415豚 再びクルッシュ魔法学園へ
ミントはモジモジとしてとっても言い辛そう。別に俺相手に畏まらなくてもいいんだけど……もう俺のキャラとかわかってるだろうに。
「私は……正体を隠して皆さんを騙していたわけじゃないですか……。サンサ様なんか……私も見たことがないぐらい怒ってました……」
「サンサと俺とじゃミントに騙された期間が違うからなあ。それに事情があったんだろ。父上の従者なんて俺にだって想像できない苦労がたくさんありそうだし」
すると、ミントは信じられないといったように目を開いて俺を見た。
「若様……物わかり、良すぎさじゃないですか? 私は若様の従者候補として身分を騙って近づいたんですよ? 少しは怒ってもいいと思いますけど……」
そんなこと言われても俺は全く怒ってないんだからどうしようもないだろ。
公爵家って言う複雑な環境に生まれたせいか、昔から嘘をついて近づいてくるものが後を絶たなかったんだよなあ。
「君は俺に嫌われたいの?」
「そういう訳じゃないですけど……私が皆さまを騙していたのは事実で……サンサ達にはすっごい責められたんですけど、若様たちは誰もそのことについて言ってこないから……」
まあ、確かにサンサなら怒りそうだな。いや悲しむって感じか? あいつって結構、情を大事にするところあるからなあ。
「ミント。君の父親が以前、俺の父上の専属従者だったグレイスだったことは知っている。それを踏まえて言うんだけどさ、従者としての生き方が辛かったら父上の従者なんてものは止めたほうがいいんじゃない? しんどいでしょ」
「え」
公爵の従者を止める――そんなことを言われたのは人生で初めてだったんだろう。
ミントは虚を突かれたように、口をぽかんと開けていた。
戦死した父親の跡を継いで、バルデロイ・デニングの従者になるって未来はミントにとっては当たり前のことだったんだろう。けれど、別にほかの選択肢があってもいいはずだ。少なくとも、俺は自分で自分の未来を変えたわけだしな。
「私が……公爵様の従者を止める? 考えたこともありませんでした……でも、若様に言われると妙に説得力がありますね……」
どういう意味だ、おい。
「俺は周りの期待を一度、裏切った人間だからなあ。ミント、父上の従者で在り続けるってのは、相当に辛いことだと思うよ」
なんて言ったって、あのバルデロイ・デニングの従者だ。
命が幾つあっても足りないだろう。父上だって何を考えているんだよ。幾ら才能に溢れていると言っても、俺よりも年齢が低い子だぞ?
あのおっさん、ロリコンなのかよ。
「はあ。ミント。これだけは言っておくけど、俺は怒ってなんかいないし、むしろ逆。安心したよ、だって俺の従者はシャーロット一人だけだからね」
「……若様は心が広いというかなんていうか。別に若様に限ったことじゃなくて、若様の周りに集まっている皆様にも言えたことですけど。シャーロットさんなんか……私にずっと気を遣ってるみたいですし……」
シャーロットは優しいからな。
ミントがヨーレムの町で再び俺たちの前に姿を現してから、ミントを気遣うような態度を取り続けている。それがシャーロットの良いところだ。
「今更ですけど……若様たちは魔法学園でどんな連中を相手にするのか、公爵様の敵が何者なのか……知らないわけじゃないですよね」
「十分に知ってるさ。代々、公爵家の当主が利用してきた連中だろ? 依頼すれば、なんでもやってやれる都合の良い連中だ。俺もああいう連中、欲しいなあ」
「……サンサ様ですら知らない連中をどうして若様が知っているのか、という話になりますが。そこは聞かないでおきます」
三人には父上が敵対している連力がどれ位やばいのか十分伝えている。むしろあの二人、武闘派のシルバとクラウドはやる気満々みたいだ。ちなみに俺は奴らの仮面の下の顔だって知ってるぞ。奴らの素顔なんか父上だって知らないんじゃないか?
「それよりもミント。今、クルッシュ魔法学園がどうなっているのか教えてくれ」
俺たちがヨーレムの街に追い出されて十日間ぐらい経っているからな。
「ヨーレムの町で父上に学園から追い出された生徒が集まって言ってたんだよ。あのバルデロイ・デニングが魔法学園を占拠したって事はまた学園がボロボロにされちゃうんじゃないかってさ。みんな不安に思っているんだよ」
ヨーレムで学園関係者を見つけると公爵家の連中がどれぐらい学園を破壊するのかを話し合ってばっかりなんだ。中には校舎が跡形もなく壊れてしまうんじゃないかとか不吉なことを言う奴らもいたけれど。
さすがにそこまでの事態にはならないだろう……ないよな?
「学園の様子ですか……生徒の皆さんが不安に思う気持ちもわかりますが……」
まあ、父上だってわきまえているに違いない。
魔法学園は学術的な価値もあるけれど、文化的価値も非常に高い。それに黒龍騒動があって、学園を再建したばっかりなんだ。
「百閒は一見にしかずといいますからね……明日、実際に見た方が早いでしょう。私の口からはこれ以上のことは言えません……」
「何だよ、もったいぶっちゃってさぁ――」
確かに錆の連中は強いさ。だけど、父上の後ろには女王陛下がいるのだ。この国の最高権力者相手に錆の連中が喧嘩を売って、生き延びられるとは思えないけどな。
さて、翌日のことだ。
「――スロウ様見えてきましたよ!」
ぐっすりと睡眠をとった俺たちは歩くスピードを上げて意気揚々と、クルッシュ魔法学園に帰還した。
「さあーて、坊ちゃん。やってやりますかっ!」
「シルバ。敵を侮るなよ」
「クラウドの旦那に言われるまでもないっての! ひっさしぶりに両翼と呼ばれる俺たちが揃ったんだ! 俺たちの成長した姿、見せつけてやりましょーよ!」
向こうに小さく見える魔法学園の門、いつもなら何名もの屈強な衛兵が警備しているが今は彼らの姿も全く見えない。改めて学園関係者が全員魔法学園から追い出されてしまったんだなぁってことを実感する。
今、魔法学園には父上を中心とする公爵家の関係者と、父上と敵対している錆の連中しかいないはずだ。
「スロウ様、スロウ様、あれって――ッ!」
シャーロットが俺の服を引っ張っている。俺はされるがまま、茫然としていた。
「ちょっと待て! あれは一体どういうことだ! おい、ミント!」
ミントを除く俺たちは唖然としてそれを見る。自分の目を疑った。
夢じゃない……ほっぺたをつねったけど、はっきりと痛い。でも、冗談だろ? 父上、あんたは一体何をしてるんだ?
「個人的にですけど……私はもう、公爵様と錆の争いは小規模な戦争と言える規模だと思っています……」
ミントの言葉はある意味でその通りだった。
魔法学園の中に入る門が、砲撃を受けたかのように崩れ去っていたからだ。
こうして俺たちは、今や騎士国家中の全ての貴族が動向を見守る小さな戦争。
クルッシュ魔法学園で引き起こされる公爵家の内紛に強制的に投入されることになったのだ。
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