで、君は誰だ!

 俺が振り返るとそこには見慣れた金髪の姿があった。朝の食堂で頻繁に声を掛けてくる、名前はビジョン・グレイトロード! 相変わらず端正な顔だちでサファイアのような綺麗な青い瞳で俺を見ている。首筋に青いスカーフなんて巻いて、お洒落さんだなこの野郎!

 くそ、相変わらずなイケメンだなくそ。ちなみにビジョンと呼んで下さいと言われているので、俺は最近呼び捨てにしている。

 ビジョンの父親が治めているグレイトロード子爵領は質の高いブドウから良質なワインが取れるそうで、今度実家から送られてくるワインをくれるらしいのだ。さらにビジョンは風の魔法使いで、風を上手に操る俺のことを尊敬しているらしい。でも食堂で声高々に褒められるのは恥ずかしいから声を小さくしてくれと常々俺は言っている。

 そうだ! 君がいた!

 ビジョン! 俺たちは友達だよな!? これでペアが組めるぞ!

 ロコモコ先生を見ると、グッと親指を上げていた。

 頑張ります! まずは友達一人から始めよう!

 俺はビジョンと一緒に魔法の練習をしようと隅へ歩いていこうとすると、また後ろから声が掛かった。


「おい、いい加減にしろよ! みっともない真似をするなよビジョン!」


 ん? ビジョンお前、誰かに呼ばれてるぞ。

 それにみっともない真似? どういうことだ?


「親父が馬鹿なことしでかして平民になるかもしれないからって、お前よく豚公爵に取り入る真似なんか出来るな! 影で散々豚公爵ってバカにしてたくせによ! おいビジョン! 何とか言ったらどうだ!?」


 衝撃の事実に俺は固まる。

 だって、ビジョン! 俺はお前のこと友達って思い始めてたぞ!

 食堂で椅子をぶっ壊した時に何回も手を差し伸ばしてくれたのはお前だけだったからさ!

 お前、やっぱり俺に取り入ろうとしていただけなのかよ! 

 デニング公爵家でタブー視されている豚公爵に取り入っても意味が無いって気付けよ!

 俺は横目でビジョンをちら見する。一体、どんな顔してるか豚公爵様が確認してやろう!

 するとビジョンは真っ赤な顔をして頭を下げ、プルプルと震えながら杖を握り締めていた。 

 

 ……いや、傷ついてるのは俺もだぞ?

 一週間も掛けて俺を信用させやがって!

 ただの陰口よりもよっぽどダメージでかいぞ!

 

 俺はゆっくりとポケットから香水の瓶を取り出した。

 この悲しみ! 主人公じゃなくてお前にぶっかけてやる!

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