408豚 エビをばきばき
やっぱり来ていた俺への連絡事項。
シャーロットにはどうして分かったんですかと目を丸くされてしまった。理由なんて無い、勘だよ勘。だけど意味深に頷いておいた。
ばきぼき、むしゃむしゃ。あ、これ手が汚れるなあ。
「……それでスロウ様、どうされるんですか?」
「いや、こればっかりはなあ。シャーロット、手袋やっぱり貸して」
「はい、どうぞ」
シャーロットと二人で夜の作戦会議中である。
シルバとクラウドの二人は宿の一階で夕食中だ。当然、サンサから色々聞かれているだろうが何も答えるなと言っておいた。クラウドもいるんだ、あいつはいつもの仏頂面で上手くやってくれるだろう。
「公爵様。スロウ様が真相に辿り着いたことを疑っていない文面でしたね……」
「まあ、父上は俺のことをよく知ってるから……」
議題は父上から俺充てに届いた手紙にどう回答するかである。
ばきぼき、むしゃむしゃ。ぶひぶひ。
「サンサ様はあの様子じゃ……」
「勿論、父上が誰と戦かおうとしているなんて分かってない。公爵家の当主を狙っている他国の手強い賊、程度にしか思ってないんじゃない?」
「ですよね……それで、スロウ様がお昼に出会った人たちは強いんですか?」
「強いよ。半端ない奴等だ。サンサレベルがうようよ、って感じかな」
父上の敵は手強い賊と言えるレベルじゃない。
公爵家の当主が代々、運用してきた暗部。帝国を探るべきだと訴えている奴らの暴走を父上は止めるつもりなのだ。クルッシュ魔法学園を戦いの場としているのだから、女王陛下も事情は知っているんだろうが。
ばきばき、むしゃぶひ。
「スロウ様、さっきから食べてばっかりですけど……」
「え、そう?」
殻付きのでっかいエビが机の上で湯気を立てていた。
食欲を誘う赤いやつらをさっきから、ばきばきと殻を外して身を食べているんだ。質より量! と主張するでかエビの存在は今の俺にとってはありがたかった。
お昼はあいつが食べているのを見ているばっかりで、お腹が空いていたんだ。俺が錆の一人に接触したことで、あいつらはあいつらで相当焦ってるだろうな。ぶひひ。
ばきばっき、むしゃむしゃぶひぶひ。
「シャーロット、全然食べてないじゃん。このままだと俺が全部食べちゃうよ」
「え。それは困ります……食べます……」
「食べよう食べよう。父上はサンサがどこまで真相に迫っているか確認したいってんだから、サンサは全然真相に辿り着く気配なし、って答えたら大丈夫だよ」
ばきばき、むしゃぶひ。
お、シャーロットもばきばきとエビの殻をむき始めた。俺たちは無我夢中で、エビを貪る。ばきばき、むしゃぶひ。
エビが減ってきたので、シャーロットにお代わりをお願いした。
すぐに熱々の鍋を両手で抱えた従業員が俺の部屋の扉をノック。部屋に入ると机の上に大鍋をどんと置いた。中には大量のエビが。
俺たちは再びばきばき、むしゃぶひ。
「でもスロウ様……それでいいんでしょうか。サンサ様のことを正直に言ったら多分……サンサ様がクルッシュ魔法学園で行われる戦いに参加することが……」
「出来ないだろうね。でもいいんじゃない? それがサンサの実力なわけだから。父上絡みに関してはサンサの奴、やる気がありすぎるからね。父上もサンサのやる気が空回りするんじゃないかって考えているんだと思うな」
クルッシュ魔法学園に引き籠っている父上から、サンサの様子を問われた。
サンサが事態のやばさをどこまで正確に把握しているか、父上は俺の意見が知りたいらしい。俺は正直に答えるつもりだけど、シャーロットはサンサが気の毒に思っているらしい。
でもなあ、今のサンサはちょっと必死過ぎるというか。
いつもの完璧クールビューティーさが消えている気がした。
「シャーロット。今回、父上が戦おうとしている敵は単純な敵じゃないんだ。これまで公爵家のために働いていた連中が相手だからね。ダリスへの貢献度合いで言ったらあのサンサよりも上かもしれない、だから父上も悩んでいるんだろうなあ」
ばきばき、むしゃぶひ。
「あ、スロウ様……もう無くなりそうです」
俺たちはその後、もう一回エビのお代わりをした。最上階まででっかい鍋を運んでくる従業員さんには申し訳ないと思ったが、従業員さんはそんなことないと恐縮しきり。理由を聞けば黒龍騒動から俺のファンらしい。
それから数日、街中を歩き状況確認。
錆の連中が街中からすっかりと姿を消していた。あいつらは父上が待つクルッシュ魔法学園に向かったらしい。
そろそろ話し合いが拗れて戦いが始まる頃合いかな。
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