485豚 いくつかの選択肢から――
「騎士国家はお前を……エレノア・ダリスの名前を持って追放すると決断した」
騎士国家ダリスは、デニング公爵家は――俺を、切り捨てた。分かっていたことだけど、アニメと同じ末路を辿ってしまった事実は少しばかり……心が痛んだ。
身体の力が抜けていく。結局、アニメの通りとなったわけだ。
アニメの中では戦争が終わった最終話――最後のおまけで真っ暗豚公爵の悪事が暴かれ、余りの所業に騎士国家を破門され、デニング公爵から放逐された姿が描かれている。
「可笑しな奴だな、スロウ・デニング。お前は両国の関係を切り刻み、お前の行動によって二国が行く末は混沌に違いない。確かにお前が暴れた中で死者はいないと聞いている……だが、死者がいないだけでお前の罪が消えるとでも? スロウ・デニング、お前の最大の罪は、お前と違い生き返ることのない騎士たち、彼らを殺したあの娘を逃したことだ。もしお前が太陽の下に出ることがあれば、どれだけの民がお前を呪っているか知るだろう」
俺は湖の騎士に殺された死者だ。
死者をさらに追放するとは、エレノア女王の激怒も甚だしいな。それは騎士国家のデニング公爵家で生まれた俺という存在を、最初からいなかったものとして抹消することだから。
「悲しんでいるのか、スロウ・デニング。だが、お前は生きているダロウ。あの湖の騎士と相対して生き残った。お前が殺されたことは身から出た錆で、生きているだけで儲けてものだ。あいつらはお前と違って、起き上がらないんだぞ」
「……
サーキスタの市街では暴動が起きているんだとか。
エデン王はドストル帝国からやってきた王族、つまりファナ・ドストルが罪のないサーキスタ騎士を殺戮したと明らかにした。
そしてエデン王は彼女を捕まえ、裁きを与えようとしている。
民衆はそんなエデン王の強き姿に共感し、称えているという。
「スロウ・デニング。お前が帰る場所はどこにもない。お前が故郷に戻れば、縛り首だ」
「ああ、そこはいいよ。分かっていたことだから。それより俺にもワインをくれよ。酔ってなきゃ、やってられないからさ。俺が聞きたいのは、俺が逃した彼女の処遇は?」
「お前が命を捨てて逃した北方の子狼は、今も捜索中だ。しかし、サーキスタが総力を上げて探索中、捕まるのも時間の問題だろう。僅かな希望でも持っているなら悪いが、あれは捕まれば縛首。つまり、スロウ・デニング。お前は死に損ってわけだ。……死んでねえけどな」
「そうか……そうだよな。まあ、希望はあるってわけだ。おい、俺にもくれよ」
よく知りもしない不真面目な二人、ワインが入った皮袋を回し飲みだ。
プラスに考えるしかない。元々、国に縛られる生活なんてまっぴらごめんだったんだ。
騎士国家にいたら、俺はカリーナ姫の
ダリスにやり残したことといえば幾つかあるが……あいつらは俺が心配することもない力のある奴らだ。
シューヤのメンタルが心配だけど……ここでお別れってわけだなアニメ版主人公。
自分の未来は自分で切り開いていけよ、もう俺はお前を助けることは出来ないからな。
「スロウ・デニング。お前は命を賭して帝国の狼を守り、一度は死んだわけだ。俺は今でも自分の目を疑っているが、お前に与えられた命は奇跡以外の何でもない。もし湖の騎士が何か細工をしたとしても、確かにお前は死んでいた。それでなんだが……お前は折角救われた命で……で何をするつもりなんだ――?」
選択肢は幾つか浮かんでいる。一つ目は、生前のようにサーキスタの連中が帝国の狼と呼ぶあの子を接触し、救い出すことだ。
こいつの話によればファナ・ドストルは未だサーキスタ市街地に潜伏しているという。
ファナ・ドストルは、対ドストル帝国においては唯一と言っていい、大陸南方の味方となり得るドストル王の後継者候補だ。
二つ目は、シャーロットと合流することだ。
こいつが与えてくれた情報によれば、俺と共にサーキスタにやってきた者は民の暴動によって、未だ騎士国家への帰国が叶えられていないという。
三つ目は、湖の騎士を探すことだ。あの男は俺の言葉を飲み込んで、俺を生かした。サーキスタで最も優れた騎士であるエクスを仲間に出来れば、これ以上の味方はいない。
「聞かせろよ、スロウ・デニング。お前が行う選択によっては、俺は命を賭してもう一度、お前を殺さねばならないだろう。俺も騎士としての名誉を与えられた身だ。よくよく考えたら……大罪人を前にして……おめおめと逃げ帰ったら、俺の人生は終わりだろうよ」
でも、全部違った。俺の思考はもう固まっている。ファナ・ドストル、シャーロット、湖の騎士。どれもこれも最重要人物で、シャーロットに至っては俺が死んだことで絶望しているかもしれない。だけど、ごめんシャーロット。俺には、やるべきことがある。
ファナ・ドストルには大きな恩を売り、湖の騎士には選択肢を与えた。
シャーロットを俺は信じている。
さらに、このサーキスタにはあいつがいる。
「俺は……俺はエデン王の背後にいる黒幕を突き止めたい。サーキスタの国王として……彼の行動は余りにも、これまでの彼の行動をかけ離れている。違うか?」
「……」
友の
「サー・ギャリバー。お前もそう思うからこそ、俺の前から退かないんだろう? そして、お前だけじゃないのだろう? 王の決断に違和感を持っている連中がいるんだろう――?」
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