ドストル帝国の暗躍
466豚 激動の開始
一体、このような惨事を誰が予想していただろう。
もしかすると爆発する兆候はあったのかもしれない。
サーキスタの民は各国の民よりも人一倍自尊心が強く、そして、彼らの頂点に君臨する国王エデンこそが、サーキスタの特性とも言えるプライドを塗り固めた男であるからだ。
「探し出せッ!」
「サーキスタにとっての毒を探し出せ! 一大事だぞ!」
サーキスタで行われた催しは大陸南方を巻き込んだ平和の象徴となるはずだった。
しかし湖の中央に浮かぶ孤島。
民が夢想する豪華絢爛の式典で行われた行為は、国内で秘密裏に行われた暗殺の暴露と争いの応酬に他ならず。
「タイソン公の言葉に偽りがあるものか!」
「あのお方は真なる忠臣だぞ! ずっとサーキスタを支え続けた!」
「タイソン公を筆頭に、若き若者達の命が奪われた!」
サーキスタ貴族の若き命が、幾つも散っていた。
彼らが何者かに葬られた時はドストル帝国から使者がやってきた頃と同じくする。さらに使者の監視や付き人としてあてがっていた若者達だという。
ライアー・タイソン公の言葉によって、彼の孫が惨殺されたことは既にタイソン公の言葉によって公にされている。
祭典の時から既に数日が経過。民の怒りはドストル帝国へ向けられ、暴動の規模は日を追うごとに大きくなっていた。
「ドストルの娘を捕まえろ! やつが元凶だ! 人相書きを配れ!」
「女子供は街中に出るな! 相手は魔法使い! 数で追い込んでしまえ!」
数日前。祭典の場で激しい戦闘が起きたことを誰もが知っている。
あの夜、湖に浮かぶ孤島と岸辺を繋ぐ唯一の行路。大橋へ急ぐ兵達の姿があちこちで見られ、橋からは慌てて逃げ出す多くの馬車。さらにサーキスタの民は夜空に迸りる光を見ていた。
あの光こそが、サーキスタを守護する全能の騎士。湖の騎士が持つ力の解放に他ならず、だが、結果としてドストル帝国の娘は孤島から逃げ延びてしまった。
孤立無縁と思われたドストルの娘を庇う存在が現れたからだ。
スロウ・デニングは敗北した。
騎士国家ダリスの有名人は、国王の命を受けた
「エデン王こそが、俺たちが望む強き王であろう!」
「ドストル帝国とダリスが結んだ密約に何の意味がある! ダリスは頑なに密約を明かそうとしないのだ! あのような国が南方の盟主を名乗るとは笑わせる!」
ダリスを支えるデニング公爵家の若君を殺したにしては、民の動揺は強くはない。
元からスロウ・デニングはサーキスタの民に気に入られておらず、それよりも遥かに自国に侵入したドストル帝国の娘へ怒りが向け続けられているのだ。
暴徒と化した民は口々に叫ぶ。それはドストル帝国への怒りや、内側へ抱え込んでいたダリスへの不満。近年、ドストル帝国への脅威を睨み、軍事力を増強し続けていたサーキスタ王への賛美など、さまざまである。
「サーキスタの若き芽が潰された! ドストル帝国はまだ大陸統一の悲願を諦めていないということだッ!」
「スロウ・デニングが、ドストルの娘を助けた! この行いこそが、ダリスとドストル帝国が繋がっている証ではないのか!!」
「ダリスは、ドストル帝国へ自国のみの救いを求めたに違いないのだッ!」
エデン王。これが、あなたの望みか。
群勢の中に混じる男。民の英雄、
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