523豚 火炎浄炎《アークフレア》
俺たちが見つめていた先で、そよ風がリオットの髪をなびかせた。
すると金髪のリオットは騎乗したまま立ち止まり――彼の髪はまるで陽光に照らされた黄金の糸のように輝き、風に揺れるたびにきらめきを放っている。
その光景はまるで天使が舞い降りたかのように美しく、周囲の人々の視線を奪っていた。
「リオットさま! リオット様!」
……何だあ? あいつのあの姿。
神とやらがこの世界にいるとすれば、エコ贔屓しすぎじゃないか? むかつくぞ、キザすぎるだろ、あれ。
「イヤアア、リオット様が……光って見えるわ!」
……ほら、まただ。
風になびく髪がリオットの顔を覆い隠す瞬間、青い瞳が一瞬だけ覗き出した。その瞳は深く澄み切っており、まるで透明な水面に映る星々のような輝きを放つ。
「リオット様が、こちらを見たわ! あ、こっちじゃなくて、私をみたわッ!!」
そんな瞳が少しの間だけ民の方へ視線を投げかけることで、あいつの存在がさらに輝かしく感じられるのだ。
「いやああ、リオット様! 素敵ッ!」
リオットは微笑みを浮かべ、風になびく髪をやさしく払いのける。
その仕草は優雅でありながらも力強さを持っていた。あいつの金髪がその肩に優しく落ち、その輝きはまるで太陽の光を受けて煌めく海のように。
まるであいつの進軍が自然界と一体化しているかのようで、蘇った彼の姿を焼き付ける民たちに勇気を与えている。
「リオット! リオット! リオット様こそが、新たなタイソン公に相応しい!」
「リオット様は深い黄泉の国から蘇ったのだ! 我々を見守るために――!」
――やってるなあ、リオット。
あれ完全に演技だろ。あいつ、もしかして今の自分に酔ってるとかないよな?
でも人ってのは変わるものだ。蘇ったリオットの性格は、俺が覚えているリオットとはかなり違っていたし……。
まあ、いい。
リオットは、ガガーリンの所業をはっきりと口にしてくれたからな。リオットが語った情報の中には俺が知らないことも幾つか多かった。
後はリオットの言葉をロッソ公が無事にエデン王に伝えることが出来れば、ドストル帝国がサーキスタを陥れようとした全容が明らかになる。そこから先は……再び対ドストル帝国の繋がりが復活する、南方の大国を強く結びつけるだろう。
「……」
それよりもこっちだ――今の俺にはカッコつけているリオットなんてどうでもいい。
今、
聞き間違いかと思ったけど、ペラペラと喋ってくれる半裸の男、
「だから、私は知ってるのよ。ドストル帝国からやってきたあの三銃士、その一人を撃退したのは貴方。勿論、うちのギルドマスターが全面協力した上での結果だったとしても、決定的な仕事をしたのは貴方でしょう?」
「ふっ……ふっ……ふひ……」
兜を被っていてよかった。今の俺は、大変に挙動不審な呼吸をしているだろうから。
あの迷宮都市で起きた出来事は、誰にも知られてはいけないのに……
「はあ。やっと私の手に戻って来た
火を噴きだす大剣、
「それで……どうしてうちのギルドマスターに功績を押し付けたの?
素振りを続けながら、
「……ぶ……ぶひ……」
「ぶひ? 何だか懐かしさを感じる言葉ね、それ」
今、俺の顔は真っ赤になっているのだろう。
レグラム・レングラム。あの野郎――まじでぶっ飛ばしてやろうか。脳裏にあの、ニヒルな笑みを浮かべた若きギルドマスターの顔が自然と浮かんでくる。
俺の頭の中のあいつは、何故か俺に向かって手を振っていた。
和やかで、さらに万人を虜にするような笑みで……あいつは俺に笑いかけている。
だけど……ふざけるなよ。
「――ッアア!」
それに、この男はこの男で試し斬りのつもりなのか。
「――ッッツアアアアアア」
あのリオット・タイソンも行軍を止め、こっちを見てるしな。きっとリオットは……
「とんでもない功績よ。三銃士の一人と言えば、ドストル帝国で不敗神話とか呼ばれている人間でしょ? あの帝国を牛耳る
詳しいなあ、物知りだなあ。冒険者なんて野蛮で暴力的なのが通説だろ?
嫌だなあ、俺の事情に突っ込んでくるなよ……・
「ふヒ……ぶひ……」
それに、やめろ。やめてくれ。頭の中では、まだあのクソ野郎のギルドマスターが俺に向かって手を振っている。まるでお前も地獄に来いとでも、いうような亡者の笑み。
俺は――脳裏のあの男の姿を振り払い、
「なあに?」
俺よりも頭一つ分は身長が大きくて、はたから見ると滑稽に見えるだろうけど。
「どこまで知っている、ええと、このどこまでっていうのは、具体的に誰と誰だ? あいつは、あの野郎は誰にバラした?
精一杯の威厳を持って、詰め寄った。
「私を脅してるの?」
底辺貴族のギャリバー・ブラックエンには効果覿面だった俺の威圧は――。
「……おい、コラ。生まれの良さを鼻にかけた……どチビのクソガキがあ――てめえ、舐めるんじゃねえわよ?」
真っ向から返される。
逆に俺の服を……――
「私も今のヒュージャックには興味がある。けれど、何でも思い通りになるみたいなその態度、好みじゃないわ。それに貴方――嫌ってぐらいに既視感がある、こうして目の前に立てば全身が総毛立つような変な感覚、つまり私たちって……
ひい。その圧の効いたドス声に震え上がったのは、誰にも言えない。
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