【シューヤ視点】405豚シューヤ・マリオネット④
ヨーレムの町でシルバが道の往来を練り歩き、注目を浴びていた頃。
騎士国家の中枢。王都ダリスでは二人の騎士が慌ただしく行動を始めていた。
セピス・ペンドラゴン、そしてシューヤ・ニュケルン。
「この馬鹿者が! 酒場で酔いつぶれるとは、王室騎士として目に余る失態だ!」
「ごめんなさい……セピスさん……」
「いいか、シューヤ!? お前が失態を犯すごとに俺の面目も潰れるのだ! くそ、どうして俺が学生の面倒なんて見なければならないのだ……陛下や団長の考えが俺にさっぱり分からない……」
王都を囲むように建造された城壁には幾つもの門が存在する。
大半は一般市民や物流のために用意されたものだが、一部の門は特別な者専用に準備されていた。特別な者とは当然、光のダリス王室が当てはまり、王室騎士も同じくであった。彼ら二人は王都を出ようとしているのだった。
「あ、そういえばセピスさん! 俺、情報を掴みましたよッ」
王都を駆け足で進むのは二人の騎士だ。
一人は若手王室騎士セピス・ペンドラゴン。冷たい彫像のような美貌を誇る、若手騎士の中でも一際将来を有望視されている王室騎士である。
そしてもう一人はシューヤ・ニュケルン。クルッシュ魔法学園の生徒でありながら、王室騎士に取り立てられた超有望株。ここ最近ではスロウ・デニングが王室騎士の名誉を与えられていたが、既に彼は白外套を返納している。
「その話は後にしろシューヤ! 今は一刻も早く王都を出るぞ」
「え?」
「察しが悪いな、陛下より勅命が下ったのだ! 馬と共に走り、これよりクルッシュ魔法学園に向かう! シューヤ、お前が掴んだ話は馬上で聞かせてもらうッ!」
シューヤの顔に緊張が走った。
アルコールによって引き起こされていた頭痛が瞬時に消える。王室騎士となってから基礎的な知識や、騎士として恥じないテーブルマナー。
杖剣を使った訓練に明け暮れていた毎日だった。
だけど、ようやくだ。
先輩として慕うセピス・ペンドラゴンの顔つきも、朝とはまるで違っている。
「いいか、シューヤ。王室騎士の仕事は、王室の守護。そしてもう一つは陛下を含めた王室の命令に忠実なこと。俺たちは陛下の命令であれば、例え理解出来ぬ命令であってもこなすのだ。陛下の勅命には――疑問を感じるな」
城壁には数人の衛兵が既に待機していた。
彼らは憧れの混じった瞳で、二人の若き王室騎士を見る。
「――お気をつけください。ペンドラゴン卿、ニュケルン卿」
「ああ、行ってくる。お前たちも留守を頼むぞ」
親子程年齢の異なる兵士からから渡された白外套を羽織り、シューヤ・ニュケルンは改めて覚悟を決めた。
ダリスで穢れの無い外套を羽織ることが許されるのは王室騎士のみ。
「何をぼけっとしている! シューヤ!」
「す、すみません!」
外套の重みは、今まで感じたことがないものだった。
「遅れるなよ――シューヤッ!」
セピス・ペンドラゴンは一瞬で白馬にまたがり、どこまでも続く草原の道を駆け出した。先輩騎士に遅れることなく、シューヤもまた駆け始める。
「セピスさん。俺達に与えられた仕事ってのは、何なんですかっ」
「デニング公爵に謀反の疑いがある。俺達の役目は陛下の命令をデニング公爵が全うするか、見届けることだ」
「…………え」
余りの話の大きさに、シューヤは馬から落ちそうになるのであった。
そして同時刻――ヨーレムの町ではスロウ・デニングが一人の男を伴い、町の寂れた定食屋の扉を開ける。ちょうど、お昼の時刻であった。
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