417豚 こいつらのことは苦手です
俺の前に跪いて、ガリアスと名乗ったこのおっさんは父上と同じように公爵家の戦い方を体現しているような男だったりする。
「若様が来られるとは心強い。我々ヨ―レンツ騎士団は若様を歓迎致しますぞ。勿論、まごうことなき本心でありますから、誤解なきよう」
「……分かってるよ、ガリアス。お前は嘘が下手くそだからな」
公爵家ってのは戦いを通じて民を守るってことを家訓にしていて、父上が公爵家の当主になってからその考え方はさらに強まってる。
俺はどうかと思うけど、公爵家に属する人間は要するに強ければ、何でもいいみたいな感じ?
そして俺の父上が率いるヨーレンツ騎士団って奴らは国内からも、国外からも評判はすごぶる悪い。なんていうか恐れられているんだ。
こいつらが戦った戦場には骨も残らないって話だ。
「……なあ、ガリアス。お前がいながら、この有様は何だ? ここは伝統あるクルッシュ魔法学園だ。殺し合いしか頭にないお前の耳にも届いているだろう?」
「と、言いますと?」
「ここはな、少し前に多額の財が投入されて再建されたばかりなんだよ。それがこんなにも早く崩されたら……たまらないだろ。もっとやり方を考えろって言ってんの」
「ああ……そういうことですか。若様も小さなことを気にしますな?」
別にこいつらが悪事を働いているわけじゃない。自分の身を犠牲にして、民のために戦っている。だけど、俺はこいつらと意見が合わないんだ。
「小さなこと?」
「ええ、小さなことでありましょう」
「言ったなガリアス」
だからか俺の言葉遣いだって自然と棘が出てきてしまう。
ちなみに俺はこいつらが大嫌いである。それは俺の両翼騎士として名前を馳せたシルバ、クラウドも同じだ。
さらにだけどあのシャーロットもこいつらが苦手である。
そりゃあ、強さを追求している集団なんだからな。公爵家直系の俺の従者が戦えないシャーロットなんだから、こいつらからシャーロットへの当たりもきつい。
「若様、何をおっしゃる。これが我々ヨーレンツ騎士団の戦いでありましょう。我々の戦場には何も残らない。公爵家から距離を取り、束の間の自由を謳歌する若様の頭からは、我々の在り方がすっかり忘れさられてしまわれたのですか?」
「……話がなげえよガリアス。何が言いたい」
他国からは鬼として恐れられる公爵家の戦い方を体現しているような連中の集まり。それが俺の父上率いるヨーレンツ騎士団というものだった。
そしてこの男、ガリアスはそんな公爵家を父上の右腕として支え続けた男。
公爵家の番犬みたいな男だ。
父上に忠誠を誓って国を支え、他国からも恐れられる一騎当千のヨ―レンツ騎士団。戦場で一緒に戦うことになったらこれほど頼りになる奴らもいないだろけど、嫌いなんだから仕方がない。
「我らヨーレンツ騎士団はエレノア・ダリス女王陛下より、クルッシュ魔法学園を更地にしてでも敵を殲滅しよとのお言葉を受けております――協力して頂きますぞ、スロウの若様」
とりあえず俺たちはモンスターを学園の外に追い出しながらガリアスから話を聞いた。こいつらがモンスターを放置していた理由は追い出しても追い出しても入ってくるからだという。つまり、諦めたらしい。
モンスター相手に力を使うのも馬鹿らしいと思ったとか。
「懐かしい顔だ! おい、シルバ! お前もでかくなったじゃねえか!」
「お前、それ!
俺たちが援軍としてやってきたことが広まったのかヨ―レンツ騎士団の連中が集まってくる。クラウドやシルバに話しかけているが、二人は嫌そうだ。
俺としてはすぐに父上に会って奴らとの交渉がどうなっているのか聞きたかった。
だけど父上は日課の瞑想をしているから暫く待ってほしいとのことだった。
あれはルーチンワークみたいなものだ。
深い瞑想をして、心を落ち着かせる。他にもやることがあるようで、夜になるまで父上とは会えないようだから俺たちは男子寮の懐かしき我が家まで行くことにした。
「スロウ様……大丈夫ですか? 緊張されているようですけど」
「やっぱりシャーロットにはお見通しか。まあね……父上とこれから会う訳だからさ」
俺と父上の確執は長いからなあ。今はヨーレムの町で拗ねているだろうサンサと話すだけでも最初ちょっと緊張してやりづらかったのに……。
これが父上になるとどうなるんだろう。
「スロウ様、頑張ってください! ファイトです!」
「……ぶひい。緊張するぜ」
シルバとクラウドは男子寮の空き部屋を勝手に使うよう言っておいた。ヨ―レンツ騎士団の連中も思い思いの場所で過ごしているらしい。
規律があるんだかないんだか。そして遂にその時がくる。
「若様はこちらへ来てください。若様以外は待機を続けてください」
父上の専属従者であるミントが俺の部屋を訪ねてきた。
「行ってくるよシャーロット。何かあったら俺の骨は拾ってね」
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