【シューヤ視点】400豚シューヤ・マリオネット②

 ダリス王都での生活を開始したシューヤ・ニュケルンの生活は、華やかで光が溢れたものだった。これが王室騎士としての新しい生活。輝かしい未来を前にしたシューヤは鼻高々で、クルッシュ魔法学園の頃とは違い、寝坊をすることも無くなった。

 毎日が楽しいからだ。

 ダリス王宮で与えらえた部屋にも、朝に弱い師匠の存在にも感謝している。


「セピスさん、朝ですよ。もう起きてください」

「……」

「セピスさん、セピスさん! 朝ですって!」

「…………ッ」


 そんなシューヤの一日は毎朝、寝ぼすけの王室騎士。

 セピス・ペンドラゴンを起こすことから始まるのだ。深い水中の中から水面を見上げればきっとこんな色だろう――水色の髪を表情に張り付かせたシューヤ・ニュケルンの師匠はベッドの中から不機嫌な目つきでシューヤを見つめた。


「お前……本当に元気だな。昨日はあんなに気絶させたってのに、私に対する恨みとかはないのか? 昨夜は死んだように眠っていただろ」

「ありませんよ! 王室騎士の特訓はきついって聞いてますから」

「……私はまだお前が王室騎士と認めたわけではないがな」

 

 王室騎士の中でも一際、年齢の若いセピス。

 彼はシューヤの中に潜む火の大精霊の存在を知っている。だからこそ、女王陛下の考えが理解出来なかった。あの人は一体何を考えているのか。

 ――誰だって、こいつが極めて危険な存在であることを分かっているだろうに。


「それでセピスさん、今日は何をするんですか?」

「シューヤ、お前は黙って食べられないのか。王室騎士は子供の仕事じゃないんだ。普段から誰に見られているか分からない。私たちは陛下の剣だ、自覚を持て。つまりどんな時でも宮廷の晩餐会のように振る舞えということだ」

「さっすが……首席……」

「何か言ったか?」

「あ、いえ! 何も……」


 セピス・ペンドラゴン。

 クルッシュ魔法学園の卒業生で、シューヤよりは一回り近く年上の騎士だ。聞けば魔法学園を抜群の成績――首席で卒業し、モロゾフ学園長の推薦を持って王室騎士に選ばれたという。王室騎士となってからも鍛錬に次ぐ鍛錬を重ね、若年ながら陛下が国外へ外遊を行う際の騎士に選ばれたこともある。要するにエリートなのだ。

 家柄も含めて、シューヤとは比べることも出来ない。


「シューヤ。お前の呑気な顔を見ていたら、あることを思い出した。聞け」


 セピス・ペンドラゴンの隣で呑気に朝食を食べる赤毛の少年。

 本来はまだクルッシュ魔法学園の第二学年。けれど、陛下のお気に入りとなり、特例中の特例として王室騎士に選ばれ、今はこうして王宮に呼ばれている。


「クルッシュ魔法学園で今、何が起きているか知っているか?」


 シューヤはふるふると首を振った。


「だろうな。元々、期待もしていなかったが」


 無理もないとはセピスも思う。王室騎士として白き外套を与えられたシューヤだが、新しい毎日は目を回すぐらいの速度で通り過ぎているのだろう。それにクルッシュ魔法学園の生徒、教員でさえ、何に巻き込まれているかも分かっていない。


「王室騎士として成長したいなら、力だけではなく、今この国で何が起きているのかに気を配れ。少なくともクルッシュ魔法学園で起きようとしている出来事は、対応を間違えればでかい貴族が一つ、潰れることになるのだからな」


 ハンカチで口元を吹きながら、セピスは言った。


「え……貴族がつぶれる?」

「馬鹿、表情に出すな。どこで誰か見ているか分からない。お前にはまだ分からないだろうが、このダリス王宮には得体の知れない連中がうようよいるのだ」

「ご、ごめんなさい……」

「簡単に頭を下げるな。今後も王室騎士として生きるつもりがあるのならば、王室の剣であることを自覚しろ」

「は、はい」


 王室騎士としての職務は、ダリスの王室を守ること。

 セピスも王室騎士となって理解したが、誰かを守るということは奥が深いものだ。


 守る必要があるという事実は、ダリスの王室には敵がいるということ。敵が強大だからこそ、王室騎士団なんて特別の集団が組織されている。


「セピスさん……それで、今の話。どういうことなんですか」

「クルッシュ魔法学園は昨日から無期限の休止期間となった。運営の再開時期だが、未定だ。どうだ、面白いだろう?」


 シューヤは何とか表情が変わるのを踏み止まった。


「休止って、学園の皆はどこに――」

「ヨーレムの町に待機だ。学園関係者は一人残らず、学園を追い出されたというわけだ」


 上品にパンを口に運びながら、セピスは続ける。


「私たちの母校で何が起きているか、知りたいかシューヤ」

「も、勿論です」


 今は王室騎士として王都に滞在しているシューヤだが、まだクルッシュ魔法学園に部屋を残している。王室騎士としての適性の無さを見抜かれて、魔法学園に送り返される可能性だって十分にあるとシューヤは考えているし、魔法学園での生活を懐かしむことだってある。


「では――今日の鍛錬は中止とする。王都でクルッシュ魔法学園で何が起きているか探ってこい、シューヤ。これもまた王室騎士としての職務だ」


 最後のデザートを貴族らしく、優雅に口に運びながらセピスは言う。


「無論、外套は脱いでいけ。王室騎士だと知られれば、市民も口が堅くなるからな」

 



―――――――――――――――――――――――

次から普通に豚視点。

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