【シューヤ視点】401豚シューヤ・マリオネット➂
シューヤの目に映る王都の光景。
活気も人混みも目にする色の数だって何もかもがニュケルン男爵領とは段違いだ。
「アルガス剣闘士の一団だ! 一見の価値はあるぞ、今はムラ広場にいるみたいだ!」
改めて王都の町中を散策しているとシューヤは思う。
こうやって王都をゆっくり鑑賞しているのは今日が初めてかもしれないと。
「遂に捕まった! 国を騒がしていた盗賊の一味が国境沿いで捕まった!現場じゃ大捕物だったそうだぞ!」
シューヤはしがない男爵家に生まれた貴族である。
ニュケルン男爵領での生活は平民が想像するような優雅な生活とは無縁。
だからクルッシュ魔法学園でも友達になるのは同じような立場の貴族生徒が多かった。
そんな自分が今や王室騎士だ。夢みたいな話、というより学園の友人は誰も信じてくれないだろう。シューヤの扱いは厳禁中の厳禁なのである。
本日、シューヤに先輩騎士セピス・ペンドラゴンより与えられた命令は情報を集めること。
ただ情報を集めるといってもシューヤにはその方法が何も分からない。
「……どうすりゃいいんだ」
クルッシュ魔法学園が再び休校状態になっているなんて話、シューヤは聞いたことが無かった。
それにあの
とりあえず情報を探すなら酒場だろうとシューヤは王都で最も有名な酒場に向かうことにした。
「よお! らっしゃい!」
シューヤもお酒を
クルッシュ魔法学園では友人と深夜までお喋りに興じたことがあるし(翌日の授業が辛いので最近はご無沙汰だが)、ヨーレムの町に遊びにいった時は酒場に顔を出したことも数回はある。
だが、王都で最も有名な酒場ともなれば規模がヨーレムの町とは段違いであった。
酒場とは情報交換のためにある、特に王都の酒場は酒飲みには堪らないぜ、とは昔仲良くなった冒険者の言葉だ。
知り合いの冒険者が言うように王都の酒場はまだお昼だっていうのに、そこからしこの机が埋まっている。
おっかなびっくりシューヤは酒場のカウンターに座った。
「坊主、何にする!」
「と、とりあえず……エールで」
「エール、エールか! ちょっと待ちな!」
シューヤは頭までフードをすっぽり被っていたが、それでも酒場のマスターにはすぐに年齢を見破られてしまった。
だけどそれはカウンターの中にいるマスターが真正面からシューヤを見たからだ。
周りの客がシューヤの年齢に気付くことはないだろう。
「ほら! お待ちかねのエールだ! 覚悟して飲みな!」
一杯ぐびりといくと、シューヤは酒の強さに一瞬で頭がのぼせた。
「坊主! 何でお前みたいなガキが真っ昼間から酒場にきたのか知らないが、楽しみなッ! 一杯目はお代はいらねえよ!」
明らかに酒が強い。
マスター流の歓迎のようで、しかしシューヤは緊張をほぐすためにもう一杯ぐびりと口をつけた。
「ふは! 良い飲みっぷりだ!」
さて、シューヤはどうやって情報を集めようと考える。
その時、席を1つ離れた隣のカウンターに二人組の大柄な男が座った。
二人は暫く取るに足らない下世話な話を続けていたが。
「聞いたか? クルッシュ魔法学園の話」
「出回ってるぐらいの情報は、な。といっても詳しくは知らねえな」
ぴくん、とシューヤの耳が反応した。
さすが酒場。
こうも都合がよく、事情通っぽい人がやってくるなんて。
シューヤは神に感謝した。
全神経を集中させる。聞き漏らすわけにはいかない。
「公爵家はいろんな連中を抱えているからな。今回の騒動は、飼い犬に手首を噛まれたって線だと俺は見ている。つまり、飼い主に対する反乱だな」
公爵家に対する――反乱。
物騒な言葉に、シューヤは全身に鳥肌が立つ。
ぐびりとアルコールの強いエールにもう一口付けながら、一人の知り合いに思いを馳せる。
サーキスタ大迷宮から真っ直ぐ王都に帰還したシューヤと違い、スロウ・デニングはクルッシュ魔法学園に戻っている筈だからだ。
「お陰でヨーレムの町は活気に沸いているって話だ。ごたごたが片付くまで、クルッシュ魔法学園の関係者、数千人がずっと町に滞在するってことだからな」
全神経を集中させながら、エールをもう一口。
そんなことを繰り返していると、二人が席を立った数分後。
シューヤはカウンターに突っ伏していた。
酔いすぎ、であった。
―――――――――――――――――――――――
もう一話シューヤ視点です、すみません!
次から普通に豚視点。明日更新予定です。
【一読のお願い】
カクコン6に現代ファンタジー物で応募してみました!
良ければ一読をお願い致します!
◼️地下に広がる楽しい迷宮――涙の一滴までモンスターの餌
https://kakuyomu.jp/works/1177354055169246409/episodes/1177354055213185140
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます