527豚 <<ブヒータはオークキング?>>
ヒュージャックの大地を、お城の一室から一望するモンスターがいた。
オークキングに分類されるそのモンスターは本来、巨大な身体を持ち、背中に広がる厚い筋肉は岩石のような頑丈さを誇るはずだ。威圧感を与える胸板は広く、たくましい腕は力強さを象徴する、その体躯は迷宮の狭い通路ですらも威厳を保ち、どこかしらに彼の存在感が漂う存在――それがオークキングと呼ばれるモンスターの特徴だ。
しかし、彼は一般的なオークキングと呼ばれるモンスターにしては、いささか以上に貧弱に見えた。
「ブヒ。ここは天国ブヒねえ、緑がいっぱいで皆んなも幸せそうブヒイ! だけど喧嘩する奴らはすぐに地下へ叩き返すブヒイ!」
地下とは当然――地下迷宮、
地下迷宮なんて、ブヒータには慣れたものだった。
オーク種としての命を得て、オークキングまでの順調な進化を果たした理由は、もしかすると地下迷宮への類稀なる適応力にあるのかも知れない。
「オイラは
しかし大迷宮――
あくまでブヒータは生まれたばかりの迷宮を攻略する力に関しては恐ろしい才能を持つが、既に育ち過ぎた迷宮の中で権力を持つことは不可能なのだ。
なぜならブヒータはモンスターの中では雑魚扱いのオークだからだ。
それでも武者修行と考えれば、
ブヒータには目標があった。
オークの魔法使い――スローブよりも強くなることだった。
迷宮の通路には地下水路から湧き出る水がたまっており、足元は濡れて滑りやすい。モンスターたちは汚れた水に足を浸しながら進み、不快な湿気と嫌な臭いに包まれていた。
時折、通路には凶暴な罠が仕掛けられていることもある。落とし穴や突然現れる鋭い棘、毒針が待ち構えており、不意に襲いかかる。モンスターたちは慎重に足を運び、罠を回避するための鋭い洞察力を駆使していた。
だけどブヒータは間抜けなオークだ。オークキングにまで進化したブヒータであっても、
「ブヒブヒイイ!!!」
迷宮の中には奇妙な生物たちが潜んでいることもある。目つきの鋭い闇の生物や、床から伸びる触手のようなものがブヒータを襲う
。
骨の音や咆哮が響き渡り、ブヒータは得体の知れないモンスターと生死をかけた闘いが繰り広げる。
そしてブヒータは諦めた。
「もっと楽な迷宮に行くブヒイ。
罠にハマり、地下中層へ落下したブヒータ。落下した先は、深い井戸のような閉鎖空間で死にかけたブヒータは文字通り、死にかけた。
「ひい、イイ。水ブヒ……」
井戸にはまって、永遠の時間が経過したかと思われた中、ブヒータは見つけた。自分の目の前に、小さな石が落ちていることに。
「古い
ブヒータの目は、石が
一刻も早く
「……」
数日は暗がりの中。井戸の奥底で寝込んだだろうか。起き上がった頃には、ブヒータは自分の身体を確認した。さて、今度はどんな力が備わったのだろうかと。
少なくとも――井戸の壁をよじ登るだけの指先の力は向上したようだ。
こうして上層に戻ってきたブヒータは、一つの違和感を感じ取る。
「ブヒ? 変な声が頭の中から聞こえるブヒイ」
違和感を感じる――意思疎通が取れぬモンスター、これまで戦うしかなかったモンスターの声が聞こえてくるのだ。
「ブヒイ……」
迷宮の中には助けを求めるモンスターたちの姿があった。
「お前、助けてやるブヒ」
片方の手足が罠に捕らえられた小さなモンスターが、絶望の表情で泣き叫んでいる。その小さな身体は震え、苦痛に歪んでいた。他の仲間たちが彼に近づき、必死に手助けしようとしているが、罠の仕掛けは巧妙で簡単に解放することはできない。
「その気持ち、分かるブヒ。オイラの地上での話、オークの村の話をしてやるブヒ!」
また、地上に憧れるモンスターたちも存在した。彼らは迷宮の闇に囚われ、自由な風や太陽の光を求めていた。彼らの目には憧れと希望が宿り、地上の美しい風景や広がる世界の姿を思い描いていた。
「お前ら、オイラと一緒に地上に行かんか? ブヒイ」
「オイラについてくるブヒ!」
そして大国サーキスタの地下に広がる大迷宮――
オークキングは、地上への進軍を開始したのだ。
恐ろしい冒険者や攻撃的なモンスターに見つからないようにひっそりと、固い岩盤をゆっくりと掘り進め、汗と血に塗れながら、若きオークキングは頑張った。頑張ったのだ。
