418豚 公爵との対面

 ミントに連れられて、馴染みあるクルッシュ魔法学園の敷地を歩いていく。

 

 校舎が幾つも十分な幅を持ち、立ち並んでいる。

 多くの建物は廊下で繋がり、魔法学園に一年真っ暗豚公爵として通った俺でも詳しい全容は把握出来ていない。というか何の目的で使うのか分からない校舎が幾つもあるし、全容を把握しているのは学園長ぐらいって噂もある。

 

 しかし改めて思うよ。モンスター騒動の時と比べたら、随分と綺麗になった。なのに父上と錆の連中は、学園を戦場に定めた。何を考えてるんだよ。ちょっとは未来のダリスを支える若者に配慮しろっての!


「若様――遂に、感動のご対面ですかあ! 公爵様、喜びますぞお!」


 俺とミントの姿を見て、父上直下のヨ―レンツ騎士団の奴らも目を丸くしていた。


 うるせえ! 俺はお前らの余興のネタじゃないぞ!


 勿論、俺と父上の間にそびえ立っている確執……みたいな?

 スロウ・デニングは次期公爵家の当主として育てられていた。誰もが羨むエリート街道を進みながら、俺はシャーロットと出会って真っ黒豚公爵となり、その道から逃げ出した。

 アニメの中じゃ、スロウ・デニングは公爵家から追放される運命にあった。ギリギリのところで踏みとどまったわけだけど、俺は公爵家の中じゃ嫌われ者だ。

 

 俺と父上の確執なんて、この国の人間だったら誰だって知ってるからなあ。


「スロウの若様! ――俺たちがついていきましょうか? 久しぶりの再会だあ! スロウの若様も緊張していることだろうよ!」


 だからあんな風に興味ありありな目で俺のことを見てくるんだ。

 困ったもんだ、今クルッシュ魔法学園はえげつない敵との戦場だって言うのに、あいつらは子供みたいな心で俺のことを見守っている。 

 ヨ―レンツ騎士団の男がそれでいいのかよ!

 

「若様、大人気ですね」

「全然嬉しくないよ。それより父上がいるのは、時計塔か? この先って言ったらあれぐらいしかないからな」

「その通りです」

「ふうん、時計塔からあいつらを見つけようと思っても無理だろ。この魔法学園に隠れている錆の連中がそんな簡単に見つかるかよ――専門家スペシャリストだろ、あれは隠れるとか、隠密行動とか」


 ヨ―レンツ騎士団の連中から聞いたんだ。

 父上と錆のボスの話し合いは決裂し、何度も戦闘が行われた。

 その中には錆が生み出したゴーレム騎兵との激しい戦いもあったらしい。その時にあいつらはちゃっかり敷地を一部、占有したって。


「正門から見て右が奴らの領域。左が俺達の陣地か。分かりやすいな、ミント」


 学園正門から学園中央までを目指して長い道が走っている。


 通称、メイン通り。あそこを境に、境界が出来た。


「私たちが維持出来る陣地にも限界があります。それに彼らだってクルッシュ魔法学園を必要以上に破壊する気はない、そう聞いています。どこまで本心かは疑わしいものですけど……」


 正門からメイン通りを見て、右側に教育機能が集約されている。図書館や実験場、さらには鍛冶屋や幾つかの宗派に分かれた教会なんてものもある。


「守るべきものは、こっちに多い。あっちは幾らでも建て直せるからな。父上はあえてメイン通りから右を取らせたと?」


「その通りです、若様」


 時計塔の到着。中にあるぐるぐるした螺旋階段を上がっていくと、途中にある窓から学園の様子がよく見えた。


 奴らの陣地を守るように、ゴーレムが徘徊している。

 見せかけだろうが、黄金の鎧を身に纏ったゴーレムとかがな。たかがゴーレム風情にどれだけの魔力を込めてるんだよ。少なくとも魔法学園の生徒が一対一で挑んだら、太刀打ちも出来なそうなゴーレムだ。


「……若様、やっぱり緊張されてます?」

「うるさい。黙って連れてけ」


 さて階段を登り切る。この魔法学園で最も高い建物、時計塔の最上階に目的の人物がいた。紅の外套には勲章がびっしりと貼りついている。


 あれは全部、戦場で挙げた功績によるものだ。

 公爵家の当主は長生き出来ないって噂もあれを見たら、その理由がよくわかるよ。


公爵様マスター。では、我々はこれで――」


 父上の周りには、常に数人の騎士が帯同していた。

 父上と共に数多の戦場で指揮を執ってきた古参の騎士だ。


 だけど、さすがに親子の会話ともなれば、騎士達は席を外すみたいだ。


「――久しぶり父上。元気だった?」


 あえて軽く手を挙げて話しかけてみた。

 奥で椅子に座り、俺を見つめる眼鏡のおっさん。周りの騎士たちや従者のミントがいなくなっても口を開くことのない男。なんだよ、勿体付けて。


 騎士国家ダリス。

 大陸南方で大国として君臨するダリスの軍部を司る男、眼鏡の奥から見える眼光は俺が知っていたあの頃よりもさらに恐ろしく見えた。




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