422話 初日の戦闘
クルッシュ魔法学園の男子生徒が一日の始まりと終わりを過ごす男子寮。
まず魔法学園に入学する平民の生徒は、これから日常生活の中心を過ごす寮の威容に腰を抜かすことになる。
寮の共用部には貴族のイメージを現す豪華さがそこら中に盛り込まれていて、生徒にダリスという国を支える尊厳を与える。そんな考えが寮の設計思想に組み込められていると以前、どこかで聞いたことがあった。
さてさて。
そんな男子寮を出ると、目の前には理知生前とした緑の芝生が広がっているんだ。
平穏な日常をイメージして作られた芝生の庭を歩いて学園の中央部、校舎が立ち並ぶエリアに向かうのだ。でも、だ。残念なことに今は違う。
見てくれあれを。
「ガリアス、時間が無い簡潔に教えてくれ。ゴーレムの狙いは何だ?」
芝生の中からにょきにょきとゴーレムが生えてきて、ヨ―レンツ騎士団の副団長ガリアスが剣でゴーレムを叩き切っていた。これは夢かよと言わんばかりの光景。
「あれに込められた理念は、クルッシュ魔法学園を壊せってところでしょうかッ! 連中らしいきたねえやり方だ!」
優れた水の魔法使い――ガリアス得意の魔法、
って、そんなこと考えている場合じゃないか。
「奴らはまずこの学園をぼろぼろにして、自分たちに有利な戦場に作り替えようって腹でしょう――それがヨ―レンツ騎士団の読みですなあ!」
なるほど、確かに。それは大きく間違っていないだろう。俺も同意見だ。
学園にばら撒かれたゴーレムは、ゴーレムを破壊しようとするガリアスよりも確かに学園設備の破壊を優先しているようだった。
しかし気になることがある。
この場にはガリアス以外にヨ―レンツ騎士団の姿が見えないことだ。まさかガリアス一人であのゴーレムを相手にするつもりなのか。
「ガリアス。ヨ―レンツ騎士団の連中がお前だけってことは、散っているのか?」
「ええ! 団長の指示で、うちの連中を学園内に散らばせていますッ! 危険ですが、それが最も奴らの狙いをくじくもんで!」
なるほど。ヨ―レンツ騎士団の中でも屈指の実力者、ガリアスが男子寮周辺を受け持っているということは、あれか。
むかつくけど――俺たちは心配されたってことか。舐めやがって。
「スロウの若様! これで分かったでしょう! サンサのお嬢様じゃなく、若様が選ばれた理由!」
芝生の上に光り輝く魔法陣が幾つも見える。
あそこからゴーレムが生まれていく。一つ一つの魔法陣、近くには結構な精霊の数も見えるし、相当な力が込められている。
魔法陣に注ぎ込まれた魔力が消えれば、ゴーレムは生まれない。ガリアスは魔法陣を壊したいようだが、何体ものゴーレムがガリアスの動きを阻害する。
「お嬢様は優しすぎる! 今の若様みたいに、学園が破壊されてもじっと観察出来るぐらいの余裕は、まだサンサのお嬢様にはないでしょうからなあ!」
「人を性格悪いように言うなって」
「ははっ、それでいつになったら俺のこと助けてくれるんですかね!」
ガリアスが
ヨ―レンツ騎士団は一人一人が数百の兵に匹敵する。
あのおっさんはそんな騎士団の副団長なんだ。あれぐらいのことは出来て当たり前なんだけど、声には若干の焦りもある。
「もうちょっとがんばれ」
「この調子なので俺としては若様! クラウドとシルバの二人をさっさと投入したほうがいいと思いますがあ!」
「ダメだ、あいつらには別の仕事を任せた」
「くくっ、シルバの野郎が悔しがっているさまが目に浮かびますなあ!」
シャーロットを除いたクラウドとシルバは戦力になる。
特に騎士国家の国宝、
だけど、あいつらには他にやってほしいこともあった。
ガリアスの言う通りやる気満々だったシルバには悪いけれど、重要な仕事だ。
あの三人には男子寮の屋上に上って、学園に隠れている錆の連中を一人でも見つけてほしいと伝えている。
そしてシャーロットにはもう一つ特別な仕事――。
最近ずっと姿を消している風の大精霊さん。あいつを見つけ出してほしいとお願いした。少し前にはミントを通じてクラウドの存在を探し出してくれたが、あれからすっかり姿を現さないのだ。シャーロットのことを誰よりも愛する風の大精霊さんことだから学園には戻ってきていると思うのだけど。
「……ふむ」
しかし、あれだな。
動きの速いゴーレムって言っても平均的な男が軽くジョギングする程度の動きが関の山。だけどガリアスに駆逐されているゴーレムの速さは大人の全速力を超えている。
それにゴーレムってのはのろまで単純な命令しかこなせない。ガリアスの動きに対応しているゴーレムの姿も現れ始めたってことは……ビシャの仕業か。
ヨーレムの町で俺が話しかけたイチバンという男。
あれは錆の実行部隊のリーダー格だが、あいつ以外にも錆の中には有能な魔法使いが大勢いる。例えば優れた土の魔法使い、ビシャとかな。
よし、ゴーレムを生み出している魔法陣は大体把握。それじゃあ潰すか。
「
圧力によって、ゴーレムを土に帰す。
黒龍を落とした時みたいに重力操作の力で一体一体確実に潰していく。
同時に芝生に刻まれた魔法陣を見える範囲で燃やし尽くす。ゴーレムを生み出している元を破壊しなきゃ意味ないからな。
「……よくやった、スロウの若様」
その場にへたり込んだガリアスが右手を挙げる。
そして親指を立てて――。
「……じゃあ、次。行きましょうか」
「だな」
男子寮周辺の魔法陣を根絶やしにすると、ガリアスと共に移動を続ける。
ヨ―レンツ騎士団の連中が受け持っている他の戦場に加勢。
学園に現れたゴーレムを破棄しつくした時は、すでに日が降りようとしていた。
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