6豚 おれ、ちょっぴり痩せる

 俺は朝、起こしに来てくれるシャーロットをドアの前でそわそわとしながら待っていた。


「スロウ様。朝で―――」

「シャーロット!! これを見てくれ!」


 ドアが開いた。視界の少し下にシャーロットの綺麗な銀髪が揺れている。シャーロットはさすがに俺がドアの前で待っていると思っていなかったのか、驚いているようだ。顔を上げ、俺を見つめる。そして、シャーロットは一歩後ろに下がってまた俺を見つめた。


「……わあ。少しお痩せになりましたね」

「だろ! やった! ダイエットの効果が一週間で現れるなんて!」


 俺は感涙しながら床に崩れ落ちる。この一週間、スパルタに身体を苛め抜いてきた思い出が頭に蘇ったからだ。食べたいものを我慢し、毎日食べていた甘いお菓子も全てシャットアウト。ジュースも飲まなかったし、暇さえあれば身体を動かしていた。いつか結果が出ると思っていたが、こんなに早く成果が出るとは思わなかった。

 遂に特注サイズの制服からおさらばするのだ!


「シャーロット! 一つ小さいサイズの制服を用意してくれ!」

「分かりました、スロウ様の制服は特注品ですけど来る日に備えて実は既に私の部屋に置いてあるんです。朝食には今の制服でいかれますか?」

「いや、今日の朝食は無しだ! ちょっと余韻に浸らしてくれ!」



 俺はベッドにダイブしてバタバタと足を動かす。豚が水中で溺れているように見えるかもしれないが、これは嬉しいからだ!

 ここ一週間は嫌なことが多かった。ランニングをすればヒソヒソと陰口を叩かれ、昼ごはんをお代わりしなければ授業中に眩暈に悩まされ、夜は空腹で中々眠れなかった。

 けど、全ては今日のため!

 俺はベッドの上から何やら考え込んでいるシャーロットを見つめる。

 シャーロットはクールな表情を崩さず淡々としていた。


「ダメですスロウ様。朝はきちんと食べないといないと思います」

「嫌だシャーロット。こんなみっともない服で食堂に行きたくない。デブでダボダボの服って余計笑われる気がするぞ」


 初日には食堂の椅子を壊してしまったが、その後三日連続で俺は椅子を壊した。すると四日目、何やら大広間の隅の机に一際大きな椅子が置かれていた。完全に俺用の椅子だった。その日からその席は俺の特等席になっていた。

 初日に話しかけてきた金髪はその後も俺とちょくちょく絡もうとする。いらないって言っているのに朝食を献上しようとしたり、俺の魔法の腕を褒めてきたり、正直何を考えているか分からない男だ。


「だから、今日は朝食はいらない」


 俺は毛布を被り直した。二度寝である。今から寝れば良い夢が見られそうだ。例えば、シャーロットと幸せな生活を送っている夢とか。

 お腹は空いているが我慢すれば我慢するだけ痩せるのだ。そして俺は理想の細マッチョになって、立派な人間にもなって、シャーロットに告白するんだ!


「じゃあスロウ様。私が簡単なものをお作り致しましょうか?」


 その誘惑に俺が我慢出来るわけがなかった。

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