時折、冒険者と戦いながら、ブヒータは穴を掘り続けた。
「ブヒ。ブヒッ。やったるんだブヒイ!」
暗く湿った地下迷宮の中で、オークキングの力強い足音と呑気な声が響き渡る。
「ブヒ。ブヒッ。やったるんだブヒイ!」
ブヒータを中心に、身体の大きなオークや牙を剥き出しにしたゴブリンたちが集まり、地上への道を探し続けていた。
岩盤の中を掘り進む彼らの行進は、地下深くの闇を照らす不思議な光を放っていた。
いつしかオークキングの脇には巨大な鉄の鎚を持ったオークの戦士たちだけでなく、本来はオークに従うわけもない強力なモンスターまでもが控えるようになった。
「ブヒ。ブヒッ。やったるんだブヒイ!」
そして、岩盤はオークキングの力強い一撃で砕け、岩屑が舞い上がる。モンスターの群れは勢いよく前に進み、徐々に地上への道を開拓していく。
「オークの村を! オークの村を作るんだブヒイ!」
その姿はまるで地下を這いずりながら大地を破壊する一団の勇猛さを示していた。
地上への光を求めて彼らは掘り進んだ。
やがて地下迷宮の闇から解放される瞬間が訪れるだろう。彼らの目的は、緑豊かな地上にある。そこには鮮やかな草花や川のせせらぎが待っているはずだ。
「役割分担をするんだブヒイ! 岩盤を掘るのは、お前たちに任せるブヒイ!」
モンスターたちは団結し、力強く土を掘り進めていく。オーガたちの巨大な手が岩盤に食い込み、岩石が粉々に砕け散る音が響く。土砂が飛び散り、地下の通路は埋め尽くされる。
「体の小さなお前たちは、土を運ぶんだブヒイ! みんなで協力するんだブヒイ!」
ゴブリンたちは小柄な体躯を活かし、器用に土を掻き分ける。彼らの手は細かく動き、土を掘る音と土煙が舞い上がった。
一つ一つの掘り進む穴が彼らの集中力と団結力の象徴であった。
「ここはオイラに任せるブヒイ!」
地下深くから掘り進む彼らは、途中で岩盤に阻まれることもある。しかし、オークキングの力強い鎚がその岩盤を打ち砕き、道を開いていく。その様子はまるで地の力を操る魔術のように見え、モンスターたちの凄まじい力強さを物語っていた。
彼らは執念深く土を掘り進み、途中で立ちはだかる岩や障害物を乗り越えながら地上を目指す。土の中に埋もれた鱗や毛髪が飛び散り、彼らの汗と努力が土に染み込んでいく。
「ブヒ。ブヒッ。やったるんだブヒイ!」
地下迷宮の中での作業は過酷であり、時には力の限界に挑戦しなければならない瞬間もある。しかし、彼らは互いに励まし合い、団結し続ける。
その決意と執念が彼らを駆り立て、地上への道を切り開いていくのだった。
「オークの村は、余所者だって受け入れてやるんだブヒイ! 前はピクシーだっていたんだブヒイ!」
土煙と共に広がる光景は、彼らの地上への希望を象徴していた。彼らが辿り着く先には、新たな領域が広がり、鮮やかな自然が待ち受けているはずだった。
「ブヒ?」
そして、ぱきりと硬い岩盤が割れて、光が差し込んだ瞬間、ブヒータは歓声を上げた。
「オイラに付いてきたら良い夢見れるって言ったブヒイ!」
世にも珍しい最弱種のオークに従うモンスター集団。中には首無し鎧や悪魔と呼ばれる存在さえ、存在するのだ。
そんな集団を引き連れて、ブヒータは地上に降り立った。
「おお……」
深い地下迷宮を抜けると、彼らの眼前に広がる光景は緑に満ちた大地。穏やかな風が彼らの身体を撫で、鳥のさえずりが耳に響いた。
「ブヒ。恐れ入ったかブヒイ。オークだって、やる時はやるんだブヒイよ!」
オークキングは満足げな表情で周囲を見渡し、モンスターたちに声をかけた。
割れるような大歓声が、地上に轟いた。
そして人間が見放した地にブヒータは帰ってきたのだ。地中深くから、えっちらおっちら
「あれ……ここってヒュージャックブヒ。懐かしいブヒイ! ブヒイ!」
湧くモンスターの傍で、ブヒータはあの頃を懐かしんだ。
「オークの村を再建するんだブヒ!」
北方からやってきた可憐なピクシーと力を合わせて、オークの村を作っていたあの頃を。そしてオークの魔法使いと共に、意地悪な冒険者を撃退した頃の記憶を――。
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