419豚 公爵との関係

 バルデロイ・デニング、中肉中背のおっさんが俺を見つめている。

 白髪が目立つ黒髪頭、前髪に若干の金色が混じっていた。相当でダンディで渋いおっさんだと思うが、少しやつれてるように見えた。

 

 このおっさんがこの国じゃ誰よりも恐れられている傑物だ。あの丸刈りのマルディーニ枢機卿より、力だけなら騎士国家の最強の守護騎士ドルフルーイ卿よりもな。


 公爵家の当主は敵が多い。

 バルデロイ・デニングいる所、血の雨が降るなんて通説が流れるくらいにな。闇のマーケットじゃその首に幾らの価値がついていることか。


 はあ、俺ってさ。父上との相性悪いんだよなあ。

 いや俺だけじゃないか。俺の兄妹、全員が父上を尊敬しているけど苦手としている。それはあのサンサも例外じゃない。


 こいつは内心で笑いながら、いかれた命令を出すおっさんなんだ。

 アニメの中じゃシューヤをボロ雑巾のように利用し、帝国を叩こうとした嫌なキャラクターだしな!


「……父上とこうして話をするなんて、雷でも降るんじゃないか」


「そういうな。私だって、猫の手も借りたいぐらいなんだ」


 父上が重めかしい顔で、座っている。この人が笑っている顔なんて何年振り?

 あー、俺はそもそも父上と会うことを出来るだけ避けていたから、こうやって話すこと自体が数年振りなんだけど。


「スロウ。お前が素直に私の前に出てくるとは思わなかった。私のことが嫌いだろう?」

「……まあね」


 心臓が痛い。締め付けられる。


 この男との過去のいざこざは、余り思い出したくもない。俺を公爵家当主にするために、徹底的に痛めつけられた。


 俺が真っ黒豚公爵となってからも、期待をかけられた。

 勿論、期待を掛けられたとは、徹底的にしごかれたということだ。


「スロウ。お前が私の前に戻ってきたということは、その気があるということだな? ――ここで活躍すれば、公爵にさせてやるぞ」


「……はっ」


 このように冗談だって言う。

 目は笑っていないけど、口元は笑っている。まるででっかい蛇に見つめられているみたいだ。器用なおっさんだよ、本当にさ。何を考えているかわからないから貴族社会じゃ神出鬼没な幽霊みたいに不気味がられている。


 目の前に来ると変な威圧感がある。だけど、俺は知っている。

 このおっさんに場を支配されないためには勇気を持つことだ。


「……その言葉を聞いたら、必死で頑張ってるサンサ姉やエイジ兄の不評を買うと思うんだけど。次の当主は、あの二人のどっちかでしょ」


「ふっは。よく見ているな。今、私が死ねば――あの二人のどちらかが公爵になる」


 今の発言はあれだな……とんでもない爆弾発言だ。

 次期公爵家の当主、それが持つ意味は滅茶苦茶でかいから。その発言一つで貴族社会が浮足立つだろう。


「スロウ。お前の目にはあの二人……どう映っている?」


 きたきた、面倒な質問がさ。


 ――優等生のサンサ・デニング。

 ――気性の荒いエイジ・デニング。


 今、公爵家直系の中で次期公爵に向けた激しいレースが行われている。 

 一番先頭を走っているのがあの二人。どちらかが成果を上げれば、すぐにどちらかが盛り返す。そんなデッドヒートを二人は毎日繰り広げている。


 俺としてはサンサ・デニングに一票を上げたい。

 エイジが公爵になったら俺の対する当てつけが厳しくなりそうだからさ。


「サンサもエイジも優秀だよ。どっちが公爵になっても、デニングの名前は高まり続けることは間違いない。それに途中で脱落した俺が、次期公爵について口を出すつもりはないよ。反感を買うだけだし」


「スロウ、お前は自分から降りただけだ。だが、今その話を蒸し返すつもりはない。お前の機嫌を損ねると痛いしっぺ返しを食らうからな……スロウ。今のは笑うところだぞ」


 ――さっきまでは機嫌が悪そうだったのに、ほら見たことか。


 バルデロイ・デニングはこのように自分に歯向かってくる人間が好きなんだ。

 だから、俺と父上の相性は父上の立場から見れば悪くない。

 父上は昔から俺との会話を楽しんでいたように思う。


「一つだけ、聞かせてくれ。お前の目にはまだ、精霊が見えているのか?」


 そして、これだ。

 俺の秘密を知る男。俺の目にはいつだってそれが見えている。

 今だってそうだ。父上の周りには悪戯好きな風の精霊が纏わりついている。おびただしい数の精霊がさ。それだけで、魔法の才能ってのは大体わかる。


「そうだったな。お前にその力を秘密にしろと言ったのは私だ。今お前が浮かべた表情で十分。しかし、参った」


 俺はこの力で凡そ、相手の力を把握することが出来る。魔法使いを相手にした時、相手の属性を知ることが出来るということがどれだけ価値があるか。


 父上は自分の膝上に肘を乗せながら、しかめっ面。

 

「こうしてお前を前にすると、私はいつだって期待を浮かべてしまう。スロウ、お前があのまま成長していれば――騎士国家はドストル帝国とさえ対等に戦えていたのではないか、とな」

 

 口にはしないけど、それは無茶だぜ父上。


 アニメの裏側で、スロウ・デニングは一人で帝国と戦っていた。表ではシューヤ・ニュケルンが救世主として南方を導き、裏でスロウ・デニングが持てる手札で帝国を翻弄した。それでもあの国はびくともしない。それぐらい力の差がある。


 だからこそ、俺は今のタイミングで帝国を探るべきだと思っている。


「……スロウ。それじゃあ本題に入ろうか。私はお前の力を借りたいと思っている。では、私の敵は誰なのか。何故、クルッシュ魔法学園が戦場になったのか。お前にはヨ―レンツ騎士団の連中にすら話していない深部を教えてやろう」


 そして父上――あんたも俺と同じ意見の筈だ。

 なあ、そうだろ? 


 あんたは女王陛下エレノア・ダリスの命令に逆らってでも、錆の連中を北方へ送り込みたいと思っている筈なんだ。



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