399豚 情報収集

 武器屋に擬態した情報屋、ラッドの店を中心に幾つも店を回り情報を探った。あいつらみたいな存在は街の中に溶け込んで巧妙に隠れているから、中々見つけ出すことは難しい。だけど、真っ黒豚公爵はそりゃあもう黒かったらヨーレムの町で経営を営んでいる情報屋の大半と交流があった。そして俺の記憶に残っている。


『デニングの若様、お、お久しぶりでございます……こんなちんけな店に本日は何用で……?』


 でもラッドのように俺を歓迎した店主は少なかった。

 むしろ、真っ暗豚公爵に脅されていた店が多かったぐらいで、そういう奴らは明らかに俺の来訪に困惑していた。


『うちには、デニングの若様を満足させる情報なんて…………』


 そういう奴等の口を明かせるには、自分が良客だと明かせばいい。

 俺が価値のある情報を提供すると言えば、あいつらはほいほい口を開いた。あいつらが求めている情報は、今、王都で起きている不思議な出来事だった。


『王都の王室騎士ロイヤルナイト、あのセピス・ペンドラゴンが、クルッシュ魔法学園の学生を弟子に取ったと聞きました。デニングの若様は……もしや、その学生が誰かご存じなのでは――?』


 初耳だったけど、きっとそれはシューヤ・ニュケルンのことだろう。女王陛下は見事にサーキスタの大迷宮から帰還したシューヤのことを高く評価している。間違いなく、王室騎士セピス・ペンドラゴンが弟子になったのはシューヤだ。


『セピス・ペンドラゴンは新進気鋭の王室騎士、若手の中では一番の有望株です。ペンドラゴン家の騎士が弟子に取るなんて余程の逸材に違いありません。しかもあの女王陛下が直接、命じたとか――』


 情報屋の連中はこれからシューヤ・ニュケルンが大きく出世すると考えているらしかった。


 だから俺は簡単にシューヤの情報を奴等に与えた。断片的なピース、繋げられる頭があればすぐにシューヤに辿り着くだろう。代わりに俺も幾つかの情報を得た。俺の父上、バルデロイ・デニングがクルッシュ魔法学園にやってきた理由。


『デニングの若様……公爵様がクルッシュ魔法学園にやってこられた理由ですが憶測が飛び交っています。私が持つ情報も嘘か真か……』


 俺の求める情報にバッチリとハマる情報は無かった。

 それでも小さな情報の欠片を繋げていくと、父上が魔法学園で何をしようとしているのか、父上の敵が誰なのかを理解することが出来た。




 情報を探すのに使った時間は丸一日。

 陽が落ちた頃、宿に帰ってくると、一階のロビーで椅子に座って何かを考えこんでいるサンサの姿を見かけた。あいつの傍には無表情のクラウドの姿。


 また便利に使われているのか。クラウドは俺を見つけると助けてくれって視線を送ってきたけどスルー。

 クラウドがサンサに捕まっている間に、俺もやるべきことをやっておこう。


「――シルバ、いるな」


 シルバとクラウドの部屋。ノックをすると中から返事。部屋の中にはシルバとシャーロットがいた。二人は顔を突き合わせて、机の上に置かれた地図を見ていた。何かと思ったらそれはクルッシュ魔法学園の地図だった。

 

「坊ちゃん、お帰り! 満足そうな顔をしてますね。教えて下さいよ。これから何が始まるんすか!?」


 シルバはワクワクが隠せないって顔で、俺を見つめる。隣には不安そうなシャーロットの姿。情報収集のために俺が突然いなくなるのはこの二人にとってはいつものこと。そして、俺が何かを掴んだことも分かっているみたいだった。


 俺は部屋に置かれたふかふかのソファに座って。


「クラウドを待つ。昔もそうだっただろ? 作戦会議は4人で、だ」




―――――——―――――――———————

【呟き】

2020/11/21豚公爵の文庫10巻が昨日、発売いたしました。

これにて文庫版の豚公爵は完結となります。

※ウェブ版は作者の趣味として引き続き、継続予定です。


豚公爵の文庫裏話なんかもこれから呟こうと思うので、良ければツイッターもフォロー下さいませ。https://twitter.com/2He9hvjV6pAP9KB

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