公爵家のヨーレンツ騎士団

416豚 ヨーレンツ騎士団

 …………なにもいえねえ。


 門の中に入って、学園の様子を見渡すともう何も言えなくなったよ。


 だってこんなのありか? 学園に戻ってすぐに崩壊している校舎を一棟見つけてしまったし、校舎の壁には幾つも穴が開いていたりもする。当たり前のことだけど、学園に刻まれた傷跡は俺たちがクルッシュ魔法学園を出た時にはなかったものだ。


 ……。

 …………。

 俺たちがヨーレムの町でのんびりしていた間に何があったんだよ!


「ギョエエエエエエエエエエエエエ!!!」

「オオオォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」


 しかも、しかもだよ……。

 ……どうしてモンスターが学園の中を歩いているんだよ。

 黒色のペンギンみたいな姿のモンスターが列を為して、通りを行進している。


 考えることを止めたくなった。俺たちがクルッシュ魔法学園を追い出されて十日間程度が経過した。それだけでここまでになるか? 俺が夢を見ているだけか?


「いいっすねぇ、戦争って感じがします」

「シルバ、軽口はやめろ。見られているぞ……敵か味方かは分らんがな」

「へいへい、わかってますよクラウドの旦那。なんて言ったってあのサンサちゃんですら参戦を断られた場所ですからね。何とも言えない視線の数、ゾクゾクだ……こいつはすげえ場所っすよ」

「おい二人とも。シャーロットびびらすのはやめろ」


 シャーロットはお前ら二人とは違って普通の感覚なんだからな。


 さて。俺以外の三人もこの光景に唖然としていた。


 ちょっと位はさ、父上たちと錆の連中が戦った跡があるかもしれないとは思っていたよ。だけどこれはひどすぎるだろ。


 ……父上がここまでの馬鹿とは思っていなかった。学園関係者の気持ちとかは考えていないんだろうか。何にしても学園を破壊しすぎだ!


「あわわ……スロウ様、スロウ様」


 特にシャーロットなんかは言葉も出ないみたいだ。無理もないと思う。この光景は、クルッシュ魔法学園に思い入れのある人間からすれば結構きつい。


 ここが再建したばっかりってことわかってるのか!


 俺はもう正直言ってドン引きだった。父上はいつも俺の予想を超えてくるけど、勘弁願いたい。


「おい、ミント。普通にモンスターが歩いているんだけど、あれはなんだ。騎士たちは何をやってるんだよ」

「そこら中に穴が開いてますから、外の森から入ってきたんだと思います。敵が陽動のために入れたのかもしれないですけど」

「……そういうことを聞いてるんじゃないんだけど」

「若様。私たちの敵は錆です。歴代の公爵家当主が活用してきた秘密部隊。奴らは勝利のためなら、何でもします、あんなので驚いていたら、錆とは戦えませんよ」


 はあ。ちょっと俺も考えを改めないといけないな。


 錆の連中とは話が通じる。そう思っていたのにこれはちょっと……。錆の中にはクルッシュ魔法学園の卒業生もいた筈だ。奴らには母校愛ってもんがないのかよ。


「しかし……まさかここまで父上が奴らと敵対しているなんてな」

「そうですね。公爵家様も言っておられました。長い歴史の中で、これ程彼らと対立が深くなった時期はないと――」


 

 

 出入口付近でモンスター掃討に精を出していると、数人の男が道の先からやってきた。どいつもこいつも重々しい甲冑を付けて、歩くたびにガチャガチャ音を立てている存在感抜群の男たちだ。


 ったく、やっとの登場か。俺たちにモンスターの相手なんかさせやがって。確信犯に違いない。そいつらは俺たちの姿を見ると明るい声を上げた。


「ハハハハハハ。やはり選ばれたのはスロウの若様であったか!」


「サンサ様に錆の相手が出来るものか。それに彼女の経歴に傷がつくことを団長は恐れているからなあ! お、懐かしい顔がいるじゃないか! シルバ、陛下のご機嫌取りは止めたのか?」


 距離が近づくにつれて、そいつらの表情もはっきりと分かった。

 全員、猛獣みたいな笑を浮かべて俺たちを見ていた。シルバが大きく舌打ちをする。シャーロットがそんなシルバにダメですよって優しく注意をした。でも気持ちは分かるぞシルバ。


「よーお! クラウド、やっと来たかあ! 一緒に戦えるなんて、久しぶりだなあ! やっと便利屋からは卒業ってことだ、よくやったなあ!」


 珍しいことに、あいつらの姿を見てクラウドもシルバに負けずとも劣らない舌打ちをした。クラウド、やっぱりお前らもあいつらが嫌いか。俺もだよ。


 しかし、やっぱり本物は違うな。

 あいつらは父上直属の騎士だ、公爵家が抱える正規の騎士団。

 ヨーレンツ騎士団といえば騎士国家の国内でも1、2を争う実力の騎士団である。まぁ、父上が直々に鍛えているんだから当然か。

 

「若様、到着して早々にモンスター退治とは精が出ますなあ!」


 さすが父親が連れている騎士たちは目つきが違うな。

 目つきが物々しくて、歴戦の勇士って感じ。どいつもこいつもちょっとした有名人一人一人が王室騎士と同じ位か、それか上回る力を持っている。

 奴らにとってはモンスターなんて取るに足らない相手だ。


「……」

 

 そいつらの中から一人の男が進み出て、俺の前で膝をついた。


「スロウの若様。助太刀、誠に感謝。ヨーレンツ騎士団副官を務めております、ガリアスであります。我らが団長、バルデロイ・デニングの代わりにまずは感謝を申し上げます」



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