403豚 サンサの憂鬱
「ぶひ、ぶひ。シャーロット、苺のジャム取ってぶひい」
「スロウ様、もう! 朝から口元に食べ残しが付いてますよ!」
「ぶひい、ぶひい。この宿のご飯が美味しすぎるだけだから、ぶひい」
父上がクルッシュ魔法学園にやってきて、学園関係者を追い出した理由は単純なものだった。公爵家の当主が持つ秘密の部隊、錆と呼ばれる連中とあそこで話をつけるためだ。最悪、激しい戦闘になることも考えているのだろう。
シルバとクラウドには、いつでも出発出来るよう準備を整えておけと伝えてある。
「おい、スロウ。お前はどこまで情報を掴んでいる」
優雅にシャーロットと朝食を楽しんでいると、椅子を引いて俺の隣に座る奴が現れた。ふわりと香る、柔らかな匂い。
サンサ・デニング、俺の姉上である。朝から面倒な奴に絡まれてしまった。
「おはようサンサ……何にも掴んでないって」
朝だってのに、服装には乱れもない。さすがサンサだ。
「嘘をつくな。お前、ここ暫く一人でヨーレムの町をうろついていたんだろう? お前がシャーロットを連れずに一人で行動するときは、何かがある。教えろ」
「本当ぶひい」
「一般人が周りにいる時はぶひぶひ言う癖を止めろと言ったぞ」
「すみませんぶひい」
ヨーレムの町で俺やシャーロット達に用意された宿にはサンサも滞在している。サンサは自分が父上からヨーレムの町送りにされたことを納得いっていないんだろう。
父上が相手にしようとしている錆って連中はアニメの中でもシューヤの周りで大活躍した恐ろしい連中だ。父上がサンサを遠ざけた理由は錆との戦いからサンサを守るためだろうが……俺がそれを言ってもなあ。
「では、話を聞く相手を変えるとしよう。シャーロット、お前は昨夜スロウから何を聞いた? お前とシルバ、クラウドの三人が昨夜スロウから呼び出されたことは知っている」
うわ、こいつ。俺達の行動を探っていたのかよ。
ジト目でサンサの奴を見た。するとサンサは開き直ったかのように、俺のために用意されたパンを一枚取って、口をつけた。それは俺のだ!
「え? わ、私ですか……!?」
シャーロットにとってサンサは雲の上の人物。
サンサ相手に嘘をつかせるのも可哀そうだ。俺はもう一枚、パンを手に取った。すると宿の給仕が慌てて、俺の前に一人前のパンを追加で置いてくれた。
「サンサ。シャーロットに当たるのは止めろって。シャーロットは人が良いんだから、お前に聞かれたらついつい答えちゃうだろ」
「スロウ、お前の口が堅いからだ。私はこれでも譲歩しているつもりだ」
「どこが譲歩だよ……」
しっかし、サンサの奴。余裕が無くなっている。
父上が学園関係者をクルッシュ魔法学園から追い出して数日が経った。父上たちが学園で何をやっているのかあれ以来全く音沙汰がないからなあ。
もっとも何をしているのか予想はつくけれど。
戦いの準備だろうなあ。
サンサも父上の命令を受けて俺の新しい従者候補であるミントを寄越したり、色々動いていたんだろうけど……騎士国家ダリスの風紀委員長である父上が飼い犬に手を噛まれたってとこまでは掴んでいなかったんだな。サンサよりもクラウドの方が事態を掴んでいたようだ。さすがクラウド。さすクラってやつだ。
「サンサ。お前も分かってるだろ。父上が優秀なサンサ・デニング様をヨーレムの町に寄越したのは、何が起きてもヨーレムの町の住民を守れってことだろ」
「それは……そうだが……」
「いっつも影でこそこそしてるあの父上が、これだけ目立つ環境で何かをしようとしているんだ。ある意味、サンサ・デニング様は父上から信頼出来る仲間に選ばれた、今はそれだけでいいんじゃないか? 父上が何をやっているかなんて、全てが終わった後で聞けばいいだろ。この場所にいるってだけで、十分に信頼されていると思うけどなあ」
「……本当にそうだろうか」
サンサは何かを言いたげで、だけど、黙り込む。
面倒な奴だな! 父上の真意が知りたいなら自分で聞けばいいだろうに!
サンサ・デニングって奴はこの国じゃ完璧なクールビューティーって評価だけど、実際のところは心配性で周りからの期待に完璧に応え過ぎようとする所がある。
俺みたいにのんびりとでん! と構えていれば楽になるだろうに。
それから黙々とサンサは俺の前に置かれたパンの山に手を伸ばして……だから、それは俺のだ!
「……」
部屋の隅ではサンサの専属従者であるコクトウが俺を見て、何やら頷いていた。
心配性のサンサの専属従者をやっているんだ、あいつはあいつで気苦労が絶えないだろう。さて、俺はちょっくらヨーレムの町に隠れ潜んでいる父上の敵――錆の連中でも見てくるか。
アニメではシューヤと共にドストル帝国に潜入した救国の英雄さん達は、何で父上と敵対するような真似をしているのか。そこを探る必要があるからな。
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