407豚 階段ダッシュ

 宿に戻ってきたら一階でサンサがお付きの騎士達と険しい顔で話し合っていた。

 あいつらに気付かれないように、そ~っと階段を登ろうとする。だってサンサの奴等は真面目なんだ。俺が父上の敵になろうとしている連中と会ってきたなんて知られたら、一体どうなってしまうのか。サンサは俺を拘束して根掘り葉掘り探ろうとするだろう。ああ、考えるだけで面倒だった。


「坊ちゃん! シャーロットちゃんから聞きましたぜっ! 敵の一人と接触したって! どんな奴だったんですかい!」


 だけど空気の読めない奴ってのはどこにでもいるもんだ。

 階段をでっかい足音で降りてきたシルバが俺を見るなりにでっかい声で話しかけてきた。こ、この野郎……空気読んでくれ! 頼むから!


「し、シルバさん! 声が大きいですよ! その話はまた後でってスロウ様言ってたのに……!」


 あいつと一緒に降りてきたシャーロットの声を聴いて、シルバの野郎はあ、やべえみたいに口を抑えるがもう遅い。

 俺にも、聞かれたくない奴等にもシルバの声はばっちり聞かれてしまっていた。


「……ん? 何だと? おい、シルバ! スロウが誰と接触しただと!?」


 シルバのバカが声高らかにそんなことを言い出すもんだから、サンサ達の目が俺に向いた。面倒なことになる――だから走った。階段を一気に上まで駆け上がる。


「おいスロウ! お前、何を誰と会っていたんだッ!」

「誰でもないよ! サンサには関係がない!」

「関係ないわけあるかっ」


 後ろからサンサが追ってくる気配。


「え、坊ちゃん!?」

「わあ、スロウ様!」


 階段を上がりながら途中で二人の腕を掴んだ。二人にはすぐ俺の気持ちが通じたのか、一緒に最上階の俺の部屋まで走りこむ。

 

「開けろ、スロウ! やましいことがないなら、開けろ!」


 どんどんと扉を叩く音。だけど俺の勝ちだ。外からは開かないよう内側から強固なロックの魔法を掛けた。魔法の技術ならサンサよりも俺の方が上だからな。


 なりふり構わず壁をぶち抜いてくるって言うなら話は別だけど、お行儀がいいサンサのことだ。そこまですることはないだろうと、当たりをつけていた。

 ついでに中の話し声が聞こえないようにと魔法には工夫を凝らしている。


「ぼ、坊ちゃん……すみません、空気読めなかったみたいで……」


 バツが悪そうなシルバ。


「別にいいよ、シルバ。お前のお陰で父上の敵と接触出来たのは事実だしな」

「えっと、本当に敵がヨーレムの町にいたんすか……?」

「いたよ。平民の中に紛れ込んでいた。ああ、探そうとしても無駄だぞ。目の鋭い奴でも、実力者特有の気とかは全く感じられないから。疲れたけど、収穫は大きかったよ。色々と話を聞けた」

「凄いっすね坊ちゃん……そいつは公爵様の敵っすよね?」

 

 俺は壁際に置かれた椅子に腰かけると、大きく息を吐いた。

 アニメで活躍していたキャラクターに初めて会う時はいつもこうだ。必要以上に疲れてしまう。

 

「敵というか……微妙なところだな。こればっかりは父上の意見も聞いてみないと分からないかなあ」


 実際、イチバンと話すことが出来たことはとっても大きい。錆と父上が敵対している理由もよく分かったしな。


「坊ちゃん、動くんすか? 準備はもう終わってますが――」

「……そうだな」


 よくよく考えれば、アニメの中でも錆の連中は一貫していた。

 俺たちみたいな大陸南方に住む人間は、余りにも大陸北方のドストル帝国を知らなすぎる。だから、危険を承知で敵地に侵入すべしってな。


 実際、アニメの中では女王陛下も俺の父上、バルデロイ・デニングの意見を理解し、錆の連中を含めたシューヤ御一行を北方に送り込んだわけだし。


「ところでシャーロット。俺充てに父上から何か連絡、来てない?」


 別に確信があったわけじゃない。

 学園にいる父上らから連絡があるとすれば、このタイミングかなと思っただけだ。



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