515豚 同族嫌悪
「…………なぜだ」
ロッソ公。
俺とアリシアの婚約を進めたサーキスタ側の重要人物、前代のロッソ公の血を受け継いだ男。前代のロッソ公だったらよく知っていた。俺に対して、好意を持っていたから。
「………………なぜ、君なのだ」
アリシアはサーキスタにとって特別な存在だ。
それを他国の王族ですらないデニング公爵家、それも長男ですらない相手を婚約相手とするのだ。サーキスタ社会で湧きあがった反対意見を全て封殺した存在が前代ロッソ公。
「面白い。二人は、知り合いですか」
時が止まったかのようなロッソ公の代わりに、土と血で顔面を彩られたガガーリンが声を出した。
「絞れましたよ。貴方は帝国の人間ではなく南の人間だ。それも相応の地位を持つ」
確かに今のロッソ公の反応は――そう思われても仕方のないものだった。
「ロッソ公を思い止まらせる程の人物が私を守ったわけですか……。私の運も終わっていないと言えそうですね……ほら、私を解放しなさい。いつまでこのような屈辱的な体勢を取らせるつもりですか」
ああ、邪魔だ。この男は頭が回る。
「ギャリバーと一緒にいたので、地下に安置された彼らの遺体も知っていた。まるで生きているかのように丁寧に残された彼らの姿。そして私の力も、知っているのでしょう?」
回りすぎるからこそ、同族嫌悪を感じずにはいられない。
「辿り着いたのでしょう? タイソン公を止めるには、私の力は必要不可欠。でも、それだけじゃない……こんな辺境でなく、王都で起こり始めた動乱さえ私がいれば止められるかもしれない。今もそう。必死に、考えているのでしょう?」
こいつは、俺の思考を追っている。
そして、その通りだった。リオット・タイソンを中心としたサーキスタの貴族たちを殺し、この国で暗躍している中心にこいつがいる。
「私を解放して、手を結びましょう。私たちは手を結べるはずだ。目まぐるしく、頭を動かしているのでしょう? 私も同じです。この難局を打開するために、力を貸しましょう。私が推察するに、貴方はサーキスタの人間ではない。南の大国……
ガガーリンを生かし――エデン王の前に連れていけば、事態は好転する。
けれど、甘くはない。甘くはないのだ。思い通りに行くわけがない。
「――黙っとれ!」
ロッソ公が俺の右手に握られた剣を一気に引き抜いた。俺は皮膚を切り裂かれる痛みに耐え、ロッソ公の動きを観た。
俺の考え通り、ロッソ公はガガーリンの首筋ではなくその身体、肩に突き刺した。ガガーリンの意識を飛ばすために、剣に魔法を込め続け――こいつの身体は完全に俺が抑え込んでいる。無防備な状態にロッソ公の魔法までとくれば、ガガーリンは抗えない。
「ろ、ロッソ公……貴方のこと、嫌いではありませんよ……でも……貴方のような男
ガガーリンは苦しげに唸りながら、その顔は自信に満ち溢れている。
「こ、この命、利用価値がありますから……扱いは大切に……ロッソ公との交渉は貴方に……一任します。では……」
自分が死なないという確信を、俺の行動から得ているのだ。
ああ、くそ。有能な男だ。その姿をみていると苛立ちが募る。出来すぎだ。これだけの男に完全な忠義を抱かせるドストル帝国の王族は、どれだけのカリスマを持つ人間なのか。
「また……」
ガガーリンは言付けを俺に残して、完全に気を失った。
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