402豚 公爵家の風紀部隊

「やっと皆、揃ったな。よし、改めて頭の整理から始めよっか」


 ようやく部屋に集まったシルバとクラウド、そしてシャーロットの3人に向けて語りかけた。

 それぞれが部屋の中で思い思いにくつろいでいる。だけど表情は真剣だ。


「そんなに固くならないでくれって。まずは三人に俺が生まれたデニング公爵家という家の話をしようと思う」


 俺はシャーロットが持ってきてくれた甘いフルーツジュースを飲みながら言った。

 部屋の外ではどたどたと誰かが走る音が聞こえた。大方、サンサの関係者だろう。あいつはあいつで父上の行動を把握するために走り回っているみたいだからな。もっとも、俺のほうが早く当たりに辿り着いたみたいだけど。

 

「まずデニング公爵家は他のダリス貴族とはとは大きく異なることがある。シャーロット、何か分かる?」

「え、私ですか!?」

「そ。シャーロット。なんだと思う?」


 シャーロットが公爵家にやってきてからもう10年以上が立つ。

 人生の半分以上を公爵家と一緒にあるんだ。公爵家のことは人並み以上に詳しい。だけど、俺が望む答えに辿り着くことは出来ないとも分かっている。あくまで、シャーロットは公爵家の表しか知らないからな。


「えっと……やっぱり規模が段違いだと思います。デニング公爵家は領地も、領地から上がってくる税収も大きいです」

「シャーロット、正解」

「わ、やった!」

「だけど残念、俺が望む答えじゃないね」


 しょぼくれるシャーロットは俺と同じジュースを飲んだ。

 

「次、シルバ。お前は、分かる?」


 シルバは剣が納められた鞘を撫でながら頭を上げる。

 勿論、シルバが答えに辿り着かないことも分かっている。シルバは聡くて、一時は公爵家の騎士だった。それでも、普通の騎士だ。あいつがうちにいたときは、公爵家の闇には触れてすらいなかった。ずっとシルバが公爵家の騎士として在り続けたら、闇の一端に触れることはあったかもしれないなあ。何しろあいつ、便利だから。10の仕事を与えたら、20の結果を持ち帰るような奴だ。


「んー、俺はここんとこ公爵家から離れていましたけど、公爵家の名前を出すと王都にいる貴族の顔が引き締まるというか……怖がられるっすよね。俺は一度、公爵家の中にいたことがあるからそれ程怖い人たちばっかりじゃないってことを知ってるんすけど……」

「シルバ。良い線言ってる」

「うし!」

「だけど、俺が望む答えじゃない60点ってとこだな」

「ん、シャーロットちゃんよりは上か。ならいいや」

「じゃあ、クラウド。答えをよろしく。お前はもうわかっているんだろ?」


 一人だけ立って、窓の外を見つめていたクラウド。

 あいつは俺の父上がどうして騎士団を引き連れてクルッシュ魔法学園にやってきたか、薄っすら分かっていたんだろう。ずっと父上の専属従者であるミントと一緒にこそこそしてたわけだしな。それにクラウドは公爵家に忠誠を誓っている。そこは疑うべきもない。


「デニング公爵家は貴族を裁く権利を持っています。シルバ、ダリス貴族が必要以上にデニングを恐れているのはこれまで数多くの貴族を葬ってきたからだ」

「クラウド、ありがとう。その通りだ。99点の答えだな」


 気づけば、シャーロットが持ってきてくれたジュースは空になっていた。

 クラウドの言う通りだ。俺達が他の貴族から恐れられたり、王室から重宝されている理由はそこにある。

 俺達は影でこっそりとダリス貴族を叩き潰す、そういう力を持っているのだ。


「分かるか、シルバ。うちは他国との戦争以外にも活躍の場があるってわけだよ。分かりやすく言えば、公爵家はダリスって国の風紀委員なんだ」

「……坊ちゃん。俺にはいまいちピンと来ていないんすけど……風紀委員であることと、今回の騒ぎはどう関連してるんだ?」

「俺たちは少し前まで北方のドストル帝国と大きな戦争をしようとしていただろ? だけど国内の貴族全てが戦争に賛成していたわけじゃないだろう。表向きはドストル帝国との闘いに向けて一致団結しているように見せながら、腹の下は帝国に寝返ろうとしていた貴族がいてもおかしくはない。公爵家はな、というか父上なんだけど……どこの貴族が裏切るものになるかずっと探っていた。そういう汚れ仕事をずっと担当している部隊がある。風紀部隊って奴だな」


 シルバがぴくりと反応した。

 風紀なんて言葉はこいつと一番縁がないな。こいつ、俺に勝るとも劣らない自由人だし。

 クラウドは相変わらず仏頂面で苦い顔を継続している。やっぱりクラウドは知っていたか。


「坊ちゃん、それ。ほんとっすか? そんな部隊があるなんて俺は聞いたこともないんすけど」

「本当だよ。もっともシルバ、お前が知ることは一生無いだろうけどな」

「どうしてっすか?」

「お前が公爵家当主、俺の父上バルデロイ・デニングの信頼を全く勝ち取っていないからだよ」


 公爵家の中では中枢にいるあのサンサでさえ、父上がどんな考えで動いているのか理解していない。

 今では公爵家と縁が薄いシルバがうちの内情を知るわけがないんだ。


 公爵家の当主である父上だけが扱うことの出来る部隊がうちにはある。

 そいつらは錆と呼ばれ、アニメでも大活躍した秘密の部隊だ。


「それでまあ、父上は飼い犬に手を噛まれたわけだ。風紀部隊に、反旗を翻されたんだよ」


 ……原因は多分、俺が未来を大きく変えてしまったからだろうけどさあ。

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