446豚 俺への不満が一杯のご様子

 衣装の袋をどっさりと抱えたシャーロットと共に、ナーゲラスに連れて来られたのは大通りに面した宿の部屋だった。

 彼の部屋らしいが、窓からは都市サーキスタの大通りがよく見えた。


 ナーゲラスと知り合ってから結構な日数が立つけど、こうやって部屋に招待されたのは初めて、俺とシャーロットが借りている宿よりも豪華だ。 

 さすが外交官、良い部屋に住んでやがる。格差が伺えるな……。


「荷物は隅にでも置いていただき、早速始めましょう」


 そう言って、故郷から派遣された外交官のおっちゃんが語り始めた。


 


「――つまり、若君には出来るだけ大人しくして頂きたいのです!」


 もう何度伝えられたかわからない言葉だよ。

 こう繰り返して言われるってことは、それだけ俺がこの外交官から信用されていないってことだろう。


「舞踏会では出来るだけ、誰とも会話をせず、静かにして頂きたい。可能ならば、欠席して頂けると私の不安も解消されるのですが……一応、若君が騎士国家の代表として伝わっておりますからそれは不可能でしょう」

「あの……スロウ様は、騎士国家の代表と聞いています! そんなスロウ様に欠席して欲しいなんて言い過ぎだと思いますけど!」


 シャーロットが口を挟んだ。このおっちゃんとシャーロットの相性は悪い。


「従者殿は口を挟まないで頂けるかな。公爵家デニングの従者には、外交の何たるかも分らんだろう。私の言う通りにしておればよいのだ」


 そういって、ナーゲラスは顎のちょび髭をなでつける。

 

公爵家デニングの専門は戦いであろう。そして、私は外交を生業としている。私のような外交官は、戦いには決して口を挟まない。分別をわきまえているからだ!」


 ナーゲラスは杖を出し、軽く空中で振るう。すると机の上に置かれた書類の束が、一枚ずつめくられる。魔法だ。どの属性にも分類出来ない単純な魔法行使。

 詠唱もないってことは、それだけ慣れている魔法なんだろう。

 書類には恐らくサーキスタのものだろう情報がぎっしり。シャーロットが覗きこもうとしたらナーゲラスが自分の手で書類を隠した。


「魔法は使える、むしろ得意だ。クルッシュ魔法学園は主席で卒業したが、私は争いを好まない。外交を専門とするフロスティ家の者だからね。私は何か間違ったことを言っておるかな? 従者殿?」

「……」


 ナーゲラスは自分の仕事に誇りを持ってるタイプだなあ。

 サーキスタでは一緒に行動することも多そうだし、この先、思いやられそうだ。


「さて、二人には既にお伝えした通り、カリーナ姫殿下は舞踏会への参列を見送られた。ドストル帝国から要注意人物がやってこられましたので、何が起こるか分からないということが理由ですが、判断したのは女王陛下であります」


 今、サーキスタではサーキスタ王室主催の舞踏会にドストル帝国から出席者がいることで話題騒然だ。

 どんな姿をしているのか、何が望みなのか、観光でサーキスタにやってきたのか、それ以外の目的があるのか。誰もが知りたがっている。


「まっこと残念でありますな、カリーナ姫殿下の美しさに諸国は恐れおののいたでしょう。本来の目玉はダリスとサーキスタの関係強化。二属の杖奪還により、改めて両国の関係が見直される絶好の機会でありましたので」


 二属の杖の話題が出て、シャーロットがちらりと俺に視線を送る。


 分かってるよ、シャーロット。

 サーキスタとダリスの有効の証である二属の杖は俺がサーキスタ大迷宮から奪還したんだよなあ。

 だけど、その事実を知っているのはダリスでもサーキスタでも限られている。


「アリシア姫殿下とカリーナ姫殿下が握手を行い、両国の関係性をアピールする。さぞや、目玉になったでしょうな。麗しい姫殿下2名による、新時代の幕開け……」

 

 あの杖はアリシアがサーキスタに持ち帰っていた。


 今やサーキスタではアリシアも勇敢だとかで評価がうなぎのぼりなのだ。町の露店ではアリシアを模したのだろう手乗り像なんかが売られていたっけ。

 

「しかし、事情が変わりました。全くもって度し難いですが、ドストル帝国の要人が参加するとあってはカリーナ姫殿下が対応するには荷が重い……だからこそ、この経験豊富な私がサーキスタへ派遣されたわけですが――従者殿、確かに黙っていてくれとお願いしましたが、食事は私の話が終わってからでいいのでは?」


「あ、ご、ごめんなさい……」


「全く……公爵家デニングの人間ときたらこれだから……」


 気持ちはわかる、シャーロット。

 道中で購入した甘味が溶けてしまいそうだったので、俺も話を聞きながら食べていた。でいうか、サーキスタのご飯、美味しすぎだよなあ。

 宿で出てくる食事も香辛料スパイスがよく効いて、最高だ。このまま移住しようかな……本気で検討したい。


「カリーナ姫殿下の欠席によって、サーキスタへの派遣は私一人。そう聞いていました。しかし、現地に到着してみれば……行方不明の若君がおりました!」


 そう言って、ナーゲラスはコップに注がれたワインをぐいっと飲み干して、ぐっと俺を見つめる。本当に、俺がいることに納得していないようだ。


「俺だって想定外でした。俺はただシャーロットと旅行に来ていただけなのに……」


「りょ、旅行ですと! あの風の大精霊アルトアンジュから認められた男が、従者と二人で旅行とは! 世界中がどれだけ騒ぎになっているかわかっていないのですか――!」




―――――――――

題名:冒険者ギルドの頂点に君臨する僕の正体(普段は愚鈍な学生)が、手違えで召喚した少女に暴かれてしまった件

キャッチコピー:どうして……ギルドの統治者様が、愚鈍な学生を演じているのですか?

https://kakuyomu.jp/works/16816452220069941408/episodes/16816452220069944070

召喚ものです、良ければ一読をお願い致します!。

